「回転数競争」とは何か — Columbia LP vs RCA Victor 45回転の経緯と決着、EQカーブとの関係
「回転数競争」(Battle of the Speeds) とは?
このページで答える問い: 1940年代末に起きた LP と45回転盤の「回転数競争」とは何か。どう決着したのか。EQ カーブとどう関係するのか。
概要
「回転数競争」(The Battle of the Speeds) は、1948年〜1950年頃に米国レコード業界で起きた、新しいレコードフォーマットをめぐる競争です。Columbia の 33 1/3回転 LP と RCA Victor の 45回転盤が、従来の78回転盤の後継の座を争いました。
結果として、LP がアルバム用、45回転盤がシングル用という棲み分けで決着しました。技術的優位性ではなく、市場の用途に応じた分業が解決策でした。
発端: Columbia LP の登場
1948年6月18日、Columbia Records は、ニューヨークの Waldorf-Astoria Hotel で 33 1/3回転 LP (Long Playing Microgroove) レコードを正式発表しました。10インチ盤と12インチ盤があり、従来の78回転シェラック盤と比較して、片面あたりの収録時間が飛躍的に伸びたことが最大の特徴でした。
Columbia は発表に先立ち、ライバルである RCA Victor にもこの技術のライセンスを提案していました。しかし、RCA はこれを断りました。
→ Columbia LP 登場の詳細は ブログ記事 Pt.11
RCA Victor の応答: 45回転盤 "Madame X"
Columbia LP の発表後、業界内では「RCA Victor が独自の新フォーマットを準備している」という噂が広がりました。
1949年1月9日、Columbia は7インチ 33 1/3回転盤(78回転シングルの代替を狙ったもの)を発表。その翌日の 1949年1月10日、RCA Victor は開発コードネーム「Madame X」と呼ばれていた 7インチ45回転盤と専用オートチェンジャーを正式に発表しました。
RCA Victor の45回転システムは、長時間再生ではなく、コンパクトなオートチェンジャーによる高速な連続再生を売りにしていました。大きなセンタースピンドル穴により、チェンジャー機構を小型化でき、盤のプレスに必要な原料(ヴァイナル化合物)も削減できるという利点が主張されました。
→ RCA Victor 45回転盤の技術的背景は ブログ記事 Pt.13
各レーベルの対応
Columbia と RCA Victor の間で火蓋が切られた「回転数競争」に対し、他のレーベルは慎重に状況を見守りました。
| 時期 | レーベル | 対応 |
|---|---|---|
| 1949年1月 | Mercury | LP 陣営に参入。Columbia 以外で最も早い参入の一つ |
| 1949年2月 | Capitol | 45回転陣営に参入(プレスは当初 RCA Victor に委託) |
| 1949年7月 | 3大レーベル | Columbia・RCA Victor・Decca の和平交渉が決裂 |
| 1949年8月 | Decca | LP を選択 |
| 1949年8月 | Capitol | LP も全面導入。3スピード対応の最初のレーベルとなる |
| 1950年4月 | RCA Victor | 33 1/3回転 LP のリリースを開始 |
| 1950年8月 | Columbia | 45回転盤のリリースを開始 |
多くのレーベルは、アルバム(特にクラシックの長尺作品)の代替としては当初から LP を選択していました。78回転盤のバインダーアルバムを1枚のディスクに収められる LP の優位性は明白だったためです。
→ 各レーベルの参入状況の詳細は ブログ記事 Pt.14
決着: 棲み分け
「回転数競争」は、どちらか一方が勝つ形では終わりませんでした。
1950年に RCA Victor が LP リリースを開始し、Columbia が45回転盤リリースを開始したことで、LP はアルバム用、45回転盤はシングル用という棲み分けが定着しました。Columbia の7インチ 33 1/3回転盤は1951年頃に静かに姿を消し、RCA Victor の45回転アルバム(複数枚組のボックスやバインダーセット)も1950年代半ばにはほぼ消滅しました。
技術的にどちらが優れていたかではなく、それぞれのフォーマットが異なる市場ニーズに対応したことが、この決着の本質です。
EQ カーブとの関係
「回転数競争」は、EQ カーブの歴史とも密接に関係しています。
Columbia LP は Columbia LP カーブを使用しました。 この録音カーブは、1942年 NAB カーブと類似した特性を持っていました。
RCA Victor の45回転盤は Old Orthophonic カーブを使用しました。 この録音カーブは、RCA Victor が当時78回転盤にも使用していたもので、のちの New Orthophonic(すなわち RIAA)カーブと基本的に似ていますが、低域のベースシェルフがなく、高域にローパスフィルタが適用されている点が異なります。
つまり、回転数競争の時代には、フォーマットだけでなく EQ カーブも統一されていなかったということです。この混乱が、業界全体での EQ カーブ標準化(RIAA)を求める声を強める一因にもなりました。
関連ページ
- → Columbia LP の録音カーブ -- Columbia LP カーブの詳細
- → なぜ RIAA が標準になったのか? -- 回転数競争後の標準化
- → Columbia LP の技術的背景(ブログ記事 Pt.12)
- → RCA Victor 45回転システム(ブログ記事 Pt.13)
変更履歴
- 2026年4月8日: 初版公開