試聴13日目 (2021年7月1日) は、および単なるBGMアンプとしての使用からの、いままでの12日間の試聴から感じた雑感です。
パナソニック勤務の友人の計らいにより、2021年6月19日〜7月2日の2週間に渡って、話題のフルディジタルインテグレーテッドアンプ Technics SU-R1000 をお借りしての自宅環境で試聴です。
前回 まで同様、当時 Facebook に毎日載せていた試聴記の(加筆修正後の)転載となります。
Contents / 目次
あらすじ
- #01: アナログライン入力、何の補正もせずに試聴
- #02: アナログライン入力、LAPC補正の効果を試聴
- #03: USBディジタル入力で試聴
- #04/#05: S/PDIF RCAディジタル入力との比較
- #06: 外部フォノイコ経由アナログ入力でのレコード再生
- #07/#08/#09/#10: 引き続き、外部フォノイコ経由アナログ入力でのレコード再生
- #11: 内蔵ディジタルフォノイコでのレコード再生、ただし測定レコードによる補正なし
- #12: 測定レコードによる補正ありでの、内蔵ディジタルフォノイコの試聴
- #13: 12日間の試聴をうけての、雑感あれこれ
- #14: 総論と後日談
2021/07/01: 今日は試聴にまとまった時間がとれず
本日は、まとまった試聴時間がとれず、超高級仕事BGMアンプとして、あるいは超高級zoom音声再生アンプとしてのお勤めでした。
というわけで、いままでの12日間にいろいろ試聴してきた上で感じたことを、つらつらと書き殴ってみます。
雑感あれこれ1: ディジタルは正義である
今回上梓する本 にも書きましたが、「世の中のありとあらゆる情報を0と1で表現(符号化)するという人間の発明は本当に偉大だ」、ということです。
20年前のディジタル系オーディオ。10年前のディジタル系オーディオ。それらと比べて、2021年のディジタルオーディオはその再生品質およびユーザビリティの平均点がとてつもなくあがっています。
それは、ディジタル処理チップの性能・機能向上、ネットワーク環境を含めたインフラの速度・品質向上、オーディオ系にチューンされた組み込みOSの洗練、そういったところからも理解できます。
なにより、24/96 でも上等だった10年前に比べて、いまや32/768レベルも当たり前。それだけ 単位時間あたりに扱う情報が高密度化しても、まったく破綻なくリアルタイムに扱える、それほど処理速度が向上しているということです。
だからこそ、アンプがフルディジタルであっても、違和感なく聴けるわけです。
同時に、ディジタル段における各種処理において、いかに知見がたまったとて、ディジタルデータは各種規格の「ケーブル」というアナログな物理層を介して機器間を伝送され、最終的にアナログ(=スピーカ)で出力されます。いちばん大きな影響は、A/D および D/A 変換時のチップの性能と電源からの影響、そして正確無比でノイズレス/ジッターレスなクロック/リクロックの重要性、などでしょう。
それらの知見も徐々に蓄積されてきているからこそ、ディジタル系の再生品質はますます上がり、そして低価格化が進んでいっているのでしょう。
今回の SU-R1000 試聴を通して、またそれ以前に個人的にあれこれ取り組んできたディジタル系再生向上の格闘を通して、強く確信したことがあります。
ディジタル系オーディオでキーとなる、上述のパラメータの役割を理解し、それを改善しさえすれば、評価軸はほぼ1次元になる。良いものから悪いものまでほぼ一直線で知覚可能になる。
本当にそれを実感できました。これは間違いなくディジタルならではの世界観です。
ややもすれば文学的なレトリックを多用して表現せざるをえないアナログオーディオの(多様な)音表現の世界とは全く異なります。高い趣味性という点では、アナログオーディオの方が圧倒的に豊かな世界観を持っていることは間違いありません。
その一方、ひとの好みの多様性、そしてアナログ回路における各種理論・技術・実装の多様性、そのため、評価軸はどうしてもn次元(nは十分に大きい自然数)になってしまいがちです。
もちろん、最後はスピーカを鳴らし、リスニングルームの空気を振動させるわけなので、最終出力はアナログです。そして人間の「耳」や「身体」というアナログデバイス、そして人間の「感性」「嗜好」も混じり合ったものが、最終的なオーディオ体験になるわけですから、全体としては「アナログ」であり、「多様性に富んだ」世界です。
ですが、その直前まで、アナログに変換されて空気を振動させて音になる寸前までは、高度に進化したディジタル技術のおかげによって、オカルト的な謎技術や売らん哉言説にまどわされることなく、ほぼ一次元の品質評価でもって議論できる可能性がある。
わたしが SU-R1000 試聴を通じて改めて考えさせられ、より確信したことのひとつはこんな感じです。
雑感あれこれ2:「フルディジタルアンプ」として画期的
特許の絡みもあるとは思いますが、なにせ技術的な仔細があまり公開されていません。なぜUSB入力の時だけ0.8秒の遅延があるのか(Low Latency 設定時は0.4秒)なのかも理屈が分かりません。
ですが、この音を聴けば、誰でも納得するはずです。「テクニクス、すごい」と。アナログ入力であっても、とてつもなく素晴らしい音質。ディジタル入力であってもそれは同じ。しかも、マイク不要の各種ディジタル補正技術でさらにヴェールを剥がして音が化ける。
確かに、税込91万3千円ですから、それは当たり前かもしれません。そして私は、毎日のようにウルトラハイエンドオーディオの世界をくまなく経験されているプロの評論家でもありません。
ですが、そんな方々に比べると非常に限られた経験しかない、超アマチュアレベルの私ですら、感じとれます。圧倒的に透明で、圧倒的に無歪で、圧倒的に「リファレンス」たる音が出せている。我が家のレコード再生系も、ディジタル再生系も、極限までその良さを引き出してくれている感触がある。スピーカの本当の性能を見せてくれている気がする。しかもたった (?) 91万3千円で。
この音をソリッドステートアンプや真空管アンプで出そうとしたら、まちがいなく1桁(下手したら2桁)はあがることでしょう。いままで少ないながら聴く機会があったそういう高級(もとい、高価格)オーディオにも、恥じることなく真正面からいどめる素晴らしい音質だと思います。
「なに言ってんだ、お前は何もわかってねーよ。だからシロートは困ったもんだ。てめーらはプロの俺たちのありがたい言葉を受け取ってそのまま購買しやがれ」というオーディオ評論家の方々のことばが聞こえてきそうです(ちなみに、一般ピーポーによる「オーディオ評論家」へのイメージって、概してこんなもんですよねw)。
別にいいんです。わたし「プロ」の「評論家」じゃないんで。この投稿も、お金をもらって書いてるわけじゃないですし。単なる個人的な感想を書いてるだけですし。「口プロレス」と「マウンティング」、ホント苦手です。
おっと、話がそれました(笑)
わたし自身は「1コンポーネント、原則として上限は30万円まで」という制約をかけています。
だから、この SU-R1000 を買うことは絶対にありませんが(笑)、この製品を試聴させていただける機会を与えてくださったIさん、本当にありがとうございます。たくさんのことを学ぶことができました。
雑感あれこれ3: ハードウェアは強い、ソフトウェアは(とてつもなく)弱い、日本のメーカ
もうなんかの苦行ですか?というレベルのユーザビリティです。
音質的にも非常にわかりやすい効果を得られた LAPC (Load Adaptive Phase Calibration) は画期的でした。マイクなしで、スピーカのインピーダンス特性を計測して補正するもので、数分間待っているだけでいいし、これは最高です。
他はどうでしょう。
ボタンだらけのリモコン。横に10文字程度しか表示できない本体液晶エリア。昭和50年代のゲーセンのハイスコア入力を思わせる、上下左右キーによるアルファベット入力。効果はすばらしく劇的だけど、計測に15分もかかるレコード周りの計測・補正。
ふざけんなという感じです。ユーザビリティをなめとんのか、という感じです。なんでもかんでも最新にすればいいわけじゃないのは分かりますが、音質を最優先するのも分かりますが、使い勝手を無視していいわけではありません。いくらリファレンスクラスという限られたユーザに向けた製品であるとしても、これは業務用製品ではありません。「より分かりやすく」「より簡易に」操作でき機能を享受できるようにしないと、コンシューマ向けとはいえません。
どうして日本の大手メーカってこうなんだろう、となんか思ってしまうポイントではあります。ハードウェアへの偏執狂的なこだわり(もちろんそれがとてつもない性能につながっているわけですが)に比べて、ユーザのことを全く無視したUI/UX。「性能はいいし、音も素晴らしいけど、ねぇ」という機会損失のことをぜひ考えていただきたいです。
「フルディジタルアンプ」だからこそ、特に。
雑感あれこれ4: けど「アナログ」に無限の趣味性を感じる
これだけディジタル礼賛をしておきながら、一方で「補正機能ありの内蔵ディジタルフォノイコより、手元のフォノイコからのアナログ入力の方が好み」だの、「手元の DAC からのアナログ入力の方が、直接 SU-R1000 に USB 入力するより個人的には好み」だの、という結果になりました。
つまり、どれだけ無色透明でリファレンス的な音であったとて、やっぱり(鮮度が保たれた上で)何か色や味がついている方が、個人的な嗜好に合致する可能性がある、ということです。
もちろん、こんな話に帰着できるのも、SU-R1000 に全幅の信頼を置いているからこそです。フルディジタルアンプなのに、アナログ入力であっても素晴らしいと思えるのです。
それだけ、SU-R1000 の音は「基準」となる音である、だから、「ああ、自分はそこにこういう味つけが追加されている音が好みなんだ」と、自分の趣味嗜好を客観視するものさしになりうるな、と。
「ディジタル技術」マンセー、だからこその、「アナログ」マンセー、ということです。
(念の為、ここでいう「アナログ」とは「アナログレコード再生」のことではなく、「ディジタルデータとして扱われている段階以外の前後全て、あるいはディジタル段におけるアナログ的側面」ということです)
オーディオの世界は、楽しいですね。(結局すごくまとまりがない!)
明日は、SU-R1000 がうちにある最終日です。総括というか、いままでの pros/cons 的なまとめを書きます。
あとは、今日寝るまでのあいだに、もう1〜2枚、愛聴盤を聴いてみようと思います。どれにしようかな〜。
「SU-R1000 試聴記 #14 (2021/07/02, 娘のアナログ試聴と総論、後日談)」に続く . . .