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A Few Facts About EmArcy Label, Pt.2 (Page 7 of 7)
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目次
まとめ(10インチ/12インチ LP のオリジナル盤判定基準)ここまで書いてきた情報を総合して、エマーシー (EmArcy) の LP リリース(10インチ、12インチ)のオリジナル判定のためのデータとしてまとめてみました。現時点で最も正しいものと考えますが、これが絶対的に正解とは言い切れません。ここに記すデータ、及び直前までのページで紹介してきたデータに反する実物をお持ちの方は、是非ご一報下さい。
おまけ:MGM 工場プレス推測の根拠ここまで書いた内容で、今回私が初めて、過去に本サイトで示した推測を覆した箇所があることに気付かれた方がいるかも知れません。中ドラマー時代の手書きマトリクスタイプのプレス工場について、私は今まで「恐らく自社工場」という説をとってきましたが、今回「恐らく MGM Bloomfield 工場」と修正しました。ここでは、この説について、簡単に記しておきます。 1946年に始まった MGM (Metro-Goldwin-Mayer) レーベルは、その設立当初から、自社でのプレス工場を持っており、他の多くのレーベルの出張プレスも行っていました。MGM の持つ東海岸工場(New Jersey 州 Bloomfield)では、例えば Atlantic レーベルのプレスが行われていたことは知られています。下の広告は、Atlantic 特集記事が掲載された Billboard 誌1958年1月13日号に載った、当時 Atlantic レーベルのプレスも行っていた MGM Bloomfield プレス工場が載せた広告です。 その他、Patti Page の “Tennessee Waltz” が大ヒットを記録していた 1951年当時、Mercury はその大量のプレスをまかなうために、MGM Bloomfield 工場に何割かのプレスを委託していたそうです (Billboard 誌1951年1月27日号35ページ)。 Mercury はその設立当初である1945年より既に、本社のある Illinois 州 Chicago に持っていたプレス工場のほか、St. Louis 工場も自社で持っていましたし、レーベルの急速な成長により、New Jersey 工場(Majestic レーベル買収により)と Los Angeles 工場(Keynote レーベル買収により)も確保、中部、南部、西部、東部に自社プレス工場を持っていたことになります。しかし EmArcy の初期、1954年の自社工場プレス(順当に考えれば Chicago 工場プレスでしょうか)の品質悪化(盤の白濁したような表面、多めのサーフェスノイズなど)が顕著となったためでしょうか、当時米国で最も高品質なプレスを行っていたといっていい、Illinois 州の隣、Indiana 州の Indianapolis にあった、RCA Victor プレス工場への LP プレス委託を開始します。 1955年〜1957年には、Mercury のポピュラーシリーズ(MG-20000番台)、EmArcy(MG-36000番台)、クラシックの Living Presence シリーズ(MG-50000番台)と、主力 LP リリースのほぼ全シリーズで RCA Indy 工場プレスとなっていました。ただ、RCA Victor も当然ながら自社のレコードプレスを最優先したでしょうし、他のマイナーレーベルからのプレス依頼も多かったはずで、増える一方の Mercury LP リリースをさばけなくなっていたことが想像されます。そういった事情もあってなのか、価格面など経営的判断からなのか、Mercury モノーラル盤は 1958年に(最高の高品質・名録音を売りにしていた)Living Presence シリーズを除き、RCA Indy プレスを終えました。 ところが時はステレオLP黎明期。時をほぼ同じくして、Mercury ポピュラーシリーズステレオ(SR-60000番台)、Mercury (EmArcy Jazz) ステレオ(SR-80000番台)、Living Presence ステレオ(SR-90000番台)と、当時最先端のステレオレコードプレスをやはり全て RCA Indy 工場に委託していました。 当時の Mercury の RCA Victor 工場への依存っぷりは大変なものです。それだけ、高品質プレスへの信頼があったということでしょう。実際、この当時の最初期ステレオプレスは、品質も非常に良く、また再生音も抜群なものが多いです。 ちょうどその頃 Mercury は、1958年5月に、US Decca が持っていた Indiana 州 Richmond のプレス工場を買収しました(Billboard 誌1958年5月5日号4ページ)。Mercury は 1959年頃から、このプレス工場をメインに据え、ほぼ全シリーズ・全傍系レーベルのLPプレスをここで行い始めました(廉価盤リリース用の Wing レーベルは、この Richmond の他、別の工場を使っていた可能性もあります。また EmArcy の最末期、楕円ロゴレーベルで手書きマトリクスについても、その盤の特徴から Richmond 工場プレスでない可能性もあります。現在調査中です)。1960年頃には、クラシックの Living Presence もついにこの Richmond 工場プレスに変更されます。1961年に Mercury がオランダ Philips 傘下に入ったのちも、1960年代を通じて、Mercury のメイン工場として幾多のプレスがここで行われました。 この RCA Indy 工場プレス(1955年〜1958年)と Richmond 工場プレス(1959年〜)のはざまに、Mercury ポピュラーシリーズ(MG-20000番台)と EmArcy(MG-36000番台)のプレスを担ったのが、MGM の New Jersey プレス工場ではないかと考えられます。 なぜそう考えるのか。それは、2年前にとある縁で知り合った方から頂いたデータ、および現物からでした。 それは、元 Polygram のエンジニア、現在は Sony BMG のリマスタリングエンジニアとして数えきれない程の良質な CD リイシューに関わっておられる Mark Wilder 氏です。Mark さんが20年以上も前、Polygram 勤務時、廃棄寸前であったテストプレス盤を救って下さったのです(この件に関する記事は過去に 私のブログ に載せました)。とあるきっかけで私にメールを下さり、その後、当時手元に保管していた11枚の テストプレス(10枚が EmArcy、1枚が Mercury)の全レーベル・ジャケットのスキャンを提供して下さった他、光栄にも Helen Merrill の “The Nearness Of You” (MG-36134) の大変貴重なテストプレスを譲って下さいました。片面盤2枚組です。 (EmArcy MG-36134 “The Nearness Of You” テストプレス盤の手書きジャケット右上のスキャン) (MG-36134 テストプレス、A面盤のレーベル) (1958年6月16日にカッティング、6月19日にテストOK、の書き込みが見られます) 片面盤(A面盤とB面盤)の2枚組なのですが、それぞれの裏面は、通常なにもプレスされてないか、無音のダミー溝がプレスされているかであることが多いのに、なぜか通常の盤がセットされ、その後カッターナイフか何かで傷を入れられたようです。しかも MG-36134 とは全く無関係なものです。譲って頂いたこの MG-36134 の他、スキャン写真のみ提供して頂いた MG-36132、MG-36140 のテストプレス(片面盤)の裏面にも、やはり同様の音溝入りダミー面がプレスされていました。 (MG-36134 テストプレス、A面盤のダミーサイド) 傷が入れられているとはいえ、せっかく音溝があるのですから、ダミー面を聴いてみたくなるのは当然です。再生してみると、聴き慣れた Hank Williams の “Please Don't Let Me Love You”, “I'm Satisfied With You”, “No One Will Ever Know”... が、定期的に現れるノイズと共に聞こえてきました。
このダミー面のマトリクスを見てみると (MGM E-3605 A面のレーベル。レーベル上の溝の太さと形状に注目)
Mark さんから提供してもらったスキャン写真をみてみると、MG-36140 テストプレスのダミーサイド(やはり黄色無地レーベル)には そういえば、この時期の Mercury / EmArcy のプレスは、MGM レーベル(や Atlantic レーベル)と同様、レーベル上の溝(DG)の幅が太めで、かつ断面が半円ではなく長方形っぽい感じです。同じ時期に同じ工場でプレスされたのであれば、(ラッカーがどこでカットされたのであっても、メタルマスターがどこで製造されたものであっても)レーベル部分に現れる溝などの特徴は同じになるはずです。「レーベル面の溝およびその内側の部分は、スタンパーに由来せず、プレスマシンに取り付けるスピンドル部分に由来する」という話を 4年以上前に拙ブログに掲載した こともありましたね。 テストプレスのダミー面に、他社の何も関係ない盤を使うわけはありません。つまり、この MG-36134 のテストプレス盤は、MGM 工場でプレスされたことを間違いなく証明しているといえます。しかも、このテストプレス盤は、レコード盤そのものの特徴や、マトリクスの特徴は MG-36134 通常盤と全く同じです(もちろん、テストプレスの再生音は、通常盤をはるかに上回る素晴らしいものでしたが)。 つまり、MG-36105〜MG-36150 (や、同時期の Mercury ポピュラー 20000番台)で使われていた手書きマトリクスのプレスは、MGM 工場プレス であったと考えるのが妥当でしょう。 おわりに2006年公開の 前編 から5年以上、予定より公開が余りにも遅れてしまいました。また、予定より分量が多くなってしまいました。ともあれ、幾人もの方々からリクエストを頂いていた内容を(今回は残念ながら日本語のみですが)やっと公開できました。いままでに大量に調べてきた内容を総合的に反映させた、現時点で最も説得力のある内容になっているかと思います。 ただ、これが絶対的な真実とは言い切れません。わたしの推測が間違っている部分もあるかもしれませんし、見逃している事実もあるかも知れません。今回の記事内容を補足する資料や、今回の記事内容と矛盾する資料(レコード現物も含む)をお持ちの方、発見された方(特に、上の表で、マトリクス刻印が「両面MG」または「片面YMG/片面MG」となっているのに「両面YMG」の盤をお持ちの方)がいらっしゃいましたら、是非ご一報下さい。 より客観的で正確な情報を皆で広く共有できれば、と思います。 次回の後編では、EmArcy と関係の深いもうひとつの傍系レーベル Wing レーベルについて、また、1959年以降の EmArcy というブランドの変遷について、詳しく書く予定です。今度はあまり時間をあけずに記事を公開できるようにしたいです。。。 |