Part 1 (Bethlehem, Fantasy, Pacific Jazz)、 Part 2 (Roost, Atlantic, Blue Note)、 Part 3 (Riverside)、 Part 4 (Prestige) に続く第5回は、私の手持ちのカタログの中で 2番目に古いものです。 もちろん戦前、日本的にいうと昭和10年代 (笑) ですので、当時は SP 時代全盛期。私の様な SP 初心者のコレクションには、本カタログに掲載されているものはほとんど含まれていません (笑)
OKEH ELECTRIC RECORDS JANUARY RELEASE (January 1934?)
横12.5cm、縦20cm の簡素な 1枚ものタイプで、よって表紙込みで全2ページです。紙質は わらばん紙?ざらばん紙?っぽい薄手のものです。印刷年は一切かかれていません (発行年の類推については本記事後半にて) が、「JANUARY RELEASE」とあることから、年の初めに配られた簡易式のパンフレットのようです。表に描かれたジャズバンドが楽しそうですね。
一番下には価格も書かれていますね。1枚 35セント。3枚まとめて買えば 1ドルだったそうです。
表から裏にかけて、その「JANUARY RELEASE」として 8枚がリストアップされています。内訳は「VOCAL RACE RECORDS」が 5枚 (Mississippi Sheiks, Bo Carter, Lonnie Johnson, Bessie Smith)、「HOT DANCE」が 1枚 (Harlem Footwarmers)、そして「HILL BILLY RECORDS」が 2枚 (Ann, Judy and Zeke with Pete, Jenkins Family) となっています。当時はまだ「HILL BILLY」と、間にスペースが入っていたんですね。
そして裏には「Alphabetical Listing of Recently Announced OKEH Records」と銘打たれて、このパンフレットより少し前にリリースされたと思われる準新譜の紹介が続きます。あ、一枚だけ持っている盤を見つけた . . . . ってこれ一枚だけですが (笑)
Louis Armstrong (cor, vo), Kid Ory (tb), Johnny Dodds (cl), Lil Hardin Armstrong (p), Johnny St. Cyr (g, bjo), Lonnie Johnson (g) という、ルイ・アームストロング率いるオリジナルホットファイヴの最終録音 (1927年12月13日) にして決定的名演とされる本 SP ですが、盤質はあまり良くありません。蓄音機の鉄針で聞かれまくったのか、両面ともまんべんなく白みがかっています。
うちの環境で再生すると、やはり音溝の摩耗を感じてしまう音になるのですが、不思議なことに、昨年瀬谷さんのお宅を訪問した 際に瀬谷さんのシステムで聞かせてもらいましたところ、摩耗がそんなに気にならない立派な再生音になりました。さすがに SP 向けのシステム、実力の程がまるっきし違いますね . . . .
レーベルデザインも、どうやらオリジナルとは微妙に違うようです。残念ながらこの辺の古いオーケーレーベルの変遷に詳しくはありませんので、どなたか詳しい方解説をお願いします (笑) スタンパー番号も “Savoy Blues” の面が B-6、“Hotter Than That” の面に至っては A-17 というものですから、最初期プレスの超フレッシュな音とは違っているのかもしれません。
ちなみに こちらのサイト に掲載されている盤では、スタンパー番号がそれぞれ A-4 と A-5。レーベルデザインも微妙に異なりますし (左上の「NOT LICENSED FOR RADIO BROADCAST」がない)、レーベル上の溝の位置も異なります。
さて、本パンフレットの発行年について考えてみましょう。幸い、「The Online Discographical Project」のサイト上で、オーケーレーベルのリスティング及び各盤の録音年月日の一覧が掲載された「Okeh 8000 series numerical listing pt. 2」というページをみつけましたので、これを頼りに、本パンフレットに掲載された 8000番台の各録音年月日を列挙してみましょう。
No. | Artists | Recorded Dates | Matrix No. |
---|---|---|---|
JANUARY RELEASES | |||
8953 | Mississippi Sheiks | Oct. 24 & 25, 1931 | 405015 / 405024 |
8952 | Bo Carter | Oct. 25, 1931 | 405029 / 405025 |
8946 | Lonnie Johnson | Aug. 12, 1932 | 152259 / 152260 |
8945 | Bessie Smith | Nov. 24, 1933 | 152580 / 152577 |
8635 | Lonnie Johnson | Nov. 26, 1928 | 401337 / 401336 |
8720 | Harlem Footwarmers | Aug. 2, 1929 | 402553 / 402551 |
45578 | Ann, Judy and Zeke with Pete | ??? | ??? |
45460 | Jenkins Family | ??? | ??? |
Alphabetical Listing of Recently Announced OKEH Records | |||
8680 | Louis Armstrong and his Orchestra | Dec. 5, 1928 / Mar. 5, 1929 | 401691 / 402169 |
8535 | Louis Armstrong and his Hot Five | Dec. 13, 1927 | 82056/ 82055 |
41569 | Wingy Mannone and his Orchestra | ??? | ??? |
8689 | Dunn’s Gin Bottle Four | May 1, 1929 / Apr. 30, 1929 | 401843 / 401842 |
8762 | Johnson and Williams | Jan. 8, 1930 | 403597 / 403598 |
8950 | Butterbeans and Susie | Aug. 13, 1930 / Feb. 1, 1930 | 404294 / 403711 |
8951 | Mississippi Sheiks with Bo Carter | Oct. 25, 1931 / Jun. 10, 1930 | 405020 / 404139 |
45575 | Crazy Hill Billies Band | ??? | ??? |
45576 | Ann, Judy and Zeke | ??? | ??? |
ヒルビリーの 40000番台は全然分からないのでこの際おいておくとして、それにしても 8000番台ですら、カタログ番号順とリリース順、録音順はまるっきり一致してなかったことが、ここからよく分かります。リリース順とカタログ番号順くらいはおおまかに一致していてもおかしくなさそうなのに、そうでもない。唯一いえるのは、マトリクス番号と録音順がほぼ一致しているという当たり前の事実だけ。なんともまぁ、実に不思議なことではあります。
それはさておき、本パンフレットに掲載されている盤の中で、最も録音が新しいのは 8945番の Bessie Smith、1933年11月24日録音とされています。ということは、このパンフレットは 1934年1月 に発行されたものと考えるのが妥当でしょうかね。ふーむ、サッチモの「Hotter Than That」は 1927年録音なのに、リリースされたのは 1933年だったということですか . . . .
もうひとつの判断材料として、表紙中央上に印刷された「NRA MEMBER – WE DO OUR PART」という鷲のマークがあります。この NRA というのは National Recovery Administration、日本語でいうと全国復興庁とでもいうのでしょうか。第一次大戦後にアメリカを襲った大恐慌のなか、ルーズヴェルト大統領によるニューディール政策の一環として 1933年に設立されたものです。そしてこの NRA は期待通りには機能せず、1935年に違憲であるとの判定がくだったとのこと (そんなん世界史で習ったかいなぁ)。
このマークが本パンフレットに印刷されているということも、1933年以降、恐らく 1934年1月か 1935年1月の発行であろうということを示しているといえそうです。
Google で「NRA “We Do Our Part”」をキーにイメージ検索した結果 あたりを出発点にあれこれ読んでみると、当時の事情についての記事がいろいろ見られて興味深いです。
References & Special Thanks:
-
The Online Discographical Project
(by Tyrone Settlemier) -
The NIRA – Reviving the heart of America
(by Paul Volpe) -
“We Do Our Part”
(at History Matters)
» . . . たぶん 「Old Record Catalogues, Pt.6」に続く . . . »
1934年前後になると、紹介カタログの裏にあるようにManufactured by COLUMBIA PHONOGRAPH になります。
したがって、新譜のラベル下にはCOLUMBIA PHONOGRAPH の文字が入ります。再プレス盤に関しては、OKEH PHONOGRAPH 時代のラベルの在庫があるものは、なくなるまで使っていたと思われます。
OKEH の1st、2nd に関しては、オークション・リストでも記載がないところが多く、価格が価格だけに入札を躊躇します。せめて、ラージかスモール、COLUMBIA PHONOGRAPH かOKEH PHONOGRAPH かくらいの表記はして欲しいですね。
私の「Hotter Than That」は「こちらのサイト」と同じでした。Hotter Than ThatがB-1、Savoy Blues がA-4 でした。
昨夜、会の選曲とプレゼントCD の録音をしました。ホッとしています。
『The Almost Complete 78 RPM Record Dating Guide (II)』によるとOkehの8000番台のリリース年月は
8920 1/32
8930 6/32
8940 1/33
8945 6/33
8948 1/34
8954 1/35
8966 4/35 (last)
としています。ただ、本当に35年までリリースされていたかどうかという点には疑問が残ります。というのは『American Record Labels and Companies / An Encyclopedia (1891-1943)』には次のように書かれているからです。
『1933年、“Okeh Phonograph Corporation”の印刷はレーベルから消え、ついにOkehはColumbia製品とクレジットされるようになる。Columbiaの弱小傍系レーベルへと格下げになり、1934年のAmerican Record CorporationによるColumbia買収後は、Okehレーベルは完全にリリースを止めた』
わたしは持っていませんが『Discography of OKeh Records, 1918-1934』(Ross Laird & Brian Rust)ともう少し詳しいことが分かるかもしれません。
いずれにせよ、Okehレコード最晩年の資料、不況のせいも手伝ってかOkehレーベルのリリース点数も極端に少なくなっていただけに、本当に貴重かつ珍しい資料だと思います。
> 1934年前後になると、紹介カタログの裏にあるようにManufactured by COLUMBIA PHONOGRAPH になります
興味があるのが今回の 8535 で、実際のところこいつがリリースされたのが (今回の資料からの推測で) 本当に 1933年末なのか、それとも、このカタログがたまたまやや古いものも「Recently Announced」として載せていたのか、ということです。
> 私の「Hotter Than That」は「こちらのサイト」と同じでした。
そうでしたね。昨年伺った時に拝見して「あーレーベルが違う」って思ったのを思い出しました (笑) 瀬谷さんがお持ちのものがファーストレーベルってことなんでしょうね。とするとなおのことこいつの初回リリース時期が気になるところです。
ま、この辺は諸先輩方の様に詳しいわけでもありませんので (笑) とりあえず資料を展示してみました、という程度で . . . .
出口さん、またまた情報ありがとうございます。
> 不況のせいも手伝ってかOkehレーベルのリリース点数も極端に少なくなっていただけに
といったことすら初めて知ったわたくしでした (笑)
ともあれ、Okeh 最末期のパンフレットだったわけですね。
たしかにこの時期、1930年代前半は大恐慌の後で大変だったんでしょうね。第二次大戦で軍需景気にわくまでは。
かとおもうとその後レコーディングストがあったり。いやはや歴史であります。
あ、そういえば、
> 昨夜、会の選曲とプレゼントCD の録音をしました。ホッとしています。
お疲れ様でした。
以前メールしました理由により、今回は私用で行けないのが本当に残念ですが、
CD は 1枚だけキープしておいて下さい (笑)