サファイア・グループとは何か — 録音技術の秘密主義を打ち破り、標準化への道を開いた会合

最終更新: 2026年4月8日 読了時間の目安: 約5分

「サファイア・グループ」とは何か?

このページで答える問い: レコード産業の標準化に貢献した「サファイア・グループ」とはどのような組織だったのか。



秘密主義の時代

1940年代初頭まで、レコード産業の録音技術は各社の門外不出でした。

録音に使うカッターヘッドの特性、溝の形状、スタイラスの仕様など、 技術情報が企業間で共有されることはほとんどありませんでした。 AES の歴史委員会委員長 Donald J. Plunkett はこう記しています。

これらの物資不足の厳しい時期まで、企業経営陣間のコミュニケーションはほとんどなかった。音声録音は企業の閉鎖社会だった。……Victor は Columbia に教えなかった。配給制と物資不足が協力を強いるまでは、秘密主義が支配していた。必要こそが発明の真の母となった。


物資不足が生んだ協力

1942年頃、第二次世界大戦の影響で録音に不可欠な物資が不足し始めます。

レーベル各社は存続の危機に直面しました。 この状況下で、ふだんは競合関係にある各社の録音エンジニアたちが 小規模な会合を開くようになり、 ラッカー盤や真空管の余剰分を互いに融通し合うようになります。


ニューヨーク・サファイア・グループの成立

会合の起源は、Frank L. Capps and Co. の W.H. Rose、 NBC録音部門の G.E. Stewart、 Columbia Recording Corporation の Vincent Liebler の3人による 1940年代初頭のランチ会合にさかのぼります。

やがてこの集まりは毎月第三水曜日に ニューヨークのアトランティック・クラブで開かれる夕食会へと発展し、 録音針の材質にちなんで「サファイア・グループ」(または「サファイア・クラブ」)と名付けられました。

当初は物資の融通や親睦が主な目的でしたが、 非公式な技術情報の交換も自然と行われるようになります。


ハリウッド・サファイア・グループ

1946年2月13日、ハリウッドのコロンビア・スクエアにある Brittingham's Restaurant で、西海岸の録音エンジニア8名が ハリウッド・サファイア・グループの第1回会合を開きました。

ハリウッドのグループは、ニューヨークよりも技術的な議論に重点を置くようになります。 2年後の1948年3月には会員が50名に達し、 録音標準規格委員会と3つの小委員会が設けられました。

Altec-Lansing のチーフエンジニア John Hillard が録音標準規格委員会の委員長に選出され、 以下のようなテーマが議論されました。


秘密主義の崩壊

サファイア・グループの活動がもたらした最も重要な変化は、 録音技術の情報公開が進んだことです。

1946年11月、Electronic Industries 誌に2つの記事が並んで掲載されました。 CBS のチーフエンジニア Howard A. Chinn による "Disc Recording" と、 Frank L. Capps and Co. の Isabel L. Capps による "Recording Styli" です。

いずれも、それまで企業秘密とされてきた商業レコード製造の技術情報を公開するものでした。 同誌の編集者はこう注記しています。

この記事で Chinn 氏は、対面の記事で Capps 社が企業秘密を開示したことが、 他社にも同様の情報公開を促し、 業界全体の標準規格の確立につながることを望んでいる。 各メーカーがそれぞれ好き勝手を続ける限り、 ディスク録音は一人前にはなれないのだから。


AES の設立とEQカーブ標準化へ

サファイア・グループの精神と人脈は、 1948年の Audio Engineering Society(AES)設立へと直接つながります。

Plunkett はこう記しています。

この企業間の友好関係は機能し、サファイア・グループの理念は もう一つの主要な録音拠点であるハリウッドにも広がった。 新しいコミュニケーションネットワークの核が形成・維持され、 それがまさに AES の礎となった。 AES は、戦時中のサファイア・グループの会合から生まれたのである。

サファイア・グループで議論された溝の形状やスタイラスの規格は、 1949年の NAB 規格に取り込まれ、 さらに1953年の NARTB 規格、1954年の RIAA 規格へと受け継がれていきます。 メンバーの多くが NAB 標準規格委員会や AES 標準規格委員会にも参加しており、 サファイア・グループは録音技術の標準化という大きな流れの出発点でした。

RIAA カーブはいつ策定されたか?

なぜ RIAA が標準になったのか?

詳しくは → Pt.16


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変更履歴

  • 2026年4月8日: 初版公開