米国の主要レーベルがいつRIAAカーブに移行したか — 確認できる資料に基づく一覧
各レーベルはいつ RIAA カーブに切り替えたのか?
このページで答える問い: 米国の主要レーベルは、いつ RIAA 録音特性への移行を完了したのか。
前提:移行は一夜にして起きたわけではない
RIAA 規格が策定されたのは 1954年1月ですが、 各レーベルが翌日から一斉に切り替えたわけではありません。 移行に時間がかかった主な理由は2つです。
- 製造済み在庫: 旧カーブでカッティングされたスタンパーからのプレスが在庫として残り、市場に流通し続けた
- 機材更新のコスト: カッティング用イコライザは固定特性であり、全施設の機器を更新するにはコストと時間がかかった。テストカッティングによる計測・微調整も必要だった
また、RCA Victor と Capitol は RIAA 策定前からRIAAと同一の録音特性を使用していたため、 「移行」自体が不要でした。
主要レーベルの移行時期
以下は、一次資料(業界誌の記事、エンジニアの証言、社内文書など)から確認できた情報に基づく一覧です。
| レーベル | 移行時期 | 根拠 |
|---|---|---|
| RCA Victor | 1952年頃〜(移行不要) | New Orthophonic 録音特性 = RIAA と同一。1952年頃に採用開始 |
| Capitol | 1953年夏頃〜(RIAA策定前に同一特性を採用済み) | 旧AESカーブから New Orthophonic = RIAA に切替。1954年中に完了と推定 |
| Columbia | 1954年8月時点で半数未満が移行済み。1955年前半、遅くとも1955年後半に完了と推定 | Billboard 1954年8月記事:「全設備の移行完了はまだ半年先」。Bachman 社内文書(1955〜56年頃)も移行を裏づけ |
| Mercury | 1954年頃 | チーフエンジニア C. Robert Fine 氏が RIAA 採用の意向を表明(Radio & Television News 1954年7月号)。なお、最初期のLP(1949年頃、Reeves Sound Studios でカッティング)は NAB または Columbia LP カーブと推定され、1951〜52年頃に AES へ移行している |
| London(英 Decca) | 1954年前半 | A&R ディレクタ Remy van Wyck Farkas 氏:「数ヶ月前から RIAA を使用」(High Fidelity 1954年6月号) |
| 米 Decca | 1955年頃(比較的遅い) | NABカーブからの移行。1955年11月頃まで NAB だったとの説あり |
| MGM | 1954年後半頃(詳細は不明) | 移行前カーブは 500N-12(Old Orthophonic のターンオーバー・ベースシェルフ + AES の高域ロールオフ)との説が有力だが諸説あり。1954年後半に移行完了との説が主流 |
| Westminster | Columbia に準ずる | テープを Columbia に送付し、カッティング・プレスを委託。Columbia の移行に連動。ただし一部は RCA Victor にカッティング・プレスを委託。Old Orthophonic または New Orthophonic でのカッティングとなるが、ジャケットには AES カーブで再生するよう記載されている |
独立系スタジオ
| スタジオ / エンジニア | 主な顧客レーベル | 移行時期 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| Rudy Van Gelder | Blue Note, Prestige, Impulse! 等 | 1955年初頭 | 1955年初頭に RIAA 録音特性の機材(Gotham PFB-150WA)を導入。1955年10月の寄稿記事で本人が RIAA 使用を明言 |
| Capitol 委託の独立系 | Contemporary, Good Time Jazz 等 | 1953年秋頃〜 | Capitol のカッティング設備を使用するため、Capitol の移行に準ずる |
| Columbia 委託の独立系 | 各社 | Columbia に準ずる | Columbia のカッティング設備を使用 |
| RCA Victor 委託の独立系 | 各社 | 1952年頃〜 | RCA Victor のカッティング設備を使用 |
1958年:ステレオLPで事実上の完了
1958年にステレオLPが登場すると、カッティング機材は RIAA を前提に設計されていたため、 ステレオ盤の制作においては RIAA 以外のカーブを使用する余地はありませんでした。
補足:テストレコードからの裏づけ
プロフェッショナル向けの周波数特性テストレコードも、RIAA 移行を裏づける資料のひとつです。
RIAA 規格策定前には、NAB カーブ、ffrr カーブ、Columbia LP カーブなど、さまざまなカーブでカッティングされたテストレコードが存在していました。しかし、ステレオLP登場の頃には、RIAA カーブ(またはRIAA から高域プリエンファシスのみを抜いた特性)によるテストレコードしか確認されていません。
詳しくは → Pt.21
(→ 信頼できるEQカーブの資料はあるか? — テストレコードを含む資料の概要)
補足:この表の読み方
この表は、筆者が確認できた一次資料に基づくものです。 すべてのレーベル・すべてのプレスを網羅するものではありません。
特に、独立系の小規模スタジオの中には、 資金不足から旧機材を継続使用したケースがあった可能性があります。 これらの記録は残されていないことが多く、正確な移行時期は不明です。
また、モノーラル時代の独立系レーベルの中には、 同時期に複数のマスタリング・プレス工場に委託していた例があります。 自社でカッティングしてプレスのみを外注した例、 テープを送ってカッティングとプレスの両方を委託した例など、 形態も混在しており、全体像の把握はますます難しくなっています。 こうした事情から、同じレーベル・同じカタログ番号であっても、 盤ごとに異なるカーブでカッティングされている可能性があります。
詳しくは → Pt.20
変更履歴
- 2026年4月8日: 初版公開