The 500 Greatest Albums Of All Time

八田さんの日記 経由, zokkon さんの日記 経由 (YAMDAS Project 経由もあり):

人それぞれツッコミどころは多数なのでしょうが,ともあれ私個人の脳裏をとりとめもなく巡った事柄をいくつか.

過去に行われた同様の listing との比較

私がいの一番に思い出すのは,英国の音楽新聞 NME (= New Musical Express) が過去に何度か実施した Critic / Readers Poll です.1990年代前半に,大阪府北部にある某 LP/CD 輸出入卸業者でアルバイトをしていた為,NME は頻繁に目にすることがありましたし,気に入った記事がある時は (社員価格で) 買ったりもしていました.

手元に残してあるのは 11, 18, 25 September 1993 の 3号に渡って連載された “The Greatest LPs of All Time” .順に 1960年代,1970年代,1980年代から各 50タイトルが選ばれています.

当時から感じたことですが (というか以前ここか旧日記サイトで触れた記憶もあります),英国で選出されるタイトルと米国で選出されるタイトル (と順位) が面白すぎる程はっきり分かれていること.リスティング方法の違いと集計時期の違いから単純に比較できませんが,例えば Love の Forever Changes は今回の RollingStone では #40 (1960年代のタイトルとしては #19.ちょっとずれてるかもしれませんが大体これ位) ですが,先述の NME 1960s 編では #6 です.また Van Morrison の Astral Weeks も同率 #6 です.逆に RollingStone では Sgt. Peppers が #1 だったのに対し,NME では #16 (ちなみに NME 1960s の #1 は Revolver,#2 以降 Pet Sounds,VU & Nico, White Album, Highway 61 Revisited と続きます).

1970s 編,1980s 編は若干省略しますが,これまた面白い様に違います.NME では,1970s 編では UK パンク〜ニューウェーブがやたら強かったり,1980s 編でも Stone Roses,Smiths, De La Soul, Prince, Public Enemy, Jesus & The Mary Chain, Joy Division, Jam, New Order という順になっているところが大英帝国の面目躍如という感じでしょうか.1993年度の listing である為 Radiohead 辺りは入ってませんが.

NME 編で面白いのは,むしろ欄外コーナーで,当時現役で活動されていたミュージシャン達に「自分が今までに一番影響を与えられたアルバム」を思い思いに挙げてもらっています.ランキングなんかせんと,むしろこれの拡大版の方がいろいろ読み解けて面白いと思うんですけどねえ.

対象ジャンルのゆらぎ

いわゆる「Rock」とは異なるジャンルのアルバムがどの辺りまで,どの程度入っているか,これも大きく異なる点ではあります.このテの Rock/Popular 系 listing では何故か間違いなく登場する Miles の Kind of Blue,JB 尊師の Live at the Apollo (1963年版),Marvin Gaye の What’s Going On 辺りは「売れたからだけとちゃうんか?!」とか思ってしまったり.まあ売れることが「Popular」の第一条件なのでそういうもんでしょうけどね.ともあれ,批評家さんたちや投票した読者さん達は 恐らく無意識に listing の対象か否かを判断していることは間違いないのでしょう.

違う例では,各 TV 曲や出版社が過去に編纂したヒストリーものの映像シリーズを見るとこの無意識の選別具合がよりはっきりしてきます.RollingStone の方は,20周年を記念して 1987年にリリースされた “RollingStone Presents Twenty Years of Rock & Roll” が,英国の方は BBC 製作の有名な (お宝映像ざっくざく! の) 長編シリーズ “Dancing in the Street” (昔 NHK で放映されましたし,ビデオ販売もされました) 辺りが 切り口の違い を如実に感じられるでしょう.もうひとつ有名な長編シリーズ “History of Rock & Roll” (これもビデオ販売されましたね.つい最近は ヒストリーチャンネル で再放送されました) は Warner が製作したもので,どちらかというとアメリカ寄りの視点から作られていますが,一応中庸になる様に気くばせも感じられます (Quincy Jones が Executive Producer に名を連ねていることも関係あるかも).

おまけに「Rock」乃至「Rock & Roll」というタームが,それ自体はもはや指し示す対象が明確でなく,なんと素晴らしく文脈依存で使われているものか,ということもよく分かります.

さて,この手の listing が行われる際の対象ですが,「(多数の人が暗黙の了解事項として考えている) Rock なるもの,及び Rock に多大な影響を与えた周辺ジャンルのごく一部」なのか,あるいは「我々が良く耳にするポピュラー音楽全般」なのか,と要約することもできるかもしれません.しかしレコード産業が盛んになった時期と (ジャンルとしての) Rock 音楽の更盛はシンクロしている部分もあって,この切り口もやや弱そうです.

ひとことでいうと「ポピュラー音楽」と括るしかないのでしょうが,そのポピュラー音楽なるものが余りにも多様な音楽ジャンルが絡まりあい不可分な程影響を与えあった上でのシーンですから,編纂者のポリシー,投票する読者層,その他さまざまなレイヤーにおける無意識下でのフィルタリングが働いた上で listing が出てくることを考えると,このテの listing を読み解くヒントは無尽蔵にありそうです.

対象アルバムのゆらぎ

RollingStone の listing で気付く通り,ベスト盤が多数入っていますね.現在入手可能な,という縛りを入れる意味もあったのかもしれませんが,ベスト盤を入れるのか,オリジナルリリース (及びそのリイシュー) だけで listing を作るかだけでも,全然その listing の持つ意味合いが異なってきますから,そういう意味では RollingStone の 500選はちょっとピンぼけ気味な印象があります.

#196 の “Nuggets:Original Artyfacts From the First Psychedelic Era, 1965-1968” なんかずるいよなー(笑)いや確かにこれ (やら Pebbles やら,最近 box で更に拡充した new edition の Nuggets やら) は素晴らしく好きですが,これを入れるとむしろ「リイシュー大賞」「素晴らしい視点の編集盤大賞」的な視点も入って来てしまい,更に混乱気味な気も.

その他いろいろ

順位はともかくとして,どれもこれも多くの人に聴かれてきた名盤揃いであることは間違いありません.ここに載っていないものも多数ある訳ですし,確かにあちこちで言われている様に「凡庸」ではありますが,「なんでこんなクズが載っているんや? 理解不能」というものはパッとみた限りなさそうなのも事実です.

古い作品程多く載っていて,新しいものが少ないのはある意味当然のことと言えましょう.勿論,「昔は良かったねぇ,はぁ〜」という意味 ではありません.音楽を作る人達も,音楽を聴いて楽しむ人達も,その人達それぞれの心の中に,影響を与えられた盤たちの系譜が時系列にそって刻まれてきた訳ですし.また,昨今の様になんでもかんでもリイシューされまくっているという状況下で音楽を聴き始める人々にとっては,録音が古い新しいで順序をつける以前に「全てが新譜」という感覚で接する訳ですし.なんにせよ,古いものほどより多くの人に聴かれ,より多くの言説に登場してきたことは間違いありません.巷での評価なんて,10年スパンでころころかわってしまうものでもありますし,ここ数年で出た新譜も30年たてば Classic Albums の仲間入り.ただそれだけなんでしょう.

結局のところ「議論を呼んでいる」とか「不満が噴出している」とかいう現象自体はどうでもいいやと感じます.「権威のある (と思われてしまっている) 雑誌が出す listing」ということ自体に嫌悪感を示す者あり,それなのにブーブー文句を言う人ありってことは,結局その権威を認めている事と同じとも言えますからね.また,個々人が「無人島に持っていくレコード」とか言っているのとほとんど同じノリではないかと.裏のマーケティング的な権力が働いているか否か,なんてのもまあ個人的にはどうでもいいかなと.

意味がないのに順位付けをしたがり,その結果を見て一喜一憂する,というのは古今東西どこでもあることなんだなーと改めて実感したりも.「偉大なプロ野球歴代選手ベスト50」だの「全国おいしいラーメン屋ベスト100」だの「上司に持ちたい有名タレントランキング」だのとほとんど同じレベルかなーと.そんなんみんなバラバラなんはあたりまえやねんからねぇ.結局はありきたりでそれに尽きてしまいました.

個人的には,ミュージシャンの皆さんやら,一般リスナーの皆さんが,極私的な視点から「自分が好きな/多大な影響を与えられたアルバム/曲/ミュージシャン」を書き綴ったもの (の集合体) を見る方が,それぞれの人の感性や感覚を覗き見られる様でとても楽しいと思います.音楽を聴き,楽しむ,という行為は立派な能動的な行為である訳ですしね.

曲は録音された直後から演奏者の手を離れ,いろいろな批評を浴びせられ,いろいろな人の心に届き,多種多様な意味合いを持つものとして独り歩きを始めます.そんなものを豪華装幀の歴史本のページに無理矢理貼り付けて動きをとれなくする様な行為に没頭するのはどうも面白いとは思えない.まあ人それぞれですけど.

それから最後に八田さん,私はやっぱり Otis はデビュー直後から “The Soul Album” 辺りまでの出来が余りにも突出し過ぎていて,ばらつきのある後期は分が悪いと思いますけどねー(笑) と,自ら罠に陥っておきます.

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