レコードの音を決めているのはEQカーブかマスタリングか — 信号チェーン全体の視点から

最終更新: 2026年4月8日 読了時間の目安: 約4分

EQカーブとマスタリング、どちらが音を決めるのか?

このページで答える問い: レコードの最終的な音を決めているのは、EQカーブなのか、それともマスタリング全体なのか。



EQカーブは、信号チェーンの一要素に過ぎない

レコードに刻まれた音は、録音からカッティングまでの長い信号チェーンの結果です。 EQカーブの3つのパラメータ(ターンオーバー、高域プリエンファシス、ベースシェルフ)は、 このチェーン全体のうちのひとつにすぎません。

録音からカッティングまでの信号チェーンには、たとえば以下のような要素が含まれます:

  1. マイクロフォンの選択と配置 — 機種によって周波数特性が異なる
  2. ミキシングコンソール — チャンネルごとのEQ、パン、レベル調整
  3. テープレコーダの録音特性 — テープの種類、録音速度、バイアス設定
  4. テープ再生時の特性 — 再生ヘッドの状態、アジマス調整
  5. カッティング用イコライザ — ここにEQカーブの設定がある
  6. カッターヘッドの特性 — 機種ごとに異なる周波数応答
  7. カッティング時の追加処理 — ローパスフィルタ、リミッタなど

EQカーブは、この中の項目5にあたります。


同じカーブでも、音が違う

同じ時代の同じレーベルであっても、エンジニアやスタジオが異なれば、 レコードの音は大きく異なります。

これは当然のことです。 上記の信号チェーンのうち、EQカーブ以外の要素がすべて異なるからです。 EQカーブが同一であることは、最終的な音が同一であることを保証しません。


録音テープとカッティング用テープの音はすでに違う

レコードのカッティングに使われるテープは、 録音現場のマスターテープそのものではないことが多くあります。 カッティング用に音圧や帯域バランスが調整されており、 マスターテープとは異なる音になっています。

このことは、CDリイシューで実際に聴き取ることができます。 同じアルバムでも、カッティング用テープからマスタリングされたCDと、 もとのマスターテープからマスタリングされたCDでは、 音の感触が大きく異なるケースが少なくありません。

ここで重要なのは、カッティング用テープにはディスク録音EQ(RIAAなど)が施された音は入っていないという点です。 テープを再生しながら、ディスク録音EQを通してカッティングアンプに送り込み、 そこではじめてEQが施された音がディスクに刻まれます。

つまり、CDリイシューで聴き取れるカッティング用テープとマスターテープの音の違いは、 ディスク録音再生EQとは無関係であり、エンジニアによる「音作り」の結果です。 言い換えれば、レコードに刻まれた音はEQカーブの適用以前に、 すでにマスターテープとは別の音になっている可能性があるということです。

(→ Pt.24 を参照)


逆に、カーブが違っても差がわずかなケース

Columbia LP カーブと RIAA カーブの差は、 Columbia 自身の内部文書によれば、 製造上のばらつき(盤ごとの個体差)よりも小さかったと結論づけられています (筆者個人としては少々納得しづらいところもありますが……)。

つまり、「カーブの名前が違う」ことが、 必ずしも「聴感上の大きな違い」を意味するわけではありません。


カーブの「正解」を探すことの限界

EQカーブの3パラメータだけを変えて「正しい音」に到達しようとすることは、 信号チェーン全体のうちの1要素だけで最終結果を制御しようとすることに等しく、 原理的に限界があります。

このことは、EQカーブの歴史を学ぶ価値を否定するものではありません。 むしろ、録音の歴史とはEQカーブだけの歴史ではなく、 録音技術全体の歴史であることを示しています。

EQカーブを変えると音の違いは聴こえるのか?

フォノEQカーブの歴史:ざっくり版


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変更履歴

  • 2026年4月8日: 初版公開