米国の主要レーベルがいつRIAAカーブに移行したか — 確認できる資料に基づく一覧

最終更新: 2026年4月14日 読了時間の目安: 約7分

各レーベルはいつ RIAA カーブに切り替えたのか?

このページで答える問い: 米国の主要レーベルは、いつ RIAA 録音特性への移行を完了したのか。



前提:移行は一夜にして起きたわけではない

RIAA 規格が策定されたのは 1954年1月ですが、 各レーベルが翌日から一斉に切り替えたわけではありません。 移行に時間がかかった主な理由は2つです。

  • 製造済み在庫: 旧カーブでカッティングされたスタンパーからのプレスが在庫として残り、市場に流通し続けた
  • 機材更新のコスト: カッティング用イコライザは固定特性であり、全施設の機器を更新するにはコストと時間がかかった。テストカッティングによる計測・微調整も必要だった

また、RCA Victor と Capitol は RIAA 策定前からRIAAと同一の録音特性を使用していたため、 「移行」自体が不要でした。


主要レーベルの移行時期

以下は、一次資料(業界誌の記事、エンジニアの証言、社内文書など)から確認できた情報に基づく一覧です。

レーベル 移行時期 根拠
RCA Victor 1952年頃〜(移行不要) New Orthophonic 録音特性 = RIAA と同一。1952年頃に採用開始
Capitol 1953年夏頃〜(RIAA策定前に同一特性を採用済み) 旧AESカーブから New Orthophonic = RIAA に切替。1954年中に完了と推定
Columbia 1954年8月時点で半数未満が移行済み。1955年前半、遅くとも1955年後半に完了と推定 Billboard 1954年8月記事:「全設備の移行完了はまだ半年先」。Bachman 社内文書(1955〜56年頃)も移行を裏づけ
Mercury 1954年頃 チーフエンジニア C. Robert Fine 氏が RIAA 採用の意向を表明(Radio & Television News 1954年7月号)。なお、最初期のLP(1949年頃、Reeves Sound Studios でカッティング)は NAB または Columbia LP カーブと推定され、1951〜52年頃に AES へ移行している
London(英 Decca) 1954年前半 A&R ディレクタ Remy van Wyck Farkas 氏:「数ヶ月前から RIAA を使用」(High Fidelity 1954年6月号)
米 Decca 1955年頃(比較的遅い) NABカーブからの移行。1955年11月頃まで NAB だったとの説あり
MGM 1954年後半頃(詳細は不明) 移行前カーブは 500N-12(Old Orthophonic のターンオーバー・ベースシェルフ + AES の高域ロールオフ)との説が有力だが諸説あり。1954年後半に移行完了との説が主流
Westminster Columbia に準ずる テープを Columbia に送付し、カッティング・プレスを委託。Columbia の移行に連動。ただし一部は RCA Victor にカッティング・プレスを委託。Old Orthophonic または New Orthophonic でのカッティングとなるが、ジャケットには AES カーブで再生するよう記載されている
CSL (Columbia Standard Level)
Columbia Records 発行のテストレコード CSL(Columbia Standard Level、SIDE II, ZRD 431-1A)のレーベル面。「COLUMBIA STANDARD CHARACTERISTIC as per R.I.A.A. — N.A.R.T.B. industry norm」と明記されており、Columbia 自身が RIAA / NARTB 規格への準拠を公式に宣言している(筆者所蔵)

独立系スタジオ

スタジオ / エンジニア 主な顧客レーベル 移行時期 根拠
Rudy Van Gelder Blue Note, Prestige, Impulse! 等 1955年初頭 1955年初頭に RIAA 録音特性の機材(Gotham PFB-150WA)を導入。1955年10月の寄稿記事で本人が RIAA 使用を明言
Capitol 委託の独立系 Contemporary, Good Time Jazz 等 1953年秋頃〜 Capitol のカッティング設備を使用するため、Capitol の移行に準ずる
Columbia 委託の独立系 各社 Columbia に準ずる Columbia のカッティング設備を使用
RCA Victor 委託の独立系 各社 1952年頃〜 RCA Victor のカッティング設備を使用

1958年:ステレオLPで事実上の完了

1958年にステレオLPが登場すると、カッティング機材は RIAA を前提に設計されていたため、 ステレオ盤の制作においては RIAA 以外のカーブを使用する余地はありませんでした。

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補足:テストレコードからの裏づけ

プロフェッショナル向けの周波数特性テストレコードも、RIAA 移行を裏づける資料のひとつです。

RIAA 規格策定前には、NAB カーブ、ffrr カーブ、Columbia LP カーブなど、さまざまなカーブでカッティングされたテストレコードが存在していました。

The Measure of Your Phonograph's Equalization (Dubbings D-101, 1953)
Dubbings Company D-101「The Measure of Your Phonograph's Equalization」(1953年) の裏面。再生機器のフォノイコライザチェック目的で、オーディオ販売業者や修理業者向けと思われる。Columbia LP / New Orthophonic / NARTB (1949 NAB) / AES の4種のカーブで同じトーン信号を収録しており、当時のマルチカーブ状況を如実に示す資料(筆者所蔵)

しかし、ステレオLP登場の頃には、RIAA カーブ(またはRIAA から高域プリエンファシスのみを抜いた特性)によるテストレコードしか確認されていません。

The Equalization of Reproducers (Columbia SF-1)
Columbia SF-1「Listening in Depth: An Introduction to Columbia Stereophonic Sound」(1958年頃) 付属ブックレットより。William S. Bachman 氏 (RIAA 規格策定メンバの1人、Columbia チーフエンジニア) による RIAA 録音再生特性の解説ページ。セラミックカートリッジでの再生時誤差を補正する回路図も掲載。ステレオLP登場期に、Columbia 自身が業界標準として RIAA を明示していたことを示す(筆者所蔵)

詳しくは → Pt.21

(→ 信頼できるEQカーブの資料はあるか? — テストレコードを含む資料の概要)


補足:この表の読み方

この表は、筆者が確認できた一次資料に基づくものです。 すべてのレーベル・すべてのプレスを網羅するものではありません。

特に、独立系の小規模スタジオの中には、 資金不足から旧機材を継続使用したケースがあった可能性があります。 これらの記録は残されていないことが多く、正確な移行時期は不明です。

また、モノーラル時代の独立系レーベルの中には、 同時期に複数のマスタリング・プレス工場に委託していた例があります。 自社でカッティングしてプレスのみを外注した例、 テープを送ってカッティングとプレスの両方を委託した例など、 形態も混在しており、全体像の把握はますます難しくなっています。 こうした事情から、同じレーベル・同じカタログ番号であっても、 盤ごとに異なるカーブでカッティングされている可能性があります。

詳しくは → Pt.20


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変更履歴

  • 2026年4月14日: 図版を追加
  • 2026年4月8日: 初版公開

MATSUBAYASHI 'Shaolin' Kohji <shaolin@rhythmaning.org>