Unplayed by Human Hands — DEC PDP-8

いつかは欲しいと思ってたLP、やっと手に入りました。

カリフォルニア州パサデナ All Saints Church で1975年に録音された本作、パイプオルガンを 1965年製 DEC PDP-8 (!) で自動演奏したものです。

Unplayed By Human Hands (Creative Record Service CR-9115, 1975)

Initiated by Mr. Prentiss Knowlton

本盤製作を主導したのは Prentiss Knowlton 氏、1971年にユタ大学で計算機科学の Ph.D を取得、1972年から NASA JPL (Jet Propulsion Laboratory) に所属していたそうです。

現在は UCLA エクステンションで C++ や JS の教鞭をとっているそうです。

Knowlton 氏は Datamation 誌1972年5月号 pp.56-60 に “Capture and Display of Keyboard Music” という記事を寄稿しており、こちらはオンラインで読めます。

この記事では、MIDIも存在しなかった時代、譜面情報の符号化のいち手法 (Music Description Language) を紹介しています。

Fig.12: Music Description Language

source: “Capture and Display of Keyboard Music”, Datamation, May 1972, p.60.

Knowlton 氏の博士論文のタイトルは “Interactive Communication and Display of Keyboard Music” (1971) で、こちらは未読です。

90-Rank Schlicker Pipe Organ played by PDP-8

ある掲示板スレッド(現在は wayback machine で閲覧可能)で、当該アルバム制作スタッフの1人が当時のエピソードを語っているのを見つけました。

そこでは、実際にパイプオルガンを自動演奏したミニコン PDP-8 上で使用された LML (Linear Music Language) についての簡単な説明がされています。

LML allowed us to specify the music as a sequential ASCII string. The job of the PDP-8 was to read that ASCII text, which was punched on 1″ wide paper tape using a teletype, and convert it into the parallel bits needed to play the organ.

LML によって、音楽を連続したASCII文字列として表現可能となった。PDP-8 の担当する処理は、テレタイプを使って1インチ幅の紙テープに打ち込まれたそのASCIIテキストを読み取り、オルガン演奏に必要なパラレルビットに変換することであった。

“Unplayed by Human Hands”, tribe forum, posted on Aug. 14, 2008

プログラミングは Knowlton の他、Alan Ashton, James Henry, Robert Bennion で行われ、音源打ち込みは Henry, Knowlton の他 R. Kent Asmussen が担当、ハードウェア担当は Henry, Bennion でした。

ジャケ裏に実際の 1965年製 PDP-8 の写真が掲載されています。

DEC PDP-8

(PDP-8, from the back cover of CR-9115)

Very interesting performance, indeed

元の楽譜を読み込み、LML で符号化を行う際、タッチ、ダイナミクス、テンポなど、演奏のニュアンスを全て盛り込む必要がありますが、打ち込みを主に担当した Asmussen 氏の音楽的素養とセンスのおかげで、実に聴き応えのある演奏になっています。

収録された演奏そのものが(プロのパイプオルガン奏者と比べて)音楽的にどうか、は意見が分かれるところかもしれません。

しかし、1975年という時期に、当時を代表するミニコン DEC PDP-8 を駆使し、コンピュータによるパイプオルガンの自動演奏を行ったことは胸熱です。

Mastered by Stan Ricker!

さらに興味深いのが、この自主制作盤?の録音およびマスタリング(カッティング)を担当したのが、あの Stan Ricker 氏であることです。

デッドワックスを確認すると、確かに両面に「SR/2」と手書きされ、Stan Ricker 氏によってハーフスピードマスタリングされた盤、ということになります。

Ricker 氏が JVC Cutting Center に所属したのは1976年3月からとされていますので、本盤録音時は Location Recording Service 所属だったと思われます。

我が家のオーディオでは超重低音は出るはずもありませんが(笑)、ナチュラルな定位が美しく、トランジェントも抜群の音です。

Another “Unplayed by Human Hands”

続編というか姉妹盤に “Unplayed by Human Hands” (Computer Humanities CH-9771, 1976) というのがありますが、こちらもシールド盤で入手してあります(笑)

よって未聴ですが、近日中の開封が楽しみです。

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