RIAAカーブはいつ策定されたか — 1954年1月29日に至るまでの20年以上の前史と経緯

最終更新: 2026年4月8日 読了時間の目安: 約5分

RIAA カーブはいつ策定されたか?

このページで答える問い: RIAA カーブはいつ、どのような経緯で策定されたのか。なぜそれほど時間がかかったのか。



一言で答えると

1954年1月29日。RIAA(Recording Industry Association of America)の技術委員会が正式に承認しました。

ただし、この日付はゴールであって出発点ではありません。ディスク録音の標準化作業は1940年代初頭から始まっており、RIAA カーブの策定に至るまでには20年以上にわたる議論と試行がありました。

RIAA カーブとは? -- カーブの定義と3つの時定数について


標準化のタイムライン

以下は、RIAA カーブに至る主要な標準規格の流れです。

年月 規格・出来事 備考
1939年 RCA/NBC Orthacoustic カーブ発表 放送局用トランスクリプション盤向け。NAB 標準化の契機となる
1942年5月 NAB 録音再生標準規格 策定 史上初の録音再生標準規格。放送局用トランスクリプション盤が対象
1949年4月 NAB 規格改訂 磁気テープ規格を追加。ディスク録音カーブは1942年版を踏襲
1951年 AES 標準再生カーブ発表 業界横断の学術団体による提案。各社カーブの「妥協点」を狙った
1953年6月 NARTB 録音再生標準規格 承認 1942/1949 NAB を全面改訂。高域プリエンファシスを 100μs から 75μs へ変更
1953年12月 AES 標準再生カーブ改訂(暫定承認) NARTB と同一の時定数を採用。1954年6月に正式承認
1954年1月29日 RIAA 標準録音再生特性 承認 米レコード業界5大レーベルのチーフエンジニアが参加

事実として注目すべきは、NARTB(放送局)、AES(学会)、RIAA(レコード産業)の3団体が、わずか半年の間にほぼ同一の時定数を相次いで採用したことです。これは、各団体のメンバーが重複しており、相互に連携して標準化を進めていたためです。

→ 詳細な経緯は ブログ記事 Pt.18 で扱っています


高域プリエンファシスをめぐる議論

標準化の過程で最も議論を呼んだのは、高域プリエンファシスの量でした。

1942年 NAB カーブの高域時定数は 100μs(±16dB at 10kHz)でしたが、「高域プリエンファシスが強すぎて歪みが生じる」という批判が、標準規格委員会の内部から繰り返し出されていました。具体的には、1947年の時点で委員会メンバーから「100μs を 75μs(±13.7dB at 10kHz)に下げるべきだ」という意見が明確に出されています。

最終的に、1953年の NARTB 規格で高域時定数が 75μs に改訂され、この値が RIAA にもそのまま採用されました。この 75μs という値は、RCA Victor が1952年頃から使用していた New Orthophonic カーブの高域時定数と同一です。

→ 高域プリエンファシス議論の詳細は ブログ記事 Pt.10 を参照


なぜ統一にこれほど時間がかかったのか

1942年の最初の標準化から RIAA 策定まで12年。なぜこれほどかかったのでしょうか。主な要因は以下の通りです。

第二次世界大戦(1941〜1945年)。 1942年の暫定 NAB 規格策定直後に戦争が激化し、標準化作業は中断しました。委員会の作業が再開されたのは1947年です。

LP と45回転盤の登場による混乱(1948〜1950年)。 1948年に Columbia LP、1949年に RCA Victor 45回転盤が登場し、レコード業界は「回転数競争」に突入しました。新フォーマットへの対応に追われ、EQ カーブの統一は後回しになりました。

磁気テープ規格の優先(1949年前後)。 放送局では磁気テープ録音が急速に普及しており、1949年の NAB 規格改訂では、テープ規格の策定が最優先事項でした。ディスクの録音カーブは1942年版のまま据え置かれました。

委員会の民主的プロセス。 NAB にせよ RIAA にせよ、標準化は各社の利害を調整しながら民主的に進められました。全関係者の合意を得るには時間が必要でした。一方で、この民主的プロセスが結果として、業界全体が受け入れ可能な規格を生み出したとも言えます。

回転数競争とは?

NAB 規格策定の経緯 -- ブログ記事 Pt.8


RIAA はなぜ「勝ったか」

RIAA カーブの策定自体も重要ですが、それが業界標準として定着した背景には、技術的・経済的な要因がありました。この点については別ページで詳しく扱っています。

なぜ RIAA が標準になったのか?


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変更履歴

  • 2026年4月8日: 初版公開