1950年代の名物コーナー「Dialing Your Disks」の全 46 号精読から見えてくること、見えてこないこと

最終更新: 2026年4月28日 読了時間の目安: 約27分

「Dialing Your Disks」って何? 何が読み解けて、何が読み解けないのか?

このページで答える問い: 1950年代の High Fidelity 誌に連載されていた名物コーナー「Dialing Your Disks」とは何だったのか。当時のレコード愛好家にとってどう役立ち、現代の私たちが歴史史料として参照する際に、何を読み解けて、何を読み解けないのか。



一言で答えると

「Dialing Your Disks」(以下 DYD) は、米国の音楽雑誌 High Fidelity が 1953年1/2月号から 1957年4月号まで毎号連載していたコーナーです (1957年10月号に 1 回だけ復活掲載)。レコード愛好家が手元のフォノイコライザをどう設定すれば、各レーベルのレコードを正しく再生できるかを案内する表でした。

なお、瑣末なトリビアですが、1957年2月号からはタイトルが「Dialing Your Discs」と変わります。「Disks」から「Discs」への変更、これも興味深いですね。

このコーナーは 再生補正の推奨設定 を掲載したものであり、各レーベルが 実際にどのカーブで録音 (カッティング) していたか を直接示す史料ではありません。この区別は、現代の私たちが DYD を歴史史料として引用する際に 最も重要な前提 になります。

連載 4 年半の間に編集者は計 12 回の改訂を加えており、最終号 (1957年4月号 "A Farewell To Obfuscation") では「米国レコード産業はようやく RIAA カーブに収束した」と宣言しています。


Dialing Your Disks の沿革

1953年1/2月号 (Vol.2 No.4) で初めて掲載された時、編集者は次のように書いています。

"Many amplifiers now incorporate 'equalizing' controls, to compensate for the various recording characteristics used by different record companies in cutting their disks. However, the record companies have been slow to indicate what these characteristics are..."

(現在、多くのアンプには「イコライジング」コントロールが組み込まれており、各レコード会社がディスクカッティング時に使う異なる録音特性を補正できるようになっている。しかし、レコード会社はその使用特性をなかなか提示しようとしない…)

— "Dialing Your Disks", High Fidelity, Vol.2 No.4, Jan/Feb 1953, p.64

編集者は Schwann レコードカタログに掲載された全 LP 製造レーベルに「お宅のレコードに必要な再生補正特性は?」と問い合わせを行い、回答が得られた 17 社分を初回号に掲載しました。

Dialing Your Disks, High Fidelity Vol.2 No.4 Jan/Feb 1953 p.64
連載第 1 回となった「Dialing Your Disks」(High Fidelity 誌 1953年1/2月号 p.64)。編集者が Schwann レコードカタログ掲載の全 LP 製造レーベルに問い合わせ、回答が得られた 17 社の再生推奨設定がここに集約された

この最初期 3 号 (1953年1/2月号、3/4月号、5/6月号) のデータは、ブログ連載 Pt.17 §17.6 でまとめて紹介しています。本 FAQ は、それ以降の 43 号も含めた 全 46 号の精読 から見えてくる別の角度の発見を扱います。

なお、DYD が掲載していたのは LP (33⅓ 回転) の再生推奨に限られており、78 回転盤や 45 回転盤は対象外でした。各号のヘッダ冒頭でも、編集者は「All LP discs are recorded with treble boost and bass cut...」と明示しています。78 回転盤時代から存在していたレーベル (たとえば後述の Prestige や New Jazz など) も、DYD では LP リリース後の再生推奨だけが扱われています。


編集者方法論の 12 段階の進化

DYD は単に「同じ表を毎号繰り返した」ものではなく、4 年半の間に大きく 12 回 編集者が誌面の構成や編集方針を改訂しています。これを並べると、当時のレコード産業が RIAA カーブへ収束していくプロセスが、編集者の意思決定の側からも見えてきます。

時期 編集者の改訂
1953年1/2月号 初回掲載。「再生補正 (playback compensation)」という言い方で 17 社をリスト化
1953年3/4月号 言い方を "recording characteristics" に変更。編集者がカーブの形状をグラフ用紙に重ね描きして詳述
1953年5/6月号〜1954年5月号 簡易リスト形式が安定、レーベル数が拡大 (約 30 社まで)
1954年3月号 「RIAA」呼称が DYD に初めて登場 ("Record Industry Association of America" と編集者が誤記。本来は Recording Industry...)
1954年6月号 形式を一新 (turnover × rolloff のドットグリッド表)。RIAA と NARTB を同じ turnover カラムにまとめて掲載
1954年9月号 アスタリスク凡例を明示化: 「★ = 1954年中のどこかから新マスターは RIAA で記録するレーベル」
1955年10月号 「NEW / OLD」2 列形式に大変更。各レーベルが「いつまでは旧推奨」「いつから新推奨 (= RIAA)」を、年月またはレコード番号で表示
1956年6月号 ヘッダで「業界標準 RIAA カーブで全レコードを記録」とする 16 レーベル群を編集者が宣言 (この時点では各レーベルは依然として個別行で表記、1956年8月号で 1 行集約に再構成)
1956年7月号 紙のリプリントカードを 25 セントで通販開始 (フォノコントロール機の脇に置く用)
1956年8月号 スプリットテーブル形式に変更: 「業界標準 RIAA グループ」(レーベル名のみを 1 行で列挙) と「その他の独自カーブ追跡対象」に分離
1957年2月号 タイトルのスペル変更: "Dialing Your Disks" → "Dialing Your Discs"
1957年4月号 連載終了号 "A Farewell To Obfuscation"

復活の 1957年10月号は、終了号で予告した「occasional update」の唯一の実例として 1 回だけ掲載されました。

これら 12 段階の進化を見ると、DYD の役割が「現行新譜への再生設定案内」(1953-1955) から「在庫盤を正しく再生するためのガイド」(1955-1957) へと建設的に変質していったことが読み取れます。1955年10月号で導入された OLD 列は、各レーベルの旧譜を持っている読者がそれを正しく再生できるようにするための情報源でした。


DYD から読み解けること

DYD の精読から、当時の米国レコード産業について以下のことが分かります。

1. 編集者が把握していた業界収束のタイミング

1956年6月号で編集者は次のように宣言しました。

"All records produced under the following labels are recorded with the industry-standard RIAA curve [500R turnover; 13.7 rolloff]: Angel; Atlantic; Bethlehem; Classic Editions; Clef; EMS; Epic; McIntosh; MGM; Montilla; New Jazz; Norgran; Prestige; Romany; Savoy; Walden. Labels that have used other recording curves are listed below."

(以下のレーベルが製造する全てのレコードは、業界標準である RIAA カーブ [500R ターンオーバー、13.7 dB ロールオフ] で記録されている: Angel、Atlantic、Bethlehem、Classic Editions、Clef、EMS、Epic、McIntosh、MGM、Montilla、New Jazz、Norgran、Prestige、Romany、Savoy、Walden。これら以外の独自カーブを使ってきたレーベルは、下記に列挙する。)

— "Dialing Your Disks", High Fidelity, June 1956, p.48

このリストは 1957年10月号には 17 社に拡大 (Composers Recordings が追加)、1 年で 1 社追加というペースで産業収束の最終局面が進んでいたことが分かります。

2. R / C suffix が示すベースシェルフの違い

EQ カーブ表記では、ターンオーバー数値に続くアルファベット suffix は、当時の主要規格の頭文字 (R = RIAA、C = Columbia、B = NAB) を示しており、技術的にはそれぞれの ベースシェルフ (低域時定数) の違いを表しています。

Suffix 由来 ベースシェルフ時定数 高域時定数
R RIAA / RCA New Orthophonic 3,180μs (50Hz) 75μs
B 1942/1949 NAB 3,180μs (50Hz) — R と同一 100μs
C Columbia LP 1,590μs (100Hz) 100μs

R と B はベースシェルフ時定数が等しく、違いは高域時定数 (R = 75μs vs B = 100μs) のみです。一方 C は、ベースシェルフ自体が R / B と異なります (50Hz vs 100Hz)。

ただし、DYD 全 46 号を通読すると、登場する suffix は R と C のみで B は一度も使われていません。1955年10月号以降のヘッダで suffix が解説されている箇所では、500 系のターンオーバーが次の 3 ポジションに分けられています。

ポジション 該当する当時のフォノイコ切替名
500R RIAA / ORTHOphonic / NARTB
500C LP / COL / COL LP / Mod NAB / LON / FFRR
500 (suffix なし) NAB

NAB はそれ自身が「500 (suffix なし)」というベースラインのポジションを与えられており、500C や 500R に押し込められているわけではありません。なお、ヘッダ冒頭の編集者の説明には「Equalizer control panel markings correspond to the following values」とあり、これらの表記は当時の民生フォノイコのフロントパネルにある切替ポジション名 (= 読者が手元のアンプで合わせる先) を列挙したものでした。

Dialing Your Discs, High Fidelity October 1957
連載終了 (1957年4月号) 後の唯一の復活掲載となった「Dialing Your Discs」(High Fidelity 誌 1957年10月号)。冒頭ヘッダの ROLLOFF / TURNOVER 凡例で、500R / 500C / 500 (suffix なし) などの表記がそれぞれ当時の民生フォノイコのどのフロントパネル切替ポジションに対応するかが明示されている

これは推測ですが、放送局では 1942 年の NAB 規格制定以来 NAB カーブが標準として定着しており、LP 最初期 (1948 年〜) にも Columbia LP カーブとベースシェルフ以外は同一の NAB カーブでカッティングされた実例があったことから、当時 「500 ターンオーバー」といえば暗黙的に NAB を意味する語感が業界に共有されていたと考えられます。そこから派生した RIAA 系を R、Columbia LP 系を C で区別すれば事足り、NAB にわざわざ B を付ける必要はなかった、という編集者の感覚があったのかもしれません。

詳しくは カーブ表記法 (500C-16 等の読み方) を参照してください。

3. アクティブな再カッティングプログラムの存在

1957年3月号と10月号では、アスタリスク (★) 印付きの 10 レーベル (Bartók、Caedmon、Columbia、Contemporary、Good-Time Jazz、London、Mercury、L'Oiseau-Lyre、Overtone、Westminster) について、編集者が次のような注釈を付けています。

"*Currently re-recording old masters for RIAA curve."

(★印付きレーベルは、現在 RIAA カーブでの再カッティング作業を進めている。)

— "Dialing Your Disks", High Fidelity, March 1957, p.86

1957年初頭の時点で、複数のメジャーおよび中堅レーベルが旧マスターの RIAA 化リカッティング作業を能動的に行っていたことが分かります。


DYD から読み解けないこと

DYD 単独からは 各レーベルの実際の録音 (カッティング) カーブ切替日 を結論することはできません。これは Pt.17 §17.6 で既に指摘されていた論点ですが、本 FAQ では Capitol および Prestige の 2 つの事例で踏み込んで示します。

Capitol 400N-12.7 の事例

DYD が掲載していた Capitol の推奨:

1955年10月号〜1957年10月号までの計 16 号にわたって、Capitol 行は次のように掲載されていました。

NEW Turnover / Rolloff 500R / 13.7 (= RIAA)
OLD To 1955: 400, 12.7

つまり「1955年以前の Capitol 盤は 400 ターンオーバー + 12.7 dB rolloff の設定で再生」という再生推奨です。Capitol-Cetra や Arizona も同じ「To 1955: 400, 12.7」推奨でした。

Capitol が実際に録音切替した時期:

一方、Capitol が実際にカッティングカーブを New Orthophonic (= RIAA 相当) に切替えたのは、自社サンプラー Capitol SAL-9020 "Full Dimensional Sound" のブックレット記述から 1953年秋頃 と確認できます (Pt.17 §17.5.3 および Pt.20 §20.1.1 参照)。

しかも、これを裏付ける 当の High Fidelity 誌自身の記事 が存在します。RIAA 規格承認の翌月に出た 1954年3月号の記事「After Five Years: Uniform Equalization」(p.50) で、編集部は次のように書いています。

"Capitol, echoing Mr. LeBel's assurance that the new curve differed only slightly from the old AES, which they had been using since the inception of their 'FDS' (Full Dimensional Sound) series, shifted to the new curve in the middle of last summer (without advising HIGH FIDELITY, to permit a change in the Dialing Your Disks listing of various companies' equalization-settings.)"

(Capitol は、「FDS」(Full Dimensional Sound) シリーズの開始時から旧 AES カーブを使ってきたが、LeBel 氏の「新 [RIAA] カーブは旧 AES カーブと大きな差分はない」という発言に共鳴するかのように、昨年 [1953年] の夏の半ばに新カーブに移行している。なお、この変更は当 High Fidelity 誌の Dialing Your Disks リスト更新のための連絡なしに行われた。)

— "After Five Years: Uniform Equalization", High Fidelity, March 1954, p.50 (Pt.20 §20.1.3 参照)

つまり High Fidelity 誌自身が、1954年3月号の別記事で「Capitol の録音切替が自誌の DYD 連載に伝わっていなかった」と公に認めていた ことになります。Capitol は 1953年夏の半ば (= 1953年7〜8月頃) には既に新カーブへの切替を完了していましたが、誌の DYD 連載は 1955年10月号で初めて「To 1955: 400, 12.7」と OLD 列に降格させるまで、旧推奨を継続して掲載していました。

つまり録音切替 (1953年夏の半ば) と DYD 上の推奨切替 (1955年10月号) には 2 年以上のラグがあったことになります。

残された論点:

ここで一つ疑問が残ります。1954年3月号の同記事で Capitol の切替時期 (1953年夏の半ば) は既に編集部に伝わっていたはずなのに、DYD は約 2 年遅れの 1955年10月号で初めて Capitol を OLD 列に降格させたのはなぜか、しかも降格時に OLD 列の境界を「To 1953 (= 実際の切替年)」や「To 1954」ではなく 「To 1955」 と書いたのはなぜか、という二段の疑問です。これについては、現時点で一次史料による確定的な答えは得られていません。論理的に考えられる仮説としては:

  • (a) Capitol が全米に持つ複数のマスタリングスタジオで切替完了に時間差があり、一部 400N-12.7 の新譜が 1955 年頃まで出回っていた可能性
  • (b) DYD 編集者が、読者の手元盤の安全側を取って (= 旧カーブで再生されるべき盤がまだ流通していると判断して) OLD 列降格を遅らせた可能性

などが挙げられますが、いずれも直接裏付ける同時代資料は手元にありません。これは将来の研究課題として残しておきます。

「Capitol = 400N-12.7」と書かれているリソースを見たら何を意味するか

400N-12.7 という数値は、当時の代表的な再生推奨情報源 (DYD、Heathkit Pre-amplifier WA-P2 マニュアル 1954年、McIntosh Audio Compensator C-8 マニュアル 1956年) で一貫して Capitol の 1955年以前の盤への推奨設定として掲載されていました。後年の Powell ARSC Journal 1989 や、現代の midimagic / Audacity といった Web リソースも、これらの一次資料を編纂したものと考えられます。

つまり「Capitol = 400N-12.7」というデータは:

  • ✓ 当時の 再生推奨 (playback recommendation) としては複数の一次資料で一致して裏付けられている
  • ✗ Capitol が実際に 400N-12.7 でカッティングしていた ことを示す史料ではない
  • ✗ Capitol の実際の録音は 1953年秋から New Orthophonic = RIAA 相当に切替済 (確定事実)

このギャップは、DYD のような業界誌の史料を引用する際に 再生推奨と録音特性は別の種類の証拠 であることを意識する必要性を示しています。「Capitol = 400N-12.7」は、現代の非 RIAA 言説で「Capitol が独自カーブで録音していた証拠」のように引かれることがありますが、原典 (DYD) の意図に戻ると、それは「1955年以前の Capitol 盤への再生時の推奨設定」に過ぎません。

RIAA-uniform 群の宣言と 10 インチ LP 時代の限界

1956年6月号で編集者が「業界標準 RIAA カーブで全レコードを記録」と宣言した 16 レーベル (前出) についても、DYD の表現を 過去のリリース全てに遡って適用するのは誤り です。

たとえば New Jazz / Prestige は 10 インチ LP を 1951 年からリリースしていましたが、当時はまだ New Orthophonic (1952 年) も RIAA (1954 年) も存在していません。これら初期 10 インチ盤は、当然ながら別のカーブでカッティングされていました。

Discogs に掲載されている裏ジャケ画像から、Prestige の 10 インチ LP の再生カーブ表記を追うと、次のような変遷が確認できます。

カタログ番号 リリース時期 裏ジャケ表記
PRLP-198 およびそれ以前 〜1955年初頭 再生カーブの記載なし
PRLP-199 1955年 "Users of wide-range equipment should set their controls for the NARTB curve for best results."
PRLP-200 1955年 "Users of wide range equipment should adjust their controls to the RIAA curve for the best results."
PRLP-207 1955年 RIAA (PRLP-200 と同じ表記)
PRLP-208 1955年 RIAA (同上)
PRLP-209 1955年 RIAA (同上)
PRLP-210 1955年 RIAA (同上)

(PRLP-201〜206 は未リリース、または旧 New Jazz 1100 番台の再発のため、本一覧では省略しています。)

Prestige の場合、PRLP-199 で NARTB、PRLP-200 と PRLP-207 以降で RIAA への切替が確認でき、これは 1955 年初頭に Rudy Van Gelder スタジオが Gotham PFB-150WA カッティングアンプを導入した時期と整合します (Pt.19 §19.2.2 Gotham PFB-150WA Recording Amplifier 参照)。それ以前の Prestige / New Jazz の 10 インチ LP は、別のカーブでカッティングされていた可能性が高いことになります。

このように、1956年6月号で初出した RIAA-uniform 群リストは「現時点で新譜を RIAA でカッティングしているレーベル」の宣言であって、それらレーベルが過去にリリースしたすべての LP が RIAA でカッティングされていたことを意味しません。


1953年3/4月号: 編集者によるカーブ形状の精密記述

DYD の中で技術的に最も興味深いのが、1953年3/4月号の編集者解説です。各レーベルが回答した再生推奨カーブを編集者がグラフ用紙に重ね描きして、次のように記述しています。

"If the recording characteristics reported to us are plotted on graph paper, they are found to be close together in the region from 200 to 2,000 cycles. Below 200 cycles, the curves differ. London and Columbia parallel one another closely, each drooping about 12.5 db at 50 cycles. The RCA Victor 'Orthophonic' and the NAB curves also run parallel to a droop of about 16 db at 50 cycles. The AES curve is shaped a little differently, and drops 18 db at 50 cycles."

"At the high end, all the curves follow about the same shape, but incorporate varying amounts of treble pre-emphasis. NAB and Columbia reach 16 db at 10,000 cycles. At this frequency, the Orthophonic curve is up 13.7 db; AES is up 12 db; and London is up 10.5 db."

(我々に報告されてきた録音特性をグラフ用紙にプロットすると、200 から 2,000 cycles の領域では、それらは互いに近接して並んでいることが分かる。200 cycles 以下では、各カーブが分岐する。London と Columbia は互いにほぼ並行し、それぞれ 50 cycles で約 12.5 db のドロップを示す。RCA Victor の「Orthophonic」と NAB のカーブも互いに並行し、50 cycles で約 16 db のドロップを示す。AES のカーブは少し異なる形状で、50 cycles で 18 db ドロップする。)

(高域側では、すべてのカーブはほぼ同じ形状を辿るが、異なる程度の treble プリエンファシスを伴う。NAB と Columbia は 10,000 cycles で 16 db に達する。この周波数において、Orthophonic カーブは 13.7 db、AES は 12 db、London は 10.5 db のブーストを示す。)

— "Dialing Your Disks", High Fidelity, Mar/Apr 1953, p.60

この記述は、当時の業界誌編集者が「カーブの違いが効くのは両端 (低域 200Hz 以下と高域 2,000Hz 以上)、200〜2,000Hz の中域では収束する」と認識していたことを示す一次資料です。各カーブの 50Hz および 10kHz の数値も具体的に書かれており、当時のレコード愛好家がカーブの違いをどう「数値として把握していたか」が読み取れます。


1957年4月号: "A Farewell To Obfuscation"

1957年4月号で、編集者は連載終了を宣言しました。

"After many years of confusion confounded, the record industry has finally adopted a standard playback equalization curve that seems acceptable to everybody. The RIAA playback curve is being used by all but a few small companies, and the days when every manufacturer had his own unique recording curve are at last a matter of history. The 'Dialing Your Discs' table that appeared regularly in this recordings section served its purpose when record equalization was changing as fast as the international situation, but now that things have pretty well settled down we're going to discontinue the monthly DYD chart. As changes occur, we'll update readers with an occasional DYD table in HIGH FIDELITY. Meanwhile, anyone who wants two copies of the current 'Dialing Your Discs' card to keep near the phono control unit can obtain them by sending 25¢ to Dialing Your Discs, HIGH FIDELITY, The Publishing House, Great Barrington, Mass."

(長年にわたる混乱の混迷を経て、レコード産業はついに、誰もが受け入れ可能な標準再生イコライゼーションカーブを採用した。RIAA 再生カーブは、ごく少数の小規模レーベルを除く全てで使われており、各製造元が独自の録音カーブを持っていた時代は、ついに歴史の一部となった。本誌の本セクションで定期的に掲載してきた「Dialing Your Discs」表は、レコードイコライゼーションが国際情勢と同じ速さで変わっていた時期にはその役割を果たした。しかし状況が落ち着いた今、月例の DYD チャート掲載は終了する。変化があれば、HIGH FIDELITY 誌上で随時 DYD 表を更新する。現行の「Dialing Your Discs」カードを 2 枚 (フォノコントロール機の脇に置く用) ご希望の方は、25 セントを Dialing Your Discs, HIGH FIDELITY, The Publishing House, Great Barrington, Mass. までお送りいただきたい。)

— "A Farewell To Obfuscation", High Fidelity, April 1957, p.84

ただし精読してみると、終了号の直前である 1957年3月号の表 (p.86) でも、表の下半分には依然として 約 20 のレーベルが非 RIAA 推奨で残っていた ことが分かります (Boston、Cetra-Soria、Cook、Haydn Society、HMV、Lyrichord、Oceanic、Oxford、Philharmonia、Polymusic、Remington、Tempo、Transradio など)。Farewell の「all but a few small companies」という表現は、メジャーおよび中堅レーベル中心の判断であって、小レーベル群はまだ独自の旧カーブで運用されていました。

1957年10月号の復活掲載は、終了号で約束された「occasional update」の唯一の実例となりました。


方法論的教訓: 史料 chain の解剖

DYD の事例から、1950年代の業界誌を歴史史料として参照する際の一般的な注意点を整理しておきます。

1. 「再生推奨」と「録音特性」は別の種類の証拠

DYD は読者に「手元のフォノイコをどう設定するか」を案内する目的で作られています。各レーベルが「このカーブで再生してほしい」と編集部に申告した値、あるいは編集者が判断した値が掲載されています。それは レーベルの実際の録音カーブを直接示すものではありません

2. 同時代の複数の一次資料が一致していても、なお録音特性の証拠にはならない

「Capitol = 400N-12.7」のように、当時の DYD・Heathkit マニュアル・McIntosh マニュアルが互いに一致する推奨設定を載せていた場合でも、それらは全て 再生推奨 という種類の史料です。複数の資料が合意していても、それは「当時の再生推奨における共通理解」を裏付けるものであって、「歴史的に実際に使われた録音カーブ」を裏付けるものではありません。

3. 二次・三次資料は原典の意図を引き継ぐとは限らない

現代の Web リソース (midimagic、Audacity wiki) や学術系の編纂物 (Powell ARSC 1989) は、これらの一次資料を編纂・継承していますが、紙幅の都合で原典の「再生推奨である」という前提が削ぎ落とされ、単に「Capitol = 400N-12.7」というデータポイントとして流通することがあります。さらに後続の解釈で「Capitol が 400N-12.7 で 録音 していた」と読み替えられると、原典の意味から大きく外れた主張に化けます。

4. DYD のレーベル別データ自体にも、後年の修正対象となる誤りが含まれていた可能性

たとえば MGM について、midimagic 等の後年の編纂物は「1952 年以前の MGM LP は NAB (500B-16) で記録、ごく一部に MGM 独自カーブ (500N-12) が混在」としており、これは当時の DYD の MGM 行 (500 ターンオーバー / AES 12 dB ロールオフ) とは食い違います。当時の業界誌編集者がレーベルから集めた情報と、後年の研究者が様々な史料を突き合わせて判明した事実は、必ずしも一致しません。DYD のデータポイント単独で「これがそのレーベルの唯一の正解」と断定するのは避け、現代の研究成果や複数の一次資料との突き合わせが必要です。

実際の録音切替日は、レーベル自社のサンプラー盤、社内文書、エンジニア証言、業界誌の取材記事など、別の種類の一次資料で確認する必要があります。詳しくは 各レーベルはいつ RIAA カーブに切り替えたのか? を参照してください。



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変更履歴

  • 2026年4月28日: 初版公開

MATSUBAYASHI 'Shaolin' Kohji <shaolin@rhythmaning.org>