1964年は Jazz Messengers にとっては記念すべき (?) 辛い年.黄金の三管メンバーによる最後の大名盤「Free For All」 (Blue Note BLP-4170),更に Wellington Blakey さん (vo) を迎えての「Kyoto」 (Riverside RLP-493) をはさみ,続く Lee Morgan 復帰作「Indestructible」 (Blue Note BLP-4193) を最後に,音楽監督 Wayne Shorter さんが去ることになります.
'S Make It / Art Blakey And The Jazz Messengers (Limelight LS-86001)
そして John Gilmore (ts) さんを迎え,心機一転 Limelight レーベル と契約して吹き込んだ第一作 (Limelight レーベルの最初のアルバムでもあります) が,この「'S Make It」.このメンバーによる演奏は以前 LD で出た「Jazz 625」 (1965年 3月 7日収録) でも見る/聴くことができます.
しかし残念な事に,Shorter さんが抜けた穴は余りにも大きかった.ライブ演奏ではまだ今までに培ってきたノウハウと勢いがありますが,スタジオ録音となるとその差は歴然です.
全体にミドルテンポやバラードが多く,そもそも御大 Blakey さんが存分に活躍出来る場が限られています.このアルバムでは,全体を通じてびっくりする程 Blakey さんらしくありません.カタルシスじゃおりゃー,ナイアガラ瀑布じゃおりゃー,だけが Blakey さんじゃないのは当然としても,いつもならどんなテンポのどんな楽曲の誰のソロの後ろでも必ずやっているはずの,変拍子なアプローチやブラシによる細かいブロー,16分音符バスドラが,殆ど聞かれません.
楽曲も,ピアノの John Hicks さんのペンになる曲はなかなか面白いものの,いかんせん御大がいまいちしまらない.Curtis Fuller さん作曲の B-1 「Little Hughie」に到っては,もはや全員ダレています(笑).この曲では Lee Morgan さんはテーマ部分以外はカウベルを担当する始末.リズム隊もゆれまくり.A-3 「Waltz For Ruth」も,御大が 3拍子と格闘して撃沈という感じです.
あの John Gilmore さんのテナーもいまいちしまりません.ライブならもっとブリブリーとやってくれたりするんでしょうが,このテの楽曲が並ぶ中では,どうもしゃきっとしません.
どの曲も,テーマ部分は「いい感じ」なんですが....
しかも,録音が直前の Blue Note (や Riverside) から Limelight に変わったのも大きかった.いくらスーパーバイザーが Quincy Jones さんだからといっても,いくら幾多の名録音を残してきたプロデューサー Jack Tracy さんとはいっても,Jazz Messengers をどう録ってよいものか迷いがあったのでしょうか.更に悪い事に,Limelight レーベルの親レーベルである Mercury は (クラシック録音を除いて) 1960年頃からプレスを CBS のプラントで行っていましたが,1964年〜1966年辺りのプレスは群を抜いてマスタリング/プレスの品質が低下した時期でした.Limelight レーベル第一作となるこのアルバムも然り.ステレオイメージ真中に定位された御大のドラムですが,ややオフ気味で,どう聞いても御大らしさの出ている録音とは思えません.
結果的には,全体を通じて,まるで Lee Morgan さんのリーダーアルバムの様に,あの透き通った美しいトーンが全体を支配している,という感じで,Messengers のアルバムとしては Shorter さん在籍時の直後だけに方向性を見失っているという印象です.
唯一の救いは,Lee Morgan さんのペンになる有名曲そしてアルバムのタイトル曲 A-2 「'S Make It」で,この曲でのみ Blakey さんらしさが炸裂.ロールはほとんどない代わりに,きめ細かいボディーブローがじわじわじわじわと迫って来ます.矢張り演り慣れているからでしょうか.この1曲がなければ,このアルバムはダレダレの一枚,の一言で終わりかねません (Morgan さんは何時も通りとても良いんですが).
しかし,御大が Limelight に残した 4枚のアルバムの中では,これが最も良質な作品であることも事実です(笑).この後 1965年には Bossa Novva までやった「Soulfinger」 (LS-86018/LM-82018),更に 1966年には Keith Jarrett 参加の「Buttercorn Lady」 (LS-86034/LM-82034),更に御大御乱心の 8ビートアルバム「Hold On, I'm Coming」 (LS-86038/LM-82038) と続き,再び活気を取り戻す 1960年代後半〜1970年代初頭まで時代の勢いから取り残され気味の時期を過ごすことになります.