Technics SU-R1000 試聴記 #12: 内蔵ディジタルフォノイコ (補正後)

試聴12日目 (2021年6月30日) は、SU-R1000 の最大の目玉機能といえる機能のテストです。

内蔵ディジタルフォノイコを、測定レコードによる補正を行って聴いてみます。

パナソニック勤務の友人の計らいにより、2021年6月19日〜7月2日の2週間に渡って、話題のフルディジタルインテグレーテッドアンプ Technics SU-R1000 をお借りしての自宅環境で試聴です。

前回 まで同様、当時 Facebook に毎日載せていた試聴記の(加筆修正後の)転載となります。

The Inner Treaty / San Araw

あらすじ

2021/06/30: ついに内蔵ディジタルフォノイコ + 測定レコードによる補正

昨日に引き続き、アナログ(レコード)系統、特に 内蔵ディジタルフォノイコのテスト です。昨日は、SU-R1000 自慢(?)の補正機能を使わず、素の状態での試聴でしたが、今日はついに、測定レコードを使った補正を行っての試聴 です。

SU-R1000 Calibration Record Front Cover

付属の測定レコードのジャケット表

SU-R1000 Calibration Record Back Cover

付属の測定レコードのジャケット裏面

写真のような測定用レコードが付属しており、A面B面に測定信号が2回分、合計4回分収録されていますが、全て同じ信号のようです。

SU-R1000 Calibration Record Label A

測定レコードの記録面
見にくいですが、テスト信号が片面に2回分記録されています
最外周からの記録は避け、2cm ほど内側から記録されています

ともあれ、これを再生してキャリブレーションを行い、ディジタル段での補正データを計算する、という仕組みのようです。

実際の測定シーン

Web や YouTube 解説などでも、実際にどのようにキャリブレーションするのか、具体的な手順が載っていないようだったので、全行程を撮影収録してみました

あまりにも長いので一部省略しています。計測信号再生に3分ほど、その後の補正データ計算に5分ほど、前後の操作も含めて、全体で15分くらいかかるというものです。

まず率直な印象として、測定が「メンドクサイ」(笑)。上の動画の通りです。

リモコン経由とはいえ情報量豊かなカラー液晶でインタラクティブに操作できる「いまどき」のオーディオコンポーネントとはまるで異なり、昭和の香りがする操作手順に卒倒しました(笑)

ピープホール的なシンプルな液晶表示(さすがに8セグではなかった)、計測したカートリッジ名入力を、まさか上下左右矢印ボタンで地道にやらないといけないとは。大昔のゲームセンターのハイスコア入力を思い出しました(笑)

ソフトウェアサイドの弱さが、日本の伝統的メーカらしいといいますか。その分ハードウェアの有無を言わせぬ性能でカバーしてるわけなんですけど、ここは本当にもったいないところです。

補正による音の変化は?

で、実際に出てくる音について。

System Configuration as of June 30, 2021

2021年6月29日〜30日のシステム構成図
ついに SuperNova を介さずに直接 SU-R1000 にフォノ入力

昨日の補正OFF状態では「アナログじゃないような音」「どこかディジタルっぽい(違和感のある)」「プチノイズの聴こえ方もなにか不思議な感じ」でした。

それが、補正ONにした途端に、一気に変貌しました

昨日感じた「違和感」はほぼ解消されました。音に好き嫌いはあるかもですが、ディジタル臭さ的に感じていたトゲがきれいさっぱり消え失せています、すごい。

こちらは「Phono Response Optimiser」による効果とみました。

そして、測定の結果有効になった「クロストークキャンセラ」が絶大な効果を発揮しています。3ポイントマイクのクラシックLPなどに顕著ですが、クロストークが見事に排除された(かつデメリットをほぼ感じない)ため、空間描写力がぐんとあがりました

その上で、「アナログじゃないような音」という点だけが引き継がれています

良質な録音のCDやハイレゾ音源のようなのに、なぜか時々プチっとクリック音が入る、そんな印象です。

SU-R1000 やその他優秀なディジタル再生系の多くに共通するであろう、無色透明で、ほぼ歪感のない、上から下までバランスよく出ていて、立体的空間描写に優れ、そんな系統の音です。なのに時々「プチッ」と鳴る。

頭が軽く混乱する感じです

余談ですが、ディジタルフォノイコ補正ONの状態では、0.1秒〜0.2秒ほど、遅延が発生していました。そらそうだ。

アナログフォノイコ (SuperNova II) と改めて比較

ここで、ケーブルをつなぎかえて、SuperNova II のアナログフォノイコの音と比較してみます。

音を出した瞬間「あぁ、アナログだ」と分かります。

レコード再生において、どこまでターンテーブルやトーンアーム、カートリッジ、ケーブル類を追い込んでいって、制振や共振排除を行い、インピーダンスマッチングやその他いろいろ煮詰めて、高性能なフォノイコを使って、現代的な音に近づけていったとしても、アナログらしさが残るとしたら、それって

  1. カートリッジ個々の持つカラー、
  2. アナログレコード再生系の宿命「クロストーク」、そして
  3. アナログフォノイコによってもたらされる色付け

なんだろうなぁ、と不思議と納得してしまえる、そんな比較になりました。

それだけ SU-R1000 の 「補正ON」状態のディジタルフォノイコの音 は、フォノイコ段以降の性能とあいまって、素晴らしくリファレンス的な、基準となる音なんだろうな、とは感じました。

感性と理解の混乱

ただ、それを好ましく思うかどうか、は別である、というのも、強く感じた点です。

カートリッジの仕組み上絶対に避けられないクロストークがある。アナログフォノイコによる増幅の過程で、音に多少の色がつく。

一方 SU-R1000 では、補正によって削除され、徹頭徹尾ニュートラルに寄っている。

けど、SU-R1000 が補正するそれらの要素が、結果としてアナログ系のえもいわれぬ魅力につながっているのかも。もちろんそれが音質の「劣化」につながるものであればよろしくないけど、鮮度がキープされた状態で「完全無欠のディジタル音源/ディジタル補正」には出せない、微妙に心地よいニュアンスが出せているのかも。

そういうことをつらつらと考えながら、いや、そんなことより、とにかく SU-R1000 すごいな〜(再び)、と感服した次第です。

いろんなレコードで試聴しても、まとまらない気持ち

我が家におけるレコード再生は、個人的には SuperNova II からのアナログ入力の方が「アナログらしく」好みである、という結果になりました。両者の音はずいぶん違います。

けどこれはあくまで私の嗜好によるもので、おそらくは多くの方にとっては、SU-R1000 でのディジタルフォノイコ受けの音の方が素晴らしいと感じられるような気がします。実際すごい音です。

音源(レコード)によっても印象は変わりました。

昨日の “Jazz Ultimate / Bobby Hackett & Jack Teagarden” は、補正ONでも「やっぱり下が薄い」「どこかディジタル臭さが残ってる気がする」という印象で「SuperNova 圧勝」でしたが。

当試聴記に何度も登場する、ローファイハイファイ入り乱れのエレクトロニカDTM “Pure Trash / Dosh” では、CD リッピングのディジタル再生の音の感触に近づき、かつセパレーションがとてつもなく良くなったことを実感でき「これもアリかも」で。

いかにも今時っぽい高音質録音の中で自分がお気に入りの “Feels Like Home / Norah Jones” では、音の感触がたまのプチノイズ(と9インチアームの制約からくる最内周あたりの軽い歪み)を除いては、ほぼ完全に 24/192 に似た音に聴こえ「この感触は SuperNova では出せないかも」で。

山本浩司さん邸の訪問時 にも聴かせていただいた、秘蔵の “The Firebird / Dorati, LSO” オリジナルファーストプレスの B面は、うちの環境ですら Watford Town Hall の音響がより鳥肌レベルで感じられるようになり「恐れ入りました」的で。

クロストークキャンセラ、すごい。フォノレスポンスオプティマイザ、すごい、21世紀のディジタル技術素晴らしい。という偽らざる印象です。

だけど、やっぱり、自分的には「いいんだけど、ねぇ」という気持ちがどこか残ってしまいました。「レコードじゃないような音がする」って、レコード再生の価値はどこにあるんだろう、とか。

なんだろうこれ、自分に正直じゃないのかな。

とにかく単純な結論を出せないような、とても不思議な感触が残る、そんな12日目でありました。

SU-R1000 試聴記 #13 (2021/07/01, 12日間の試聴後のあれこれ雑感)」に続く . . .

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