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Mysteries of “Cannonball Adderley Quintet In Chicago”
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実際の盤を検証 (ステレオ盤)さて,以上の予備知識を念頭に, 蒐集した盤をみていくことにしましょう。 まずはステレオ盤から。 執筆時点で手元にあるのは 4枚。もちろん全て SR-60134 です。 以下便宜上 [S1] [S2] [S3] [S4] と記します。 ちなみに,ジャケットは 4枚共全く同じもので,識別可能な相異点はありません。 レーベルレーベルのデザインは今のところ 3種類みつかりました。 まずこれが [S1] [S2] の盤のレーベルです。 1959年頃から使われ出した,最も代表的なステレオレーベルです。
前後のリリースから考えると,このタイプが最も初期のレーベルである可能性が
高いと考えられます。
なお,このタイプは 1963年から1964年頃に登場した赤レーベル (黒印刷) が
登場してからも,一部の盤では使い続けられたものです。
続いて [S3] の盤のレーベルです。 基本的なパターンは同じですが,
と微妙な変化がみられます。
なお,先述した聴き比べの際に
Refugee さん
が御持参下さったのは,このタイプのレーベルで,
片面溝あり (もう片面は溝なし段差あり) だったと記憶しています。
また,Refugee さんは,このタイプの両面溝ありの存在も確認されたとのことです。
最後に [S4] の盤のレーベルです。 これが私が最初に入手した盤で,
となっています。
字体は三者三様,見事に異なります。
また,[S3] レーベルだけバックの色 (つまりレーベルを印刷する紙そのもの)
が異なることも気になります。
[S1] [S2] のタイプが Mercury 的には最も王道ではあり,両面に溝もあることから この 3タイプの中では最も古い盤でしょうが,それにしても [S3] [S4] は いったいなんでしょうか。少なくとも, レーベルを印刷した工場が異なる ことは間違いなさそうです。 実はこの [S3] のタイプ,他にも何枚か見たことがあります。 恐らく良く売れたであろう盤でたまに見られるのですが, やはり色は真黒ではない濃灰色というか濃緑色というか, そういう微妙な色合いの紙が使われています。 ここでは一例として,モノーラル盤ですが MG-20448 をあげておきます (その他,20600-20700 / 60600-60700 番台で このタイプのものを何枚か所有しています)。 ここまでの情報から推測すると, [S3] と [S4] は ([S1] [S2] とは) プレスされた工場が異なる という可能性が高そうです。 Mercury がアメリカ全土にプレス工場を二箇所以上もっていたとしても おかしくありません (詳細は現在調査中) し, 時には一時的に/緊急避難的に別工場でプレスした盤もあるでしょう。 各工場ごとに,溝あり溝なしの時期が異なっていてもおかしくは ありませんし,使用したレーベルの印刷工場が異なるというのも ありそうな話です。 マトリクス刻印続いて,レーベルそのものより重要な情報を示唆してくれることの多い マトリクス刻印を比較してみましょう。 [S1] [S2] のレーベルとマトリクス刻印 A面: SR 60134-A-MS5
FF
B面: SR 60134-B-MS5
FF
赤色が刻印,水色が手書きです (以下同様)
これは [S1] と [S2] のものです (両者は全く同じでした)。
1959年頃からクラシック盤を除いて RCA Victor Indianapolis
工場が使われなくなり,別工場にプレスが移管されますが,その時期に最も一般的な
タイプです。
やや縦長の字体を使ったマトリクスが一直線に刻印されている他,
カッティング/プレス担当エンジニアのイニシャルと思しき
FF (F が 2つ重ねられた様なマーク) が書き込まれています。
残念ながら,この時期のマトリクスでは,ラッカー番号 (
今回手元にある [S1] と [S2] は,共に末尾が
2004年11月30日補追:
もう一枚 (買いはしませんでしたが) 確認したところ,
やはり両面 このことから推測できることは,
のいづれかになります。これは今後の調査課題ですが,
[S3] のレーベルとマトリクス刻印 A面: SRC60134-A-MS4
I I
B面: SRC60134-B-MS3
I I
今度は [S3] のものです。
まず目につくのが, 手書き部分 (I I) がマザー/スタンパー番号を表しているのか, エンジニアのイニシャルなのかは,これだけでは特定できません。 同じ特徴を持った他の盤を多く見付けて比較検討するしかないでしょう。
なお,
Refugee さん
所有の盤 (片面溝あり) は,A面がこのタイプの刻印で,末尾は [S4] のレーベルとマトリクス刻印 A面: SR 60134 A M2
C
IIII
B面: SR 60134 B M1
B
IIII
最後に [S4] のものです。
末尾が
また,手書き部分には,マザー番号 ( インナースリーブ最初のオーナーが意図せず他のものと入れ換えてしまったりすることがよくある (別レーベルのスリーブが入っている中古盤なんてよくありますね), 最もあてにならない付属品 - インナースリーブですが,一応載せておきましょう。 今回の 4枚中 3枚がスリーブ付で,[S1] と [S4] が同じタイプのものでした。 左:[S1] と [S4] に付属していたもの。通常 1961年頃の盤によく見られます。 右:[S2] に付属していたもの。通常 1962年〜1963年頃の盤によく見られます。 比較試聴同じスタンパーでも最初にプレスされたものか, スタンパーが摩耗して取り換えられる直前にプレスされたものかによって 音は全然異なります。 また,なにぶん全て中古盤ですから, 今までにどういう扱いを受けてきたかによっても 大きく再生音は異なってくるでしょう。 この様に,比較試聴だけで全てを判断することは危険ですが, 今まで記載してきた客観的事実と照し合せながら,比較試聴を行ってみました。 クラシックの Living Presence シリーズの超絶リアリティ名録音には及ばないものの, Mercury のポピュラー/ジャズのステレオ初期録音には, 見事な録音/ミックスの盤が少なくありません (例えば SR-60029 や SR-60118 など) が,このアルバム “Quintet In Chicago” のステレオ盤は,当時の Mercury のステレオ盤としては, ミキシングがあまり良くないことで知られています。 ライナーノーツに書かれている録音ノートを見ると,以下の様な記載があります。
....In order to achieve the epitome in cohesive sound and coordination,
the group was set up very tight, the way they worked in personal engagements.
Microphones sets were worked out to make for the most possible directivity
of sound with very little crossover,
because this is fundamentally a session which featured solos
by these outstanding progressive jazzmen...
可能な限り残響音を封じ込め,完全オンマイクで録音を行おうとしたことが 強調されています。 回り込む残響音を効果的に取り込み,空間表現に優れた録音を残してきた Mercury レーベルとしては珍しく,ごく一般的なジャズの録音方法をとったようです。 また,このアルバムはステレオミキシングがいまいちです。完全に左チャンネル, 右チャンネルと分離したステレオ定位はやはり不自然ですし, テナガザルやら巨人やらが演奏しているかの様なドラムスも変です。 さて,今回の 4枚の中で最も「良い」と思えたのは [S1] でした。 オンマイクのテナー/アルトサックスの帯域が若干狭く感じられるのは 致しかたないとしても,全体としては低音域も高音域も Mercury らしく 伸びた録音です。 ベースのピチカートやドラムスのハイハットの残響音もきれいに伸びています。 それでいて,大人しくまとまってはおらず,とても「Jazz らしい」 ガッツのある録音です。 Mercury がジャンルを問わず愛用したマイク Telefunken U-47 らしい音,と言えるかもしれません。 [S2] は,[S1] と全く同じ盤のはずですし,確かに音の傾向はほぼ同じなのですが, 残念なことに全体的に音がびりついています。 レーベル上の溝の形状も,若干ヒビが入った様になっていることなどからも, 摩耗したスタンパーでプレスされたものではないかと推測されます。 あまりあてにはなりませんが,付属していたインナースリーブが, [S1] のものより 1-2年あとにみられるタイプだったことも傍証としてあげられます。 がらっと音質が変わるのが [S3] です。 全体的にざらついた音質となり,残響音もやや不安定になります。 サックスの帯域は更に狭く感じられる様になり, バスドラムの音が妙に乾いた不思議な感覚で聴こえるのも気になります。 やはりカッティングエンジニアとプレス工場が異なることを 示唆しているのでしょうか。 [S4] に至っては,更に音が変わってきます。 恐らくイコライジングが施されているのでしょう,全体的に大人しめの 音質に変更されて [S3] よりは随分聴きやすくはなっていますが, [S1] の様な情報量豊かな音とは随分異なって聴こえます。 また,カッティングレベルが他よりは少し低いせいもあってか, サーフェスノイズがその分聴こえてきます。 ちなみに Limelight レーベル から出たリイシュー LS-86009 の音は,[S4] に最も近い音ですが,カッティングレベルも [S1] 並に上がったためか, 少し鮮度は上がっている様に聴こえます。 ただ,[S1] を聴いたあとでは,やはり「いじられた」音に聴こえるのも事実です。
以上の比較試聴からも,今回の 4枚の中では [S1] が最も初期に
プレスされた盤であろうことがはっきりとしてきました。
もし,[S1] のタイプで、マトリクス末尾 問題は [S3] で,[S1] [S2] よりは後の盤だとは思われますが, [S1] [S2] におきかわって [S3] が登場したというよりは,プレス枚数の関係からか 途中から別工場でのプレスが並行して行われだしたのではないかと推測していますが, 実際はどうだったのでしょうか? |