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A Few Facts About EmArcy Label, Pt.2 (Page 2 of 6)
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目次
When the first EmArcy disc was released本題に入る前に、1954年〜1955年当時のリリース状況、リリース開始時期の特定などについて、少し記しておきます。 前編 で書いた通り、Down Beat 誌の1954年3月24日号に、Mercury の傍系レーベルとして、ジャズ専門の EmArcy レーベルが発足した記事が掲載されています。また、EmArcy レーベルとしての録音が始まったのは1954年2月からであることが分かっています(Paul Bley Trio の録音が 2月3日)。 ここから判断すると、実際のリリースは、その1-2ヶ月後、おおよそ 1954年4月頃 から始まったのではないか、と類推できます。 ところが、 Down Beat 誌1956年1月25日号 に掲載された EmArcy 特集では、プロデューサー・スーパーヴァイザーの Bob Shad 本人の書いた文章の中に、EmArcy 最初のリリースは「1954年10月」と書かれているのが見付かります。また、 The Billboard 誌 1955年10月1日号 の記事でも「Mercury の傍系ジャズレーベルである EmArcy は、この10月で一周年を迎える」と記載されているのを見付けることができます。 1954年4月、1954年10月。どちらが本当なのでしょうか? 調べてみると、 The Billboard 誌の 1954年5月1日号の40ページ に、EmArcy レーベルの SP 盤3枚 (16000, 16001, 16002) の広告が掲載されているのを見つけました。 広告の一番下に「CYMBAL SERIES IS FOR ALL JAZZ RELEASES」とあります。この Cymbal Series という表記は、EmArcy の SP 盤(および同一内容の45回転シングル盤)の最初の4枚(16000〜16003)にしか存在しないものです。 ちなみに次の 16004 は Tiny Grimes, Tiny Bradshow などのバンドを渡り歩いたのち独立、ブリブリホンカーっぷりで有名になった Red Prysock の「Jump, Red, Jump c/w Body And Soul」ということになっていますが、いまだに存在が確認されておらず、おそらくリリースされなかったのではないかと思われます(同一内容は結局 Mercury 70367 としてリリースされました)。
もしかしたら、EmArcy スタート直後は、ジャズ音源は Cymbal Series として、それ以外の R&B 系などは別シリーズ名として、それぞれリリースする計画だったのかもしれません。しかし、結局、その方式をやめ、R&B 系録音は Mercury および Wing(のちの廉価盤リリース用の Wing ではありません。これについては次回詳しく書きます)からリリースすることとし、 EmArcy はジャズ専用とした、そのため Cymbal Series という表記がレーベルから消えたのではないか、とも推測できます。
さて、その4週間後の 1954年5月29日号の56ページ に出ている広告では、EmArcy の SP 盤と 45回転シングル盤のうち 16006 / 16006x45 までが掲載されています。やはり 16004 / 16004x45 (Red Prysock) は未掲載です。 また、すでに Cymbal Series の表記が消えていることから、上で述べた推測の妥当性が伺えます。ともあれ、これらの広告から、EmArcy SP / シングル盤のリリースが始まったのは、 1954年4月末頃 とみて間違いないでしょう。 なお、 16003 / 16003x45 (Leon Sash) は 1954年5月15日号に「just released」との記事が載り、1954年7月10日号にレビューが掲載されているのを確認しました。また、 16008 / 16008x45 (Paul Gonzalves) と 16010 / 16010x45 (Billy Eckstine) は 1954年6月26日号に、 16011 / 16011x45 (Med Flory) と 16012 / 16012x45 (Leon Sash) は 1954年7月31日号に、 16015 / 16015x45 (James Moody) は 1954年8月7日号に、それぞれレビューや新譜紹介で掲載されています。これらの SP 盤・45回転シングル盤は、この時期にリリースされたのはほぼ間違いないでしょう。 また、EmArcy は当初 SP盤や45回転シングルでのみリリースされ、続いて10インチ LP や12インチ LP のリリースが行われたことになります。これは前回触れた通りです。
15枚リリースされた EmArcy のシングル盤(EP ではありません)。この中で、まがりなりにも小ヒットを記録したといえるのは(Down Beat 誌のレビューで五つ星を獲得した)
Leon Sash の 16003 / 16003x45 だけだったようです。恐らく、プロデューサの Bob Shad は、EmArcy 開始直後はシングルリリースに主眼を置いていたものの、やはり時代の要求や当時のジャズの形態の変化にあわせ、アルバムリリース中心に変更した、というあたりが事実なのでしょう。
次に EmArcy の記事が Billbobard 誌に載るのは 1954年7月17日号の12ページ の「Merc Mapping Big Drive for Package Goods」においてです。ここでは「8月までに EmArcy の LP や EP を42枚リリース開始予定」「リリース予定アーティストは Maynard Ferguson、Patti Page、Sarah Vaughan、Erroll Garner、Paul Bley、Art Blakey、Leon Sash、Paul Quinichette など」と記されています。 続く 1954年7月24日号14ページ でも「EmArcy Jazz: Label Plans LP, EP and Single Disks」という記事が掲載されています。 ただ、8月〜9月に発行された雑誌や新聞で EmArcy の LP の広告や記事・レビューは見付からず、最初に「EmArcy」リリースを伺わせる記事を見つけることができるのは 1954年10月2日号 で、「Merc 5-Point Plan Launches Fall Drive」という記事中に「EmArcy Jazz Long Plays」が現れ、またサンプラー(Demonstration Disk、恐らく 7インチの DEM-1 のことでしょう)がまもなく登場することが触れられています。 また、翌月の 1954年11月6日号 では、新譜レビュー欄に EmArcy 盤が現れます(MG-26001、MG-26003、MG-26005、MG-26020 の4枚がレビューされています)。この辺りから判断して、10インチ LP のリリース開始 は 1954年10月頃 からだったと思われます。 つまり、先に触れた Bob Shad 本人の言説「1954年10月リリース開始」とは、この LP リリース開始時期のことを指していたのだと思われます。 さて、上で「リリース予定」と挙げられたアーティストのうち、Patti Page は 1954年には EmArcy からリリースされていません(Mercury からは大量にアルバムがリリースされていました)。また、Paul Bley も1955年以降に Wing レーベルから初リーダーアルバムが出るまでは(EmArcy のシングル盤を除いて)リリースはありませんでした。Leon Sash も、アルバム1枚分の録音が当時行われ、シングル盤も2枚リリースされたにも関わらず、結局アルバムリリースはありませんでした(しかし、のちに未発表音源も含めた集大成が 限定盤LP として 1983年にリリースされました)。
Bob Shad 氏が 1954年8月のLPリリース開始に向け、多くのアーティストとの契約を進め、頻繁にレコーディングセッションを行い、カタログ番号の割り振りも早々に行ったものの、なんらかの事情があったのか、実際のリリース開始は10月まで遅れ、リリース順もカタログ番号順とは大いに異なるものになった、という事情がみえてきます。
そして Billboard 誌の 1954年12月11日号の40ページ に掲載された広告には、 15枚の10インチLP (MG-26001, MG-26004, MG-26005, MG-26006, MG-26007, MG-26013, MG-26015, MG-26017, MG-26020, MG-26021, MG-26022, MG-26023, MG-26027, MG-26032, MG-26043) と、1枚の12インチLP (MG-36001) が、一部ジャケット写真入りで宣伝されています。 翌年の 1955年1月29日号 に掲載された広告では、“Dazzling Top Sellers” として MG-26005, MG-26030, MG-26032, MG-26043 の4枚が、そして “Exciting New Releases” として MG-26024, MG-26038, MG-26045, MG-36000, MG-36001, MG-36002 の6枚が宣伝されています。 先程の1954年12月の広告に載っていなかった MG-26024、 MG-26038、 MG-26045、 MG-36000、 MG-36002 は、1955年1月(ないし1954年12月末)にリリース開始されたという線がこれで濃厚になりました。 ここまでに紹介した記事や広告、そして 前回のコラム中 で紹介したパンフレットをあわせて変遷を追ってみると、1954年後半、正確には1954年10月頃から年末にかけ、ものすごい勢いで10インチLPが大量にリリースされていたらしいことが伺えます。 1955年4月23日号の広告では、MG-36000〜MG-36006 の6枚が掲載されています。つまり、1955年1月〜4月にかけて、MG-36003〜MG-36006 の4枚のリリースが開始されたことが伺えます。 少し飛んで1955年10月22日号の広告には、 MG-36019、 MG-36020、 MG-36021、 MG-36024 の4枚が掲載されています。この4枚は、1955年10月頃にリリースが開始されたことが伺えます。 Tips to identify release period / sequence以前も別のところに書いたことがありますが、「カタログ番号順と実際のリリース順は必ずしも一致しない」ということが、上に紹介した広告などからも伺えるかと思います(これは、Mercury だけに限らず、世のどんなレーベルでも言えることです)。特に Mercury レーベルでは顕著な気もしますが。。。
例えば、先程の1954年12月11日号の広告の場合、唯一の12インチLPとして Erroll Garner の「Contrasts」
(MG-36001)
が掲載されていましたが、カタログ番号順ではその前になる「Dinah Jams Featuring Dinah Washington」
(MG-36000)
は掲載されていません。この MG-36000 については、やはり Billboard 誌の
1955年2月5日号22ページ
の新譜紹介欄に取り上げられていることから、MG-36001 よりもあとにリリースされたことが伺えます。
このことはオリジナル盤のジャケットのある特徴からも窺い知ることができます。それは 背表紙 です。 EmArcy の 10インチLP(26000番台)全49枚のうち、 MG-26000 から MG-26045 までの46枚については、背表紙には何も印刷されていません。カタログ番号やアーティスト名、アルバムタイトルが背表紙に印刷されているのは、 MG-26046、 MG-26047、 MG-26048 の、最後の3枚のみです。ちなみに、MG-26046 が Billboard 誌「新譜アルバムレビュー」に掲載されるのは、予想外に遅く、1955年5月14日号においてです。
で、12インチ(36000番台)の方は、というと、
MG-36001
のみ背表紙印刷なしで、あとはすべて印刷ありです。常識的に考えて、背表紙印刷なしの方がより古く、背表紙印刷ありの方がより新しいことは自明ですから、上の広告(数ある10インチLPと一緒に1枚だけ12インチが掲載されている)やレビューの掲載時期などとあわせて、EmArcy の 12インチLP の中で最初にリリースされた盤が MG-36001 であることは間違いないでしょう。
ここまでのまとめ
なにがオリジナル盤か。ある特定のアルバムについて、いちばん最初にリリースされた時のジャケット・レーベル・デッドワックス刻印・付属品などの特徴はどんなものか。実際にリリースされた時期や順番はどうだったのか。 これを考える上で、知られている全バリエーションを列挙し、その特徴を比較することは非常に有効です。もちろん、特に1960年代に入ってから顕著ですが、LP の生産がより大規模に大量になってくるに従い、単一プレス工場、単一印刷工場だけでは間に合わなくなり、同じレコードの最初期プレスであるはずのに、複数のバリエーションが確認される場合なども増えてきますので、注意が必要です。また、同じ特徴を備えていたからといって、必ずしも同じ時期のリリースとは限らない(同一スタンパーを後年再利用したり、同一スタンパーを別工場で使ったり、など)のは皆さんご存知の通りです。 リリース順、またリリース時期の絞り込みについては、やはり当時発行されたカタログ類、また雑誌・新聞の広告欄やレビュー欄が非常に有力な証拠となりえます。ただ、広告やレビューが載ったからといって、絶対にその時期にリリースされたとは限らない(例えば、広告を載せたがその後リリースは延期された、であったり、リリース直前にレビュー担当者に届けられていたのに実際にレビューが行われ掲載されるまでに時間がかかってしまった、など)ことに留意する必要があります。 レコード盤やジャケットなどの物的特徴をより多くのサンプルを使って調べ、比較する。そしてカタログ、広告、レビューなどを丹念にあたる。これらの情報を総合して、思い込みを排除し、もっとも客観的に妥当と思われる結論を導きだしていく。私が調査を行う際に、常に念頭に置いている点です。 次ページ以降に掲載する情報は、いま上で述べたようなことに留意しつつ、数多くの盤(自分のコレクションのみならず、懇意にさせて頂いている中古レコード店に去来する現物)の多くを実際に手にとって確認し、またオンラインオークションに出品される盤の写真などから継続的に情報をまとめ続けた結果、現時点で私が最も妥当だと判断するものです。この10年間、恐らく何千枚という数の Mercury レーベル・傍系レーベルの盤について、そうやって飽きもせずにリサーチを行ってきた結果ということになります(笑)。 |