個人的には1995年〜2010年まで愛用していた、ソニー製カーオーディオ用純正ロータリコマンダー RM-X2S。限られたボタンやロータリースイッチをうまく組み合わせ、実に多種多用な操作を意味的統一性を保ったまま行うことができる、インタラクションデザイン上非常に秀逸な優れものでした。
国内ではカーオーディオの分野から撤退してしまった (海外ではまだ開発・製造・販売が継続されています。例えば イギリス など) ソニーですが、RM-X2S の後継モデルである RM-X4S を、他の様々なカーオーディオヘッドユニットのコントローラとして利用可能なリモコンユニットがサードパーティから販売されているようです。これは注目。
ステアリング学習リモコン - ALCON - ロータリーコマンダ用
大昔 (1996年12月3日) に自身の web ページ用に書いた RM-X2S に関する古い記事を、自宅サーバの中から発掘したので、以下にそのまま載せておきます。
書き口がイタかったり内容的に古かったり、若干恥ずかしいですが、参考程度ということで。。。
(Original Posted: December 3, 1996.)
カーオーディオに凝っている人は少なくはない.通常の家の中で聴くためのオーディオセットと違い,リスナーのポジションがオフセットされて固定されている(左右のスピーカから等間隔という理想的なリスニングポジションは得られない)し,走行中はタイヤや車体から起こる振動が,CD プレーヤやカセットデッキの高音質な再生に大きな悪影響を与えていることも否定できない.そして,その振動による雑音で折角の再生音がマスクされてしまう.
どう考えても,同じ 20万~30万円をつぎ込んで セットアップしたセパレートオーディオシステム(それでも,高級オーディオでの30万円なんかまだまだ安い方だ)の再生音なんかに 太刀打ちできるわけはないことは明白である.
それでも,毎日車を運転する必要のある人達にとっては,車内は自分の城みたいなものだから,少しでも良い音にしようと悪戦苦闘を繰り返している(勿論,どこの世界でもあるように,単なるブランド品を纏っただけで満足している似非カーオーディオマニアも多いのだろうが).
私の車には,約1年前に購入した SONY の CD ヘッドユニット(CDX-C818)が装着してある(図1).スピーカなんか,純正のままである.当然,Hi-Fi オーディオの世界とは無縁の音を出すし,駆け出しのオーディオファンが良くやるように,ロードノイズに負けないように,ラウドネススイッチは入れっぱなし,高音部と低音部は上げっぱなし,という,安価な CD ラジカセよりはよっぽどまともな音だけど,お世辞にも自慢は出来ないレベル.でもこれで満足している.車を運転している時に好きな音楽を過不足ない程度の音で楽しめるだけでも幸せ者と思っている.
図1:その CD ユニット (上にあるのが問題のロータリーコマンダ)
そんな SONY のユニットであるが,1つだけ非常に感心する点がある(それが,このヘッドユニット購入を決意した最も大きな理由である).この CD ユニットに限ったものではないのだが,SONY が販売しているほぼ全てのユニットに標準装備,ないし対応している,ロータリーコマンダ (RM-X2S) である.これは,ステアリングコラムカバー(ハンドル奥に付いている,ウィンカレバーやワイパーレバー等が出ているあたりを覆っているカバー)に装着するワイヤードリモコンなのだが,非常に使い勝手が良い.
何せ,カーオーディオは,そのボディサイズがセパレートコンポ等に比して非常に小さいのに多機能を詰め込み,それらを全て操作するため,フロントパネルには同じ様なサイズのボタンがずらずらと並んでいるし,これを運転中に操作しようなどと考えるのが恐ろしくなってしまう程である(図2). もしかしたら,昨今問題になっている運転中の携帯電話よりも危ないのではないか.しかも,そのボタンの並びが全然機能的ではないものが多い.少し前の車の純正オーディオなんかの方が,機能的/音質的には劣っているが,ボタン数が少なく,また意味的に整合性のある並び/纏まりになっていて,まだそういう意味で非常に親切に出来ていると思う程である.
一部のカーオーディオでは,最近のビデオデッキで良く見られるようなフロントパネル開閉式にして,必要最小限のスイッチはパネル上に,そのほかのスイッチはパネルを開くと操作可能にしているものもあるが,いづれにせよ,運転中の操作の為には視線を動かさねばならず,根本的な解決には至っていない様に思う.
SONY のロータリーコマンダは,その問題に1つの有効な回答を与えていると感じた.音量調整/ソース切り替え/選曲/選局/ミュート/オンオフが,このたった1つの非常に機能的なリモコンによって,しかも運転中に視線を全くそらすことなく行えるのである.
オーディオ機器に対する操作には,このロータリーコマンダの形状が非常に適している様だ.オーディオ機器に対する主な操作を分類すると,大きくわけて次の3つがある:
(1) 複数の選択肢から選ぶ → ソース(CD / MD / チェンジャー / FM / AM 等)の選択 → ラジオの選局 → CD チェンジャー内の CD の選択 (2) 「大小」「上下」「前後」といった連続/離散順序の状態の調節 → 音量(大小)の調節 → バランス(左右),フェーダ(前後)の調節 (3) 状態の ON / OFF をトグルする → ミュート(一時的に 20dB 程ボリュームを下げる)の ON / OFF → 電源の ON / OFFこのうち,(1) (2) は,コマンダを正逆方向に回す,というものに対応させるであろうということは容易に想像がつくし,(3) は別にボタンを付けてそれを使えば良いともすぐに思いつく.しかし,コマンダ自体にたくさんのロータリースイッチが付いては結局煩雑になるだけで,運転者用リモコンにした意味がない.あとは,どの様にモードとして割り振るかの問題だが,SONY はそれをソース毎に割り振る,という実に合理的な分類で解決している.
ボタン1(コマンダ端に位置)を押す: → ソース(CD / MD / チェンジャー / FM / AM 等)の選択 ロータリー1を回す: → 音量(大小)の調節 ロータリー2を回す: → 短く動かす CD / MD 等の時:一曲飛ばし/一曲戻し FM / AM の時 :自動選局(受信可能なチャネル) → 長く動かす CD / MD 等の時:早送り/巻き戻し FM / AM の時 :手動選局(.1MHz / .1KHz ごと) ロータリー1を押し込みながら回す: → CD / MD 等の時:チェンジャーでのディスク選択 FM / AM の時 :プリセットした局の選択 ボタン2を押す: → ミュートの ON / OFF ボタン3を押す: → 電源の ON / OFFロータリー系のスイッチは全て,向こうに回せば大,手前に回せば小,という対応になっている(これは逆にも設定可能).つまり,意味上の一貫性がある,ということである.また,ロータリーの丁度軸の端に付いているボタンが,ソース選択のボタンということも,どのソースを使っているかによってロータリー操作の意味が変わる,ということに意味的に対応しやすく,非常に憶えやすい配置になっていると思う.特に「ロータリー1を押し込みながら回す」というのが卓見で,ロータリー2の回転にもう1つのモードを非常に適切に与えることに成功している(実際,この操作の時にはロータリー2も一緒に動く).たった2つのロータリースイッチと幾つかのボタンだけで,複雑にならないように多種多様の操作を可能にしているこの設計は,本当に感心に値する.そして,スイッチ操作時に「ピッ」という音によるフィードバックが行われるのも,細かいようだがよく考えられている.
D. Norman 氏の「誰のためのデザイン?」でも紹介されていることで有名な M. Benz の電動シートアジャスタ とまではいかないまでも,機器の操作と実際の効果との意味的な対応が良く取れていると思う.それに,上述した「逆にも設定可能」というのは,ステアリングカバーの左右どちらにでも装着可能であることを意味し,左ハンドル車にも対応できるということである.
ちなみに,メーカーは,右ハンドルの時にはコマンダを左側に付けることを推奨している.これは,例えばシフト操作を左手で行っているときに右手は必ずハンドル操作の為に空いている様に,また例えばそのハンドルを持っている手の指を伸ばすだけで,ハンドルを切る方向に動かせば良いウィンカレバーの様に(そういう意味で,多くの輸入車に見られる,右ハンドルなのにウィンカレバーが左,というのは非常に良くない!),運転上の安全性を考えたものと捉えることが出来る.因みに,現在の私の所有車は左ハンドルであるが,残念ながらステアリングコラムカバー右側に設置するスペースがないので,仕方なく左側に付けている.
だから,SONY の CD ヘッドユニットには非常に満足している.たとえカーオーディオの中で音質が最上の部類に入らなくても,このロータリコマンダ1つだけで,購入を決意するだけの価値は充分にあると思う.勿論,贅沢なカーオーディオを購入できないという,金銭的な理由が最も大きいのかも知れないが....
(以上、1996年12月3日付で公開した拙稿をごく一部修正したもの)
ちなみに、ステアリングコラム上のウィンカレバー (turn signal lever) の位置ですが、欧米では ISO 規格で左ハンドル・右ハンドルに関わらず左側、と決められているそうです (該当する ISO 番号までは調べられませんでした... どなたかご存知の方いらっしゃいますか?)。
その規格が決まる前までは、同じく左側通行・右ハンドルの国イギリスでは、ウィンカレバーは (現在の日本と同じく) 右側に設置されていたそうです。現在は、イギリス車、およびその他欧州車の日本輸入モデル (右ハンドル) は、ほぼ例外なくウィンカレバーは左側にあります。
右ハンドル車の場合、右手でシフトレバーを持ちつつ、左手はステアリング保持したままウィンカレバーを倒す、という操作がはるかに自然だと思うのですが、どうなんでしょうね。
かつて GM とトヨタが組んで国内で販売されていた キャバリエ というクルマがありました。これは、日本市場にあわせるべく、ウィンカレバーの位置は最初から右につけられていたそうです。
追記 (2010/04/07):
ISO 4040 に関する情報は、以下のコメントを参照のこと。どうやら最新版 ISO 4040 では、日本側の粘り強い交渉が実り、右側ウィンカレバーも晴れてオッケーになったようです。より詳しい情報や修正・ツッコミがあれば、是非コメント欄へお寄せ下さい。
4040だって。
いぶすきさん、ありがとうございます。
ISO 4040 自体は
http://www.iso.org/iso/iso_catalogue/catalogue_tc/catalogue_detail.htm?csnumber=44856
にあるようですが、66 CHF、約6,000円弱って...
というわけで、他を探してみると、
http://www.tazi-k.net/daybook/2007021.html
の、2007年2月14日分の記述が詳しいようです。
2001年版 ISO 4040 4.7項に「レバー逆向き配置も認める」とあり、
その Footnote #2 に「ただし今後5年間のみ」とつけられているとのこと。
で、更にいろいろ探してみると、現在の ISO 4040 は 2009年版であり、
それ自体は見ることはできない (上の iso.org のリンク参照) けれども、
社団法人 自動車技術会
http://www.jsae.or.jp/
の「ISO 活動状況報告書」というのを見つけまして、
http://www.jsae.or.jp/08std/active2008/20081111.pdf
の31ページに次のようにありました。
==== ここから ====
コンビレバーの配置
ISO 4040.2 4.7項 Footnote#2
2006/5国際会議にて、5年後(2006年)の定期見直しの際の
Footnote#2削除の扱いについて審議した。
Alt1:4.7項とfootnote#2を削除
(右ハンのミラー対称配置は認めない)
Alt2:4.7項とfootnote#2を残す。
(今後5年間は、右ハンでのミラー対称配置を認める)
Alt3:永久的に、右ハン車のミラー対称配置を認める。
(Footnote #2のみ削除。仏の新案)
●2007.5.16の国際会議の結論
→日本主張案(Alt.3)に採択された。
●2008.6.4の国際会議の結論
→小修正を実施し、FDISをスキップして、ISを発行する。
==== ここまで ====
つまり、ISO 的には、方向指示器(ウィンカレバー)が右側に配置されているのもオッケーになった、ということでしょうかね?
おー、これはかなりの情報ですねえ。
ありがとうございます。
しかも、このデッキは現役で使ってます。
ロータリコマンダーは今も使っているのですが、
デッキ交換したときにどうしようかと思っていました。
いつまでも残してください。