「回転数競争」とは何か — Columbia LP vs RCA Victor 45回転の経緯と決着、EQカーブとの関係

最終更新: 2026年4月16日 読了時間の目安: 約6分

「回転数競争」(Battle of the Speeds) とは?

このページで答える問い: 1940年代末に起きた LP と45回転盤の「回転数競争」とは何か。どう決着したのか。EQ カーブとどう関係するのか。



概要

「回転数競争」(The Battle of the Speeds) は、1948年〜1950年頃に米国レコード業界で起きた、新しいレコードフォーマットをめぐる競争です。Columbia の 33 1/3回転 LP と RCA Victor の 45回転盤が、従来の78回転盤の後継の座を争いました。

結果として、LP がアルバム用、45回転盤がシングル用という棲み分けで決着しました。技術的優位性ではなく、市場の用途に応じた分業が解決策でした。


発端: Columbia LP の登場

1948年6月18日、Columbia Records は、ニューヨークの Waldorf-Astoria Hotel で 33 1/3回転 LP (Long Playing Microgroove) レコードを正式発表しました。10インチ盤と12インチ盤があり、従来の78回転シェラック盤と比較して、片面あたりの収録時間が飛躍的に伸びたことが最大の特徴でした。

Columbia は発表に先立ち、ライバルである RCA Victor にもこの技術のライセンスを提案していました。しかし、RCA はこれを断りました。

ONE RECORD HOLDS ENTIRE SYMPHONY: New long-playing 12-inch disk contains 45 minutes of music
LIFE 誌 1948年7月26日号 pp.39-40 が伝えた Columbia LP 登場の記事。「1枚のレコードがシンフォニー1曲を収める」

→ Columbia LP 登場の詳細は ブログ記事 Pt.11


RCA Victor の応答: 45回転盤 "Madame X"

Columbia LP の発表後、業界内では「RCA Victor が独自の新フォーマットを準備している」という噂が広がりました。

1949年1月9日、Columbia は7インチ 33 1/3回転盤(78回転シングルの代替を狙ったもの)を発表。その翌日の 1949年1月10日、RCA Victor は開発コードネーム「Madame X」と呼ばれていた 7インチ45回転盤と専用オートチェンジャーを正式に発表しました。

RCA Victor の45回転システムは、長時間再生ではなく、コンパクトなオートチェンジャーによる高速な連続再生を売りにしていました。大きなセンタースピンドル穴により、チェンジャー機構を小型化でき、盤のプレスに必要な原料(ヴァイナル化合物)も削減できるという利点が主張されました。

RCA-Victor Unveils New Disks, Denying It Is in a 'Trade War'
The New York Times 1949年1月11日号 p.29「RCA-Victor Unveils New Disks, Denying It Is in a 'Trade War'」。左が Columbia の7インチ 33 1/3回転盤、右が RCA Victor の7インチ 45回転盤

→ RCA Victor 45回転盤の技術的背景は ブログ記事 Pt.13


各レーベルの対応

Columbia と RCA Victor の間で火蓋が切られた「回転数競争」に対し、他のレーベルは慎重に状況を見守りました。

時期 レーベル 対応
1949年1月 Mercury LP 陣営に参入。Columbia 以外で最も早い参入の一つ
1949年2月 Capitol 45回転陣営に参入(プレスは当初 RCA Victor に委託)
1949年7月 3大レーベル Columbia・RCA Victor・Decca の和平交渉が決裂
1949年8月 Decca LP を選択
1949年8月 Capitol LP も全面導入。3スピード対応の最初のレーベルとなる
1950年4月 RCA Victor 33 1/3回転 LP のリリースを開始
1950年8月 Columbia 45回転盤のリリースを開始

多くのレーベルは、アルバム(特にクラシックの長尺作品)の代替としては当初から LP を選択していました。78回転盤のバインダーアルバムを1枚のディスクに収められる LP の優位性は明白だったためです。

→ 各レーベルの参入状況の詳細は ブログ記事 Pt.14


決着: 棲み分け

「回転数競争」は、どちらか一方が勝つ形では終わりませんでした。

1950年に RCA Victor が LP リリースを開始し、Columbia が45回転盤リリースを開始したことで、LP はアルバム用、45回転盤はシングル用という棲み分けが定着しました。Columbia の7インチ 33 1/3回転盤は1951年頃に静かに姿を消し、RCA Victor の45回転アルバム(複数枚組のボックスやバインダーセット)も1950年代半ばにはほぼ消滅しました。

技術的にどちらが優れていたかではなく、それぞれのフォーマットが異なる市場ニーズに対応したことが、この決着の本質です。


EQ カーブとの関係

「回転数競争」は、EQ カーブの歴史とも密接に関係しています。

Columbia LP は Columbia LP カーブを使用しました。 この録音カーブは、1942年 NAB カーブと類似した特性を持っていました。

RCA Victor の45回転盤は Old Orthophonic カーブを使用しました。 この録音カーブは、RCA Victor が当時78回転盤にも使用していたもので、のちの New Orthophonic(すなわち RIAA)カーブと基本的に似ていますが、低域のベースシェルフがなく、高域にローパスフィルタが適用されている点が異なります。

つまり、回転数競争の時代には、フォーマットだけでなく EQ カーブも統一されていなかったということです。この混乱が、業界全体での EQ カーブ標準化(RIAA)を求める声を強める一因にもなりました。

なお、のちに RCA が Old Orthophonic から New Orthophonic へ移行した際の設計思想については、RCA の R.C. Moyer が明確に記録を残しています。Moyer 1957 によれば、New Orthophonic は「新たなカーブをもう一つ増やすため」に作られたのではなく、当時一般的に使われていた複数のカーブの望ましい特徴を一つの特性にまとめること を目的としていました。もっとも大きな変更点は低域側にあり、旧曲線で見られた 1 オクターブあたりわずか 6dB を少し上回るロールオフを取り除き、低域をより滑らかに扱えるようにしたとされます。

RIAA 以前にはどんなカーブがあったか?

RIAA カーブはいつ策定されたか?



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変更履歴

  • 2026年4月14日: 図版を追加
  • 2026年4月12日: New Orthophonic の設計思想(Moyer 1957)を追記
  • 2026年4月8日: 初版公開

MATSUBAYASHI 'Shaolin' Kohji <shaolin@rhythmaning.org>