ナンシー梅木さん (梅木 美代志さん).戦後間も無くゲイ・セプテットのヴォーカリストとして活躍.1955年に渡米し一躍注目を集め,ヴォーカリスト,女優として人気を博します.アカデミー助演女優賞を獲得した映画「Sayonara」のテーマソングは梅木さんが歌い,これも当時ヒットしたそうです.
このアルバムは梅木さんの Mercury における 1st アルバム「Miyoshi Sings For Arthur Godfrey」 (Mercury MG-20165, 多分1956年のリリース) の数曲を差し替えた再編集盤にあたるアルバムで,Mercury の廉価レーベル Wing からリリースされたものです.タイトルに「Flower Drum Song」 とあるのは,梅木さんが出演された 1958年のブロードウェイミュージカルの事を指しており,この再編集盤は「Flower Drum Song」の人気にあやかって出されたものと思われます (その証拠に,Flower Drum Song ゆかりの曲は全く収録されていません).
なお,「Flower Drum Song」のオリジナルサントラは 現在 CD で再発されており 梅木さんのヴォーカルは「Hundred Million Miracles」という曲で聴くことが出来ます.
で本題.梅木さんの或る意味完成された個性は当然素晴らしいのですが,このアルバムを一度でも聴いた事のある方でしたらば,そのベタベタなオリエンタリズムにびっくりされたかも知れません.収録されている楽曲は,映画「Sayonara」のテーマ曲 (なんと作者はあの Irving Berlin です) を除き,いわゆるジャズのスタンダードナンバーが多くを占めているのですが,多くの曲で,英語歌詞と日本語歌詞を交互に歌ったり,曲の合間に日本語ナレーション (?) を入れたり,なんとも不思議な感じがあります.正にこれが「オリエンタリズム」或いは「エキゾティズム」と呼ばれるものなのでしょうが.
なんというか,当時のアメリカ人はこういう音楽をどういう風に聴いたんだろうか,と思いを馳せてしまいます.イタリア語やスペイン語で歌われるポピュラー音楽も矢張り1950年代当時アメリカでは人気がありましたし,ラテン音楽のムーブメントも既に市民権を得つつありました.そんな中で,日本語交じりで歌われるジャズヴォーカルというのは,果してどう聴こえたんでしょうね.
ともあれ,欧米文化特有の「エキゾティズム」「オリエンタリズム」というのは,こちら側から見ると実に不思議なものです.まあ,日本人だって同じ様に海外の文化を珍重したりする傾向があるわけで,お互い「ないものねだり」「外部への本質的な関心」ということなんでしょうが.
ところがこの続く 2nd アルバム (1959年か1960年のリリース) では,そういった「日本情緒」は一応消え失せ,梅木さん自身の個性のみで直球勝負されています.感情をさらけ出した類の歌い方では決してなく,静かに,しかし単なるジャズヴォーカルの王道のフォロワーではない,梅木さんならではの個性的な唱法で,一曲一曲を大事に歌っています.個人的には 1st,2nd 甲乙付けがたいですが,素直にお薦めできるのは矢張りこの 2nd でしょうか.
ところで,日本のショービズ界に嫌気がさした?合わなかった?と言われる梅木さん.日本では「ナンシー梅木」という名前で活躍されていたのですが,渡米後は本名の「梅木美代志」として活動されました.アメリカで「ナンシー梅木」なんていう名前で活動するのが気恥ずかしかったのかも知れませんが,もしかしたら,「Miyoshi Umeki」という本名の方が,米国では「Oh! Oriental Lady!」と重宝されたというのが案外真実だったりするのでしょうか.
梅木美代志さんの Mercury レーベル における全録音のディスコグラフィーを まとめて みました.御覧下さい.