Diversity of “Plays Monk”, Pt. 6: Hal Willner – That’s The Way I Feel Now

真打ちその1。全てのモンクトリビュートものの規範となる素晴らしいアルバムです。

唯一といっていい欠点は、(過去に多くの方が指摘してきたように)「このアルバムがモンク存命中に出なかったこと」という一点だけでしょう。オリジナルのリリースは1984年。モンクがこの世を去った2年後になります。

LP(2枚組)も CD も廃盤。しかも CD は7曲もカットされ、曲順も異なります。今こそ、オリジナルの2枚組LPの全曲による CD 再発を強く希望します。

That's The Way I Feel Now

That’s The Way I Feel Now: A Tribute To Thelonious Monk (A&M SP-6600)

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ハル・ウィルナー。バリエーション豊かなトリビュートアルバムを次々に世に送り出して一躍有名になった音楽プロデューサー。最初の作品である1981年の「Amarcord Nino Rota: Interpretations of Nino Rota’s Music From the Films of Federico Fellini」(ニノ・ロータ作品集)、2作目の本作、そして3作目の1985年「Lost in the Stars: The Music of Kurt Weill」(クルト・ヴァイル作品集)と、そのどれもが、トリビュート対象への深い造詣と、ジャンル混合的、メジャーからマイナー、カルトまでの豊富な人選による多面的な分析と新たな価値の再構築で満たされており、何度聴いても聴き飽きることがない素晴らしい作品です。

その後もディズニーソング、チャールズ・ミンガス、ハロルド・アーレン、チャーリー・パーカー、レナード・コーエンと、バラエティに富む対象へのトリビュートアルバムを精力的に発表し続けています。


本アルバムですが、ジャズ系、ロック系、フュージョン系、アヴァンギャルド系などを絶妙に配置して、全体的に飽きがこない作りになっています。どんなアレンジを施されようと、どんな演奏をされようと、全体から醸し出される強烈なモンク臭。それが逆に、モンクの楽曲の持つ強烈な個性を際立たせているという、モンクトリビュートの鑑 のような作品です。

[That's The Way I Feel Now]
 

Side “M”

A面冒頭の “Thelonious”。フランク・ザッパやキャプテン・ビーフハートなどでの活躍で有名な ブルース・ファウラーBruce Fowler)による、ファンファーレの様なアンサンブル。ウィルナーさんが念頭に置いたのは、御大モンクの1957年の名作「Monk’s Music」の冒頭「Abide With Me」のアンサンブルだったに違いありません。

あの天才ザッパが存命中に、もしモンクの楽曲をアレンジして演奏したらどうなっていたんだろうなぁ、と想像するのも楽しいかもしれません。全くありえないことではありませんよね。

Bruce Fowler (tb, arr),
Phil Teele (b-tb),
Tom Fowler (b),
Chester Thompson (ds).

Recorded at Village Recorders, Los Angeles, CA.
Mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Gary Starr, Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

続いてロック系ライブバンド NRBQNew Rhythm & Blues Quartet)による、意外なほど原曲に忠実な雰囲気をたたえる「Little Rootie Tootie」。あっけらかんと軽やかなイメージではありますが、原曲のファニーなイメージそのままに元気な演奏を聴かせます。後半では、例のディゾナントなブロックコードも聞かれます。

Donn Adams (tb),
Keith Spring (ts),
Terry Adams (p),
Al Anderson (g),
Joseph Spampinato (b),
Tom Ardolino (ds).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

A面3曲目、清涼剤の如く爽やかで、同時に暖かみやメランコリックな雰囲気を讃える「Reflections」は、スティーブ・カーンSteve Kahn)と ドナルド・フェイゲンDonald Fagen)という意外な組み合わせによるもの。シンセからこんなにふくよかな(無機質ではない)音が出せることの驚き、原曲の持つ可能性を最大限に引き出す大胆な音の選びとアレンジ、という意味で、本アルバム収録曲中でも完成度の高さは特筆すべきものがあります。Reflection がこんな美しい曲になるなんて。

Steve Khan (g),
Donald Fagen (synth).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

A面4曲目の「Blue Monk」は、なんと ドクター・ジョンDr. John)によるソロピアノ。セカンドラインなニューオーリンズピアノと、モンク楽曲の融合。この絶妙なブレンド具合は、アラン・トゥーサンAllen Toussaint)による「Bright Mississippi」の見事なファニーさと共通するものがあります。演奏スタイルそのものはまるでモンクから遠いのに、全体の醸し出す雰囲気がしっかりモンクになっている、というアレです。

Dr. John (Mac Rebennack) (p).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

A面ラストの「Misterioso」は付け加えられた荘厳なイントロも秀逸なアレンジで、さすが カーラ・ブレイCarla Bley)、と唸らされる納得の演奏になっています。適材適所なリハーモナイズも心地いいですし、原曲から逸脱しない範囲で遊びが多いところも面白い。

Mike Mantler (tp),
Gary Valente (tb),
Vincent Chancey (frh),
Bob Stewart (tuba),
Steve Slagle (as, bars),
Johnny Griffin (ts),
Carla Bley (org, arr),
Kenny Kirkland (p),
Steve Swallow (b),
Victor Lewis (ds),
Manolo Badrena (perc, special effects),
Hal Willner (the voice of death).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

Side “O”

B面1曲目の「Pannonica」は、バリー・ハリスBarry Harris)によるソロ。原曲ではピアノとセレステによる演奏でしたが、ここではタック・ピアノによって原曲のメランコリックな雰囲気と楽曲の秀逸さがひきたてられています。しかも、モンクが常にそうしていたように、ハリスはこの曲を演奏中に「考えながら」弾いています。モンクへの溢れんばかりの尊敬と愛がストレートに表現された、ジャズらしいジャズといえるでしょう。

バリー・ハリスといえば、1991年のモンクのドキュメンタリー「American Composer」で、モンクが「Lulu’s Back In Town」を2時間もかけて丁寧に練習しているのをじっと目撃した、というエピソードを興奮気味にインタビュアーに話すシーンが印象的でした。

Barry Harris (tack piano).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

B面2曲目の「Ba-Lue-Bolivar Ba-Lues-Are」は、なんとあの Was (Not Was) による演奏です。ヘヴィーなトーンの演奏と、素っ頓狂な印象すら与える女性ヴォーカルによる不思議なメロディラインのミックスが、原曲以上のドロドロした雰囲気を醸し出し、スリル満点です。

Marcus Belgrave (tp),
Jarvonny Collier (tb),
David McMurray (as),
Michael Ward (ts),
David Was (fl),
Don Was (g, synth, arr),
Larry Fratangelo (perc),
Sheila Jordan (vo),
Sweet Pea Atkinson (back vo),
Harry Bowens (back vo),
Carol Hall (back vo),
Donald Ray Mitchell (back vo).

Recorded at Sound Stuite, Detroit, MI
and Mediasound Studios, NYC.
Mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Don Was, Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

ハル・ウィルナーの盟友 マーク・ビンガムMark Bingham)による「Briliant Corners」の持つこの不思議なフィーリングをどう表現したらいいのでしょう。ロック的なビートによるエレキギターアンサンブルなのに、不思議なベースラインによるピコピコ系な雰囲気まで醸し出され、この難曲が別の表情を持つに至っているのは秀逸です。

Mark Bingham (g, arr),
Brenden Harkein (g),
John Scofield (g),
Steve Swallow (b),
Joey Barron (ds).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

B面4曲目の名曲「Ask Me Now」は、モンクの楽曲に生涯をかけて取り組んだ孤高のアーティスト スティーブ・レイシーSteve Lacy)と、後期のモンクの相棒 チャーリー・ラウズCharlie Rouse)によるデュオ。モンクの楽曲を知り尽くした二人、モンクへの敬愛の念が溢れんばかりの二人による、感涙を誘うジャズらしい良い演奏です。

Steve Lacy (ss),
Charlie Rouse (ts).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

B面ラストの「Monk’s Mood」。このきっての名曲が、シャロン・フリーマンSharon Freeman)のアレンジにより、フレンチホルン5本によるアンサンブルとして新たな生を受けました。この曲はこういうアレンジでもイケるんだ、という驚きは、本曲のアレンジがグラミー賞でノミネートされたという事実を知ると納得させられるものがあります。

Sharon Freeman (frh, celeste, arr),
Willie Ruff (frh),
Vincent Chancey (frh),
Bill Warnick (frh),
Gregory Williams (frh),
Kenneth Barron (p),
Buster Williams (b),
Victor Lewis (ds, perc).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

Side “N”

C面冒頭のこの「Four In One」。これぞ本アルバムのハイライトの1つでしょう。トッド・ラングレンTodd Rundgren)が自由奔放なセンスでアレンジしたこの曲は、まるで昔のゲームセンターのチープなピコピコサウンドとモンクを合体させたかのよう。それがまたモンクの楽曲のもつユーモアさやおかしみ、シリアスさ、アナーキーさなどの絶妙なブレンドの新しい表現になっているというか、原曲から遠いはずなのに、やっぱりモンクの楽曲そのものでしかない、というか。こういう演奏が間にぽつんと入って存在感を主張できるというのが、オムニバスという形態の強みでしょうね。「魔法使いは真実のスター」のボーナストラックに入れても違和感がないほど、最高です。

Todd Rundgren (synth, keyboards, g, drum machines, arr),
Gary Windo (as).

Recorded at Utopia Studio, Bearsville, NY
and Mediasound Sudios, NYC.
Mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Todd Rundgren, Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

先程のバリー・ハリス以上にモンクにぞっこんで、モンク(とエリントン)を音楽的出発点とした天才的ジャズミュージシャン ランディ・ウェストン。ここではモンクらしい楽曲「Functional」をがっつり骨太に聴かせてくれます。ウェストン大好きなわたし的にはたまらない演奏です。

Randy Weston (p, arr).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

C面3曲目、再びスティーブ・レイシーが登場、今度は エルヴィン・ジョーンズElvin Jones)という大物を迎えてのデュオです。「Evidence」という不思議なリズム感を持った楽曲を、あのエルヴィンのドラミングがどう表現しているかが聞き所となります。

Steve Lacy (ss),
Elvin Jones (ds).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

そして本アルバムの真の白眉、ジョン・ゾーンJohn Zorn)によるあの隠れ名曲「Shuffle Boil」(CD未収録)。ジョン・ゾーンワールド全開のアヴァンギャルドでぐちゃぐちゃなアレンジも最高ですし、ここまで原曲をズタズタに破壊して完全に再構築していても、やっぱりあっちこっちからモンク臭が漂う、という面白さには、格別のものがあります。

個人的には、ジョン・ゾーンが全曲モンク・トリビュートのアルバムを作ったらどうなるんだろう、と想像を膨らませるのが楽しくてたまりません。ちなみに5歳の娘はこの演奏が大のお気に入りになりました(笑)

John Zorn (game calls, as, cl, arr),
Arto Lindsay (g, vo),
Wayne Horvitz (p, org, celeste, electronics),
M.E. Miller (ds, timpani).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

ジョン・ゾーンによる衝撃的なトラックの次、C面5曲目は、意外なほどストレートアヘッドな「In Walked Bud」の演奏(CD未収録)。A-2 で登場した NRBQ のピアニスト、テリー・アダムスTerry Adams)がリーダーとなっていますが、フロントにはあの ロズウェル・ラッドRoswell Rudd)と パット・パトリックPat Patrick)というフリー系からの人選。そのバックを支えるのは、中期のモンクカルテットを支えた名人、ジョン・オレJohn Ore)と フランキー・ダンロップFrankie Dunlop)。ハル・ウィルナーさんらしい人選です。

フリージャズなミュージシャンは、本当にモンクが好きで良く演奏されるのですが、そのどれもこれも、とっても実直な演奏が多くて全然フリーじゃないように聞こえてしまうというのが興味深いです。楽曲構造としてはフリージャズとは異なるけれども、演奏のアティチュードとしてはフリーに通じる、ってことなんでしょうかね。

Roswell Rudd (tb),
Pat Patrick (as),
Terry Adams (p),
John Ore (b),
Frankie Dunlop (ds).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

暗雲と降雨、雷のサウンドエフェクトに続いて伝説のバンド、ショッカビリーShockabilly)による「Criss Cross」が登場(CD未収録)。どこまでも音響的、ノイズ的な Criss Cross、聞き応え満点です。ショッカビリー最高!

Eugene Chadbourne (g, el-g),
Mark Kramer (p, org, b, a-tb, Dad's clocks, tapes),
David Licht (ds, perc).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

C面最後を飾るのは、B-3 に続いて再び登場の マーク・ビンガム 率いるバンドの「Jackie-Ing」(CD未収録)。とってもロックぽいリズム隊の上で、原曲のもつ魅力が最大限に表現されています。

David Buck (tp),
Don Davis (cl),
Mars Williams (cl, ts),
Ralph Carney (bs, whistle),
Mark Bingham (g, arr),
Brenden Harkein (g),
John Scofield (g),
Steve Swallow (b),
Joey Barron (ds).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

Side “K”

D面1曲目の「‘Round Midnight」は、ジョー・ジャクソンJoe Jackson)率いるアンサンブルによる瑞々しい演奏。B-5 のシャロン・フリーマンが指揮するストリングスをバックに、極めて都会的な ‘Round Midnight を聴かせます。アルバム全曲がこういうアレンジだとダレてしまいそうですが、清涼剤的にオムニバスに組み込まれることにより、その存在価値はぐっと高まります。

Lawrence Feldman (cl),
Steve Slagle (cl),
Ken McIntyre (b-cl),
Joe Jackson (p, arr),
Melanie Baker (vln),
Sandra Billingsles (vln),
Karen Gilbert (vln),
Cheryl Hong (vln),
Stan Hunt (vln),
Crystal Garner (viola),
Maxine Roach (viola),
Muneer Abdul Fataah (cello),
Bob Cranshaw (b),
Buddy Williams (ds),
Sharon Freeman (cond),
Jerry Little (concertmaster).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

D面2曲目はヴォーカリーズによる「Friday The 13th」(CD未収録)。ボビー・マクファーリンBobby McFerrin)と ボブ・ドローBob Dorough)という意外な組み合わせもいいですし、なによりウキウキ楽しそうな「13日の金曜日」になってるのが面白い。

Bobby McFerrin (vo),
Bob Dorough (vo),
Dave Samuels (vib, marimba, additional perc).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

D面3曲目の「Work」。これまた痛快な再構築で、クリス・スペディングChris Spedding)と ピーター・フランプトンPeter Frampton)のツインギターによる、極めてロック的などっしりしたアレンジが新鮮です。リズムセクションの人選も笑ってしまう程ステキで、ベースにあの マーカス・ミラーMarcus Miller)、ドラムスは名人芸のセッションミュージシャン アントン・フィグAnton Fig)という涎が出そうなラインアップ!

Chris Spedding (g, arr, concept),
Peter Frampton (g),
Marcus Miller (b),
Anton Fig (ds).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

D面4曲目は、みたび登場の スティーブ・レイシー。今度はソプラノサックスソロで、「Shuffle Boil」と並びマイナーな「Gallop’s Gallop」(CD未収録)を披露。フレージング、ハーモナイズ、リズム感、どれをとっても御大モンクから最も遠いところにあるのに、やっぱり一番ユニークなモンク演奏になっているという、レイシーの本領発揮です。この人は本当に凄い。

Steve Lacy (ss, arr).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

続く「Bye-Ya」(CD未収録)は、A-5 や D-1 にも登場した スティーブ・スレイグルSteve Slagle)のリーダー名義で彼がアレンジャーですが、全体のムードを規定しているのは間違いなく ドクター・ジョン のニューオーリンズピアノと、エド・ブラックウェルEd Blackwell)のセカンドラインなドラムスでしょう(エド・ブラックウェルさんもニューオーリンズ出身でしたね)。みたび登場の スティーブ・スワロー のベースも独特の浮遊感たっぷりなスペイシーな音色でバックから独特のカラーを付加しています。

Steve Slagle (as),
Dr. John (Mac Rebenack) (p),
Steve Swallow (b),
Ed Blackwell (ds).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 

オーラスは、またまた登場の スティーブ・レイシー 氏が、ギル・エヴァンスGil Evans)とデュオによる「Bemsha Swing」で締めくくられます。ソプラノサックスとエレピという軽い音で構成されているはずなのに、どこまでもヘヴィー。ギルが適材適所で繰り出す和音はどこまでもスリリング、それにふわふわと絡むレイシー。そしてエンディング、唐突に訪れるアコースティックピアノのパーカッシブな低音。短すぎて、もっと聴いていたいと思わされます。

Steve Lacy (ss),
Gil Evans (p, el-p).

Recorded and mixed at Mediasound Studios, NYC.

Producer: Hal Willner
Recording/mixing engineer: Doug Epstein
Mastering engineer: Greg Calbi at Sterling Sound, NY
 
 

繰り返しになりますが、本アルバムは企画、プロデュースの勝利で、素材としてのモンク、可能性としてのモンク(ってもはや陳腐な言い回しかもしれませんが)、挑むべき対象としてのモンク、といった、多方面のベクトルからモンク楽曲の魅力を照らし出すことに成功した名盤といえます。

同時代を過ごし、一緒に演奏したり、憧れや畏怖など特別な感情を持って過ごしたジャズミュージシャンによる演奏は(スティーブ・レイシーを除いて)若干感傷的なトーンが前に出ているのに対し、ロック系、アヴァンギャルド系なミュージシャン達は、もう笑ってしまうくらいにあっけらかんと、原曲、オリジナル演奏の持つ雰囲気をグチャグチャにおもしろおかしくかき乱し、それでもなおモンクになっている、ほら、こんなモンクも面白いでしょ?と意外性に満ちた提案になっている。

私がこのアルバムを最初に中古 LP で買ったのは確か1990年頃。聴き込みすぎたせいなのか、プレス品質が芳しくないためなのか、はたまた当時使っていたレコードクリーナーのせいなのか(どうも今回の場合は後者が正解のようです)、耳障りなサーフェスノイズが多めになってしまいました。そこで10年以上たったのち、シールド未開封盤を探し出して購入し、今に至ります。

初めて聴いた時はトッド・ラングレンの「Four In One」も、ジョン・ゾーンの「Shuffle Boil」も、スティーブ・レイシー絡みの数曲も、全然良さが分からないヒヨッコでしたが、今となっては全アルバムの全曲がいとおしくて仕方ありません。この20年〜30年で、あんなジャンルこんな時代と次々に触手を伸ばしてきた成果なのかなぁ、と、極私的な感慨すら覚えてしまいます。

 
 

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