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レコードコレクターにもいろんなタイプがある訳で、著名なミュージシャンの、評価が高くびっくりする程高価なオリジナル盤を買い漁る人 (骨董品コレクター的な人と言えるでしょう)もいれば、人知れず埋もれた安くてほとんど知られていない盤の中から自分のお気に入りの音楽を「発見」して悦に入る人 (強いて言えば「オタク系」でしょうかね) もいます。金にものを言わせる前者だけのコレクター諸氏は個人的には正直苦手 (音楽聴いてんだか「もの」を買ってるんだかよう分からんやないですか。そういう手合いに限って、聴いてる音楽のジャンルや対象が狭くて、音楽の話をしても全然おもろないし) ですが、まあ人それぞれ両者のバランスをとって楽しんでいるのでしょう。
それはさておき、特に後者の愉しみというのは本当に格別なものがあります。なにしろ、星の数ほども世の中に残っている盤の中から、聞いたこともないグループやミュージシャンのシングルを格安で拾いあげ、祈るような気持ちでターンテーブルに乗せて、流れてくる音楽がストライクゾーンだったときの喜びといったら! その楽曲が、そのミュージシャンが、世間でどういう評価をされていようが (あるいはされてなかろうが)、巷では有名であろうが無名であろうが、買って聴く自分自身にとっては新しいものであり、良さを「発見」したことに他ならないのですからね。また、今の世の中、web であれリサーチ本であれ、こういったマイナーなミュージシャンの情報を探すことだって出来ます。安値で買って、聴いて気に入って (まぁ期待外れのものも少なからずあるわけですが)、調べてなお唸ることが出来る。なんてリーズナブルな悦楽でありましょう。
というわけで (?) このサイトでも、私がそうやって購入してきたシングル盤を思いついた時に紹介していこうと思います。ただ、私の あっちのサイト との関係上、そのレーベルのものが多くなってしまいますが、ご了承下さい。
さて、その第一回はこのシングル。 Mercury Record の傍系レーベル (注1) である Philips レーベルから出たものです。
注1:正確には、蘭 Philips が 1961〜1962年頃に米 Mercury を資本傘下に収めているので、傍系という言い方は不適切かもしれません。しかし、Mercury が Philips の資本傘下になった後も、米 Mercury は蘭 Philips とは独立してプロダクションを進めていましたので、ここではこういう言い方にしてあります。
さて、私がこのシングルをなぜ買ったかといいますと、 曲名やアーティスト名がイイ感じだったから、 単にそれだけです (笑) 購入し、手元に届くまで、The Changing Times なんてグループは聞いたこともありませんでした。 手元のディスコグラフィなどを参照すると、1965年 8月録音、10月発売の様です。
(どちらが本当の A面か分かりませんがここでは仮に) A面の “Thank You Babe”。 タイトルからして “It Ain’t Me Babe” (Bob Dylan がオリジナルで Turtles のバージョンが特にヒットした) を連想させますが、その期待を裏切らない (いや、It Ain’t Me Babe へのオマージュというかアンサーソング的な) 良質のフォークロックチューンです。 なによりキャッチーなメロディとアレンジが良い。当時どの程度売れたのかは知りませんが、実に 1960年代中期のアメリカらしいパワーチューンと言えます。
(同じく仮に) B面の “Pied Piper”。 このタイトルどっかで聞いたことあるよな〜と思っていたら、案の定あれでした。 イギリスの一発屋(?) Crispian St. Peters が 1966年に全米 4位のヒットにした、あの “Pied Piper” です。 こちらもご存じの通り実にキャッチーなメロディとリフが嬉しい佳曲。 曲名にあわせるかの様に、後ろでフルートが張り切ってリフを奏でているのもナイス。
さて、レーベルをよく眺めてみると、Kornfeld – Duboff というクレジットが見えます。両面ともこの二人のペンになる曲です。おお、あの二人ですよ、あの二人。そう、The Changing Times というグループは、あの Artie Kornfeld と Steve Duboff のグループだったのです (あるいは二人のスタジオプロジェクト?)。 Kornfeld – Duboff といえば、The Cowsills (カウシルズ) の The Rain, The Park & Other Things (邦題「雨に消えた初恋」) の作詞作曲チームとしても有名ですね。Kornfeld はカウシルズのプロデューサ兼マネージャでもあり、その成功によって Capitol レーベルの東海岸担当プロデューサになり、そしてあの Woodstock Festival の開催のきっかけになった 4人のうちの 1人として有名です (残り 3人は Joel Rosenman, John Roberts, Michael Lang)。
なお、この The Changing Times としての活動は 1968年まで続けられた様で、Philips に計 4枚、その後 Bell レーベルに 2枚シングルを残したようです。他のシングルも是非聴いてみたいな。特に、2nd シングル “How Is The Air Up There” (Philips [US] 40341) は、Standells がやってもおかしくないガレージ色濃厚なパワーポップらしいですし。
web でいろいろ調べてみると、更に面白いことが分かりました。なんと、1960年代中期〜後期には、 Changing Times という名前のバンドがいくつも存在していた ようなのです。 テキサスで活動していた Changing Times、ダラスの Changing Times、メンフィスの Changing Times (これは MC5 的でかなりカッチョいいガレージらしい)、そして今回紹介したニューヨークの有名なソングチームの Changing Times。 皆 Dylan の The Times They’re A-Changin’ からグループ名をとったんですかね? いやはや興味深い。
ともあれ、この大して高くもないシングル盤 1枚で、随分楽しむことが出来ました。これだからやめられません。