LPレコードは誰が発明したのか — 「ゴールドマークの発明」では語れない3人の貢献と、食い違う証言の読み方

最終更新: 2026年4月8日 読了時間の目安: 約6分

LPレコードは誰が発明したのか?

このページで答える問い: LPレコード(33⅓回転・長時間再生盤)の発明者は誰か。なぜ複数の名前が挙がるのか。



答え:「発明者」はひとりではない

LPレコードの開発は、ひとりの天才による発明ではなく、複数の人物がそれぞれ異なる役割を果たした組織的なプロジェクトでした。特に重要な貢献をしたのは以下の3人です。


Peter Goldmark(CBS研究所)

CBS研究所の技術者で、LPプロジェクトの責任者として知られています。カラーテレビの開発者でもあり、自叙伝のタイトルに「異端の発明者」(Maverick Inventor)を冠した人物です。一般にはLPの発明者として紹介されることが多く、LP開発の「顔」として最もよく知られています。

CBSがLP開発に資金を投じた背景には、親会社CBSと子会社Columbia Recordsの関係があります。Columbia Records側が当初開発を辞退した際、CBS本社が開発費の予算を出しました。その際、成功してColumbia Recordsが採用するなら開発費を請求すると伝えています(実際に請求されたかどうかは不明です)。


William Bachman(Columbia Records 研究部長)

Columbia Recordsの電子工学・研究部門ディレクター。公式にはGoldmark を筆頭とするプロジェクトでしたが、Bachman 自身のインタビューによれば、Goldmark はテレビ開発に多忙であったため LP 開発の日常的な運営は Bachman に委ねられていました。つまり、技術面での実質的なリーダーシップは Bachman がとっていた可能性があります。

Bachman は、Jim Hunter(主にヴァイナル素材開発に貢献)、Ike Rodman(後述のセーフティマスターからLPマスターへのトランスファーシステム開発に貢献)、René Snepvangers(主に軽量ピックアップ改良に貢献)らと共同で開発を進めました。Bachman 自身の主な貢献は以下の通りです:

ビニール素材の採用は、音質の向上だけでなく、レコード産業のビジネスモデルにも影響を与えました。シェラックは割れやすく郵送には不向きでしたが、ビニールは割れにくいため、レコード・クラブ(通信販売)というビジネスモデルが実現可能になりました。


Edward Wallerstein(Columbia Records 社長)

Columbia Recordsの経営者。LP開発の戦略的ビジョンを持ち、プロジェクト全体の方向性を決定した人物です。

Wallerstein の最も重要な判断は、1939年に下されました。すべての新規録音について、通常のプレス用マスターに加えて、16インチ・33⅓回転のラッカー盤で安全複製(セーフティコピー)を同時に作成するよう指示したのです。

この判断は、当時としては先見的なものでした。1948年にLPが発売された際、Columbia は膨大なバックカタログをすぐにLP化できるという競合他社に対する決定的な優位を持っていたからです。


そのほかの貢献者

上記のほかにも、録音エンジニアの Bill Savory、Vin Liebler、プロデューサーの Howard Scott など、多くの人物がLP開発に関わっています。LP開発は組織的なプロジェクトであり、ここに挙げた名前がすべてではありません。


食い違う証言

LP開発をめぐっては、複数の当事者が異なる説明を残しています。以下はその主な例です。

Wallerstein の回想(1967年): Goldmark は「監督者」にすぎず、技術的な仕事はしていなかったと述べています。

Goddard Lieberson の紹介(1948年): Columbia Records 副社長であった Lieberson は、Goldmark がLPの中核的研究を行ったと紹介しています。

Goldmark の自伝(1973年): 1945年にレコードの収納スペースに不満を感じたことがLP開発のきっかけだったと記しています。

Goldmark のインタビュー音源(1970年): Scientific American 誌編集長 Gerald Piel によるインタビューで、Goldmark は初期の実験録音(ベートーヴェン弦楽四重奏第15番、ガーシュイン「パリのアメリカ人」など)について非常に詳細に語っています。LP開発の技術的な進展を、当事者として具体的に把握していたことがうかがえます。

Bachman のインタビュー(1977年): Goldmark はテレビ開発に多忙で、LP開発の日常的な運営は自分に委ねられていたと述べています。「彼は私より上位でしたから、プロジェクトは彼のもので、私は協力者でした。しかし、LP開発を日々動かすことを彼は私に任せたのです」と語っています。

William Stanton の記述(1994年): Goldmark が革新的な役割を果たしたとする一方で、Wallerstein を「融通が利かない」人物と表現しています。


これらの証言をどう読むか

これらの証言が食い違っているのは、それぞれの当事者が自分の立場や記憶に基づいて語っているためです。口述筆記や自叙伝には、意図的な強調や記憶の再構成が入り込む余地もあります。

LP開発は数年にわたるプロジェクトでした。監督者、技術者、経営者は、それぞれ異なる場面で異なる役割を果たしています。誰がプロジェクトの中心であったかは、語る人の立場によって異なります。

筆者の見解としては、一次資料(当時の文書、証言、技術記録)はどれも「事実と、立場や記憶による歪みが混在している」と考えるのが妥当です。ひとつの証言だけを根拠にするのではなく、複数の資料を突き合わせて読むことが必要です。

詳しくは → Pt.11Pt.12


関連ページ


FAQ トップに戻る

変更履歴

  • 2026年4月8日: 初版公開