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Mysteries of “Cannonball Adderley Quintet In Chicago”

本コラムに対するご意見やコメントは こちら へお願い致します。
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もうひとつのプレス工場について (2004.11.17 追加)

このコラムの初校を書き終えた直後, 公開前に Refugee さん に見て頂き,メールにて更に情報交換を進めた結果, 新たな事実が判明しました。 それは,[M3] [M4] や [S3] [S4] で見られたような, Mercury 本来のタイプとは異なるデザインのレーベルや, マトリクス刻印情報を持った盤についてです。

そのメールのやりとりの中で,Refugee さんから伺った意見の中に

「手書きの /// という線や,追加で打刻されているアルファベットは, 当時の Columbia レーベル のプレスで見られるものと 特徴がほぼ同じであり,今回の MGCSRC の Mercury 盤は Columbia レーベルの工場でプレスされた 出張プレス ではなかろうか」

というものがありました。

. . . . なるほど,そういわれてみれば確かにそんな気がしてきました。 というわけで,私も早速手持ちの Columbia レーベルのマトリクスを 調べてみることにしました。 20枚ほどしか持っていないのですが,確かに 1950年代中期〜1960年代中期に リリースされたと思われる盤については,同様の特徴がみてとれます。 下に示すのは,1960年にリリース開始したであろう盤, Columbia CL-1516 (mono) / CS-8316 (stereo) “Light And Right! / Neil Hefti Quintet” です。

うちにある CL-1516 (モノーラル, プロモ盤) は,6-eye で Columbia 下に CBS なし, レーベル下部の MARCAS REG. の前に eye マーク, T.M. なし,溝ありですので,1960年頃のプレスと思われます。 確かに,[S4] にあったような,アルファベット刻印と手書きの縦棒が 見られます。


[CL-1516]

Columbia CL-1516 (プロモ盤) のレーベルとマトリクス刻印
A面: XLP-50519-1B    A I
B面: XLP-50520-1B    B IIIIIIIIII
赤色が刻印,水色が手書きです (以下同様)

マトリクス末尾の 1B は, 1番目のラッカー (1), 2番目のマザー (B) を表しています。



一方, うちにある CS-8316 (ステレオ) は, 6-eye で矢印上に「CBS」入り,溝なし (段差あり) ですので, 1962年頃のプレスと思われます。 こちらにも,[S4] にあったような,アルファベット刻印と手書きの縦棒が 見られます。 なお,マトリクス刻印の手前に見られる P は, Columbia レーベル所有の Pennsylvania Pitman 工場でプレスされた,ということを意味しているそうです。

2021/12/03 更新: Lawrence Lovell III さんが連絡を下さって、手書き P 刻印は、ペンシルバニア工場ではなく、ニュージャージーのピットマン工場を意味していると教えてくれました。ありがとうございます。


[CS-8316]

Columbia CS-8316 のレーベルとマトリクス刻印
A面: P XSM-50521-2F    A IIII
B面: P XSM-50522-2H    B III

同様に,マトリクス末尾の 2F は, 2番目のラッカー (2), 6番目のマザー (F) を表しています。



. . . . うーんと,ちょっと待って下さいよ。 これに類似した奴,他にもあったような . . . . そうそう, Mercury Living Presence の手書きマトリクス CCFR, CBFR, CTFR の盤です。 これらの盤は,通常の FR 刻印マトリクス (〜1960年,RCA Victor Indinapolis 工場のプレス) や RFR 手書きマトリクス (1961年〜,Philips Richmond 工場のプレス) とは違い, Columbia Record Club 会員配布用に 「一般的な安価なレコードプレーヤーでも過不足なく再生可能なように」 との要請を受け, Living Presence 担当エンジニアの George Piros 自らが やむなくおとなしめのカッティングをした盤として知られています。 そう,先頭の「C」は,Columbia の「C」だったのです。


[CS-8316]

Mercury SR-90178 “Strauss Family Album” のレーベルとマトリクス刻印
A面: SR 90178A CTFR1    P17    B III
B面: SR 90178B CTFR1    P17    A II

確かに,レーベルに印刷されている字体も, 通常の Living Presence で見られるものとは異なります。 この細みの字体は,どことなく [S4] や [M4] に似ている様な。

補足をしておきますと,この 「SR 90178A CTFR1」 と 「P17」 の部分は,Mercury のエンジニア George Piros 自らが書き込んだ部分です (ちなみに P17 は George Piros 愛用のカッティングレースを 表すコードネームらしいと言われていますが,詳細は不明です。 他には P13, P15, P126 などがあります)。

同時期の手書きマトリクス盤である RFR には見られないのが 「B III」 の部分。まさに上で見た Columbia レーベルの盤に見られる特徴と全く同じです。 そう,これも Columbia レーベルの工場でプレスされた盤だったのです。 MGCSRC の 「C」も, 恐らく Columbia の C を意味するものなのでしょう。

そういえば,[M4] には Columbia レーベルのインナースリーブが 付属していました。Refugee さんのところでも,[S3] と同じレーベルデザインの 盤に,やはり Columbia レーベルのスリーブがついていたそうです。 これ,単なる偶然ではないような気がしてきませんか?

これで溝の有無についても謎が解けました。 [M3] [M4] [S3] [S4] の様なレーベルで溝なしが多く見受けられるのは, Columbia レーベルの工場でプレスされたからでしょう。 事実,Columbia レーベルの盤については,1961年〜1962年頃から 溝なしの盤が現れるようです。




以上の (非常に有力な) 情況証拠を加味すると,件の “Quintet In Chicago” 及び同時期の Mercury レーベルの盤については,

  • マトリクス先頭が MGC, SRC といったタイプは, Columbia レーベルの工場での出張プレス だった

ということでほぼ間違いなさそうです。 Refugee さん 情報提供ありがとうございます!




結論...?

このコラムに明確な「結論」なんてものはありませんが, ともあれ今まで長々と書いてきたことをまとめてみましょう。

“Quintet In Chicago” というアルバムは,

  • もともとは EmArcy MG-36161 / (ステレオ番号不明) として 1959年に出る予定だった
  • それがなんらかの理由でキャンセルされ,Mercury MG-20449 / SR-60134 に変更された
  • 加えて,なんらかの理由で,1959年当時は結局リリースされず, 1960年末になってやっとリリースされた
  • ジャケットデザインは,ステレオ,モノーラル共に, それぞれ 1種類しか存在しないようだ
  • レーベルは多数バリエーションがあり, リリース順の前後を特定するのは難しい
  • が,敢えていうなら, 当時出ていた他の Mercury 盤と同様のタイプのものが オリジナル 1st プレスということになる
  • それは,モノーラルが [M1] か [M2], ステレオが [S1] のデザインで, 溝あり,マトリクス先頭が MGSR, 末尾が MS1 のもの
  • それらのレーベルは必ず溝ありである
  • ただ,ステレオの [S1] で MS1 のものを (私が) 見付けるにはまだ至っていない
  • マトリクス先頭が MGC, SRC といったタイプは, Columbia レーベルの工場での出張プレスであろう (MGT は依然不明)
  • 1962年末か1963年初頭には,廃盤になっていたようだ

ということになりそうです。 当たるも八卦,当たらぬも八卦。さてさて真実は?




余談その1:溝の有無とプレス工場

今回みてきた計8枚については, プレス工場が異なると思われるものは溝なしである場合が多かったわけですが, Mercury 全体をみた場合,溝ありはいつまで使われていたのでしょうか?

[SR-61129]

現在手元にある盤だけで確認したところ, 最も新しい溝ありの盤は MG-21129 / SR-61129 “Out Of Crank / Keith” でした。これは 1967年5月〜7月録音のアルバムで, Mercury が MG-21156 / SR-61156 “The Savage Resurrection” (Ruppli 本では1968年 1月? 録音とされています) あたりを最後にモノーラル盤のリリースをやめてしまうので, このぎりぎりの時期まで溝ありでプレスした工場を使っていたことになります (ちなみに,私が現在所有している Mercury 盤の中で最も新しいモノーラル盤は MG-21151 です。これは溝なし段差ありでした)。 いいかえると,モノーラル盤が廃止される時期とほぼ時を同じくして, 溝ありプレスをしていた工場 (恐らく Philips Richmond でしょう) もとうとう溝なしにスイッチした,というのはありそうです。

一方,溝なしの盤が登場するのは 1961年頃から。 当初は [M3] [M4] や [S3] [S4] で見た様な, レーベルの紙の色が微妙に異なる変則的な (?) プレス (本ページ上の議論から、Columbia レーベルの工場でしょう) に限り溝なしがある様ですが, 赤レーベル導入時期 (1963年頃) 前後よりその比率が徐々に増え, 1966年頃には半数近くに迫ろうかという勢いです。

溝ありスタンパーと溝なしスタンパーが,同一プレス工場内で 長期に渡って 併在することは考えにくいですから, これはやはり 2箇所以上のプレス工場をまわしていたと考えるのが自然です。 一ヶ所は Philips Richmond 工場であることが知られています。 他の工場については,本ページの上で見た通り, Columbia レーベルのプレス工場の可能性が非常に高いです。 他にも Mercury の別工場があった可能性も捨て切れませんし, Columbia 以外の他レーベル工場での出張プレスもあるかもしれません。 これも今後の調査課題のひとつです。 プレス工場の混み具合や,急な追加プレスの注文が入ったりなど, 緊急措置的にいろんなプレス工場を使った可能性は充分にありえるでしょう。

Refugee さん が所有しておられる [S3] の片面溝ありというのは, Columbia 工場でプレスされたもので, A面は溝ありの時期にカッティングされたラッカー, B面は,少しあとに溝なしになってからカッティングされたラッカーを 元にそれぞれ作られたスタンパーを使いプレスされたもの, というのが最も説得力のある説明に思えます。 Columbia 工場で,溝なしに移行したあとにプレスされたもので, A面は,それ以前のラッカーを元に作られたスタンパーである,と。


余談その2:シングル盤

アルバム “Quintet In Chicago” からシングルカットされた曲があることは,意外と知られていません。

[71712]

Mercury 71712 “Limehouse Blues c/w Stars Fell On Alabama” です。

このシングル,当時の Pops や R&B のシングルの大多数がそうだったように, シングル盤にしかない物凄い勢いに満ちたミキシングとカッティングが 行われています。おそらく AM ラジオ曲でかけてもらうことを念頭においたのでしょう, カッティングレベルは非常に高く,中音域にパワーを集中させた カマボコ状のその音は,高音質と呼ぶにはほど遠いものではありますが, 通常の LP に収録されているものとは別次元の音が確かにあります。

残念ながら,両曲とも 3分程度に収まるように編集がなされた短縮版ではありますが, 実に魅力的な盤であることには変わりありません。 是非,同軸フルレンジのモノーラル一発なんかで聴いてみたいものです。


ところで,ここでシングル盤をとりあげたのには訳があります。 シングル盤の場合,LP に比べてリリース枚数は桁がひとつ多いでしょうし, 通常,カタログ番号が決まるのはリリースの直前になってからでしょうから, この 71712 というカタログ番号から, リリースされた時期がおおよそ推定できるというわけです。 ちなみに,前後5枚づつのシングル盤とその録音年月日 (Ruppli の Discography を参照) を列挙してみましょう。

Ruppli 本とはいえども,録音年月日が明確に特定されているものは この程度しかない,という事実に驚かれるかも知れませんが。


番号 アーティスト 録音年月日
71707 Jerry Glenn September 1, 1960
71708 Jerry Raines 1960
71709 Curley Herndon 1960
71710 Don Johnston (aka Bobby Johnston) September 7, 1960
71711 The Clebanoff Strings 1961?
71712 Julian “Cannonball” Adderley February 3, 1959
71713 Wally Wiggins 1960
71714 Boyd White 1960
71715 Bobby Hendricks (aka Belford Hendricks) 1959?
71716 Carmen McRae September 14 & 15, 1960
71717 Orville Couch 1960

. . . . え,71716 の Carmen McRae のシングルが気になるって?

まあまあ,それはまた改めて紹介するとしまして, ここでは録音年月日の並びを見てみましょう。 71711 (The Clebanoff Strings) の録音年月日が Ruppli 本では「1961?」となっているのが少しひっかかりますが, これはあくまで「?」ですので,この際除外します。

  • シングル盤は LP とは違い,カタログ番号の並びとリリース順はほぼ一致している
  • LP からのシングルカットの場合,LP のプロモーションも兼ねているので ほぼ同時期のリリースであることが多い
  • 通常,シングルオンリーの楽曲については, 録音してから 2ヶ月程度でリリースされるケースが多い

といった,妥当であろう仮説を元に考えると,アルバム “Quintet In Chicago” のリリースが 1960年末という傍証になると思われます。


[L3055]

なお,1964年末のリイシュー Limelight LM-82009 / LS-86009 にあわせて,シングル Limelight L-3055 “Limehouse Blues c/w Stars Fell On Alabama” が再度リリースされました。 この盤でも,Mercury LP -> Limelight LP の時と同じく, 上の Mercury 71712 と比べてしまうと 全体的に聴きやすい様なイコライジングが施されている様に感じられます。 とはいえ,それでも充分にシングル盤らしい音であることは事実です。




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