Present Tense / Sagittarius

… this article is dedicated to my (personal) melancholic memory for Sagittarius’ LP “Present Tense” when I was a teenager. And the English version of this article (probably) will not be available.

中学二年生の時 (1984) に 〜まだその頃は北九州に住んでいましたが〜 Beatles との衝撃的な出会い (*1) をして以来、少ない小遣いを工面しつつ物凄い勢いで LP やシングルを買っていたあの頃。静岡に引っ越し、高校に進学する頃には、すでに別テイクやミックス違いの類はほぼ全て手元に揃うまでになり、ブート LP などにも手を出し始めていたのですが、ある時ふと疑問がよぎりました。こんなに来る日も来る日も Beatles ばっかり聴いている俺はアホちゃうか? なんで他の音楽を聴こうとしないんやろう?

(*1): どうでもいいことですが、それは中学二年生の二学期、中間試験を月曜日に控えた前の週の土曜日の夕方。机に向かって試験勉強をしていた時に、NHK FM にあわせてあったラジカセから流れて来たのが “Nowhere Man”“Girl”“Yesterday” の三曲でした。突然襲われた衝撃の中、大急ぎでカセットテープをセットして途中から録音。その晩は勉強どころではなく、“Nowhere Man” の最初が欠けたテープを何回も何十回も聴き続けました。

翌日の日曜日、家族で町に買い物に行った際、親にねだってレコード屋で一枚 LP を買ってもらえることになり、昨日聴いた曲の曲名すら、ましてや邦題なぞ分かるはずもなく (さすがに “Yesterday” は知ってましたが)、ジャケットに写真がいっぱい載っているから、というだけの理由で “Beatles’ Second Album” (US リリースの日本盤) を選びました。喜び勇んで家に帰ってさっそく LP をかけてみると、昨日聴いた曲がひとつも入っていなくて、とてもがっかりしたのを覚えています。

しかし少ない小遣いの殆どは、引き続き Beatles 関連に消えゆく毎日 (*2)。静岡市内の数少ない輸入レコード屋まで毎週自転車で通ったり、ブートの新譜を買ってはノートに詳しくメモをつけたり、勝手気ままにレビューを書いては友達に配ったり。とほほ、今思いかえすとなんとも気恥ずかしさを伴う想い出ですが、なんとか出費をせずに他の音楽を知る手段はないものか、と、その頃から FM のエアチェックを積極的に行う様になりました。

(*2): 数少ない例外が Beach Boys で、なんの予備知識もないままに買った最初の LP が “Pet Sounds” (疑似ステレオの日本盤) だったのは今となっては運命を感じます。結局その1年後、家に CD プレーヤーもないのに “Pet Sounds” (ボーナストラックが 2曲だけ入った、日本初回盤CD CP28-1003) も買ってしまいました。確か、友達の家に行ってそこで聴かせてもらったのでした。

“Good Vibrations”“Surf’s Up” (Beach Boys) に心ときめかせたのも、“Hello, It’s Me” (Todd Rundgren) に脳天ぶちぬかれたのも、“Cruel To Be Kind” (Nick Lowe) に小躍りしたのも、“Anyway You Want It” (Dave Clark Five) のカッコ良さに衝撃を受けたのも、“She’s Not There” (Zombies) に胸キュンしたのも、“Sha-La-La”“5-4-3-2-1” (Manfred Mann) にゾッコンになったのも、“Pretty Ballerina” (Left Banke) に耳を奪われたのも、どれもこれもみんな NHK FM のお陰でした。私が初めて月刊誌「レコードコレクターズ」を買った 1989年 2月 (Todd Rundgren 特集号) より前のこと。

そんな頃、やはり NHK FM でとある番組をエアチェックしました。正確な番組のタイトルや放送年月日は失念しましたが、1時間ガレージとサイケがばんばんかかるというもの (番組冒頭でかかったのは、未だにガレージの最高傑作だと信じている Music Machine“Talk Talk” でした !!)。FM 雑誌の番組表に Nazz“Open My Eyes” (*3) と書いてあるのを見つけ、おーこれは是非聴いてみたい、と思ったのでした。

(*3): なんと、番組表には書いていながら、結局お目当ての “Open My Eyes” は放送されませんでした! 代りにかかったのは (何故か) Blue Cheer“Summertime Blues” でした。これはこれで熱くなりました。

この番組には衝撃を受けました。それこそ、音楽的嗜好が一変してしまう程影響を受けたと思います。大学受験のため大阪と東京に行った時にも、ヘッドフォンステレオの中にはこのカセットテープが常に装備されていた程。今となっては、これらの楽曲は Nuggets の CD ボックスなどで容易に聴くことが出来ますが、清水の片田舎に住んでいた私にとって、ディープな音楽雑誌もほとんどなく、インターネットも存在しなかった当時の私にとっては、これは天からの贈り物にも等しいものでした。NuggetsPebbles なんて、静岡で売ってるのを見かけたことすらありませんでしたし。

. . . 余談が長くなってしまいました。で、その番組の中で、特に強い衝撃を受けた曲が SagittariusMy World Fell Down だったのです。この曲が The Ivy League のカヴァーだということを知るずっと前のこと。ダダンッと耳に突き刺さるタムのフィルイン (当時は演奏者が誰か分かりませんでしたが、Pet Sounds で叩いている人と同じだろう、ということは分かりました)、一筋縄ではいかない不思議なメロディ進行、完璧なハーモニーではないものの不思議な浮遊感が麻薬的魅力を醸し出すコーラス、曲の中程で挿入される (どう考えても Good Vibrations に影響を受けた) アヴァンギャルドな SE、そして誰が聴いても Bruce Johnston やろ! とすぐに分かるサビの美しいヴォーカル (もし、彼に優れたソングライティング能力がなかったとしても、あの声だけでポップ史に名を残したのではないか、と思う位、私は Bruce Johnston の声が好きです)。もう夢中になりました。

無事大学受験に合格し、大阪に住むことになってから、この曲と再び出会う時がやってきました。静岡とは比べ物にならない程レコード屋が溢れている大阪。毎週の様に週末は阪急電車に乗って梅田へ出ていき、フォーエバーレコードをはじめ東通商店街のレコード屋めぐりをしたものです。Jazz を聴き始めたのもちょうどこの頃でした。

1989年のある日、フォーエバーの US ガレージ/サイケのエサ箱の中に、Sagittarius と書かれた中古レコードを見つけました。しかも “My World Fell Down” が入ってる! もう喜び勇んで買いましたよ。 Back-Trac というレーベル (CBS の旧譜廉価リリース用?) から 1985年に出された “Present Tense”、カタログ番号は P-18783 という LP でした (とても安かったので貧乏学生には助かりました)。ストリングスが大フィーチャーされたふくよかなアレンジ、キャッチーなメロディ、あまり複雑ではないもののツボを抑えたコーラスワーク。すぐにこのアルバムが大のお気に入りになりました。

広がる様な美しさで満たされた A-1 “Another Time” (中間部の、フェードアウトしながら繰り返されるコーラス部分がトキメキ) で幕を開け、胸キュンメロディ全開の A-2 “Song To The Magic Frog (Will You Ever Know)”、後半部分のコーラスアレンジが見事な A-3 “You Know I’ve Found A Way”、弾ける様に小粋なナンバー A-4 “The Keeper Of The Games” と続く A面冒頭の流れは最高です。ちょっとラーガっぽいアレンジの A-5 “Glass” でチェンジオブペースをはかったあと、やはり後半部のコーラスが見事なA面ラストの “Would You Like To Go” で B面への期待を持たせる。

B面は必殺チューン “My World Fell Down” でゴージャスに始まり、Beach Boys オマージュ的な佳作 B-2 “Hotel Indiscreet”、アコギのイントロが格好良い B-3 “I’m Not Living Here”、緊張感と透き通るような美しさが同居した B-4 “Musty Dusty” と続き、最後はヘヴィーなドラムスが印象的でサイケっぽいアレンジが見事な B-5 “The Truth Is Not Real” で終わります。両面あわせてあっという間の28分間。とろける様なアレンジとハーモニーがアルバム全体を支配しており、何度聴き返しても飽きることはありません。

ただ、肝心の My World Fell Down だけはどうも気にくわなかった。そう、この曲、シングルバージョンとアルバムバージョンで、全然違うエディットが施されていたのです。第2コーラス突入前にイントロの繰り返しが5小節分追加されたのに対し、いちばん肝心な中間部の SE はばっさりカット。“Good Vibrations” チルドレンの名曲は、このアルバム上では、少しこじんまりとした佳曲として B面 1曲目に収録されていたのです。これは少なからずショックでした。だって、元々は FM ラジオで聴いたあの “My World Fell Down” が収録されていると思ったからこそアルバムを買ったんやもん。

しかし今冷静に聴き返してみると、あのシングルバージョンが本アルバムに収録されなかったのは正解だったんじゃないかと思えます。MilleniumBegin に先駆けてリリースされたこのアルバム、制作者や楽曲の元がほぼ同一とはいえ、やはり “Begin” とは異なった方向性で纏められたもの。過度に実験的なサウンドはアルバム上では控え、ひたすらドリーミーでスウィートな味付けに徹することにより、ややひねくれたメロディ進行を持つ “My World Fell Down” の良さが引き立ったのかも知れません。

もし、現在発売されている CD (紙ジャケ盤 もあり) のボーナストラックに収録されているシングルオンリーの楽曲やシングルバージョン、そして “Begin” の CD のボーナストラックの様な、やや実験的なアレンジが施されたナンバーだけで Gary UsherCurt Boettcher がもう一枚アルバムを作っていたとしたら … それはもう、あの時代を代表する最高の傑作アルバムになったんじゃないか、とすら夢想してしまいます。それ程私にとってあのシングルバージョンは特別なものであり続けました。結局、カセットテープで聴きまくったあのシングルバージョンと久し振りに再会したのはずっと後の 1998年、Nuggets の CD ボックス においてでした。

[CS-9644 Front Cover] [CS-9644 Back Cover]

Present Tense / Sagittarius
(Columbia CS-9644)

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時代は流れ、音楽的嗜好はあの頃とは比較にならない程幅広くなり、全曲の歌詞を口ずさめる程聴きこんだ Beatles の LP もごく一部を除いて売り払ってしまい、「レコードコレクターズ」も 2004年を最後に買わなくなり (最近読みふけっているのは 1985年頃までの最初期のバックナンバーです)、親のお下がりだったオーディオも少しはましなものになり。Back-Track レーベルの “Present Tense” も長らくターンテーブルにのらなくなった今日この頃。

つい先日、ひょんなことで懐かしのこのアルバムに再会しました。しかも大学一回生の時には大阪で見かけることすらなかったオリジナル盤。予想外に安い値段で売っているお店を web で見つけたので、懐かしさも伴ってついついメールで注文してしまいました。紙ジャケ CD で最近リイシューされたことすら知らなかったのですが。

[CS-9644 Side-A] [CS-9644 Side-B]

ああ、あの懐かしのアルバム。ソフトロックなんてことばも知らなかった頃に入手したアルバム。大学生の頃に擦り切れる程聴きこんだアルバム (もちろん、Back-Track レーベルの再発盤は今でも擦り切れずに良い状態で手元に残ってます)。しかも再発盤よりずっと鮮度の高い音質で、あの頃よりずっとましになったオーディオで、今はこのアルバムを味わうことができます。とろける様なコーラスも、ストリングスの素晴らしいアレンジも、Hal Blaine の「ダダン」も、あの頃よりずっとくっきりした音で聴こえてきます。“Another Time” のイントロがかかった瞬間に、情報や音楽には飢えていたけれども、なぜかとても幸せだった懐かしいあの頃にタイムスリップしてしまうかの様。

しかしそこには当然、FM ラジオから流れてきて私の心を鷲掴みにした、モノーラルでシングルバージョンの “My World Fell Down” はやはり入っていません。紙ジャケというものにあまり興味のない私にとっては、Nuggets の CD ボックス (あるいは近い将来にきっと入手することになるであろう当時のシングル盤 (*4)) だけが、高校生の時のあの衝撃的な出会いを追体験する方法なのです。

(*4): 後日談 . . . 無事入手しました

A-1: Another Time
A-2: Song To The Magic Frog (Will You Ever Know)
A-3: You Know I’ve Found A Way
A-4: The Keeper Of The Games
A-5: Glass
A-6: Would You Like To Go

B-1: My World Fell Down
B-2: Hotel Indiscreet
B-3: I’m Not Living Here
B-4: Musty Dusty
B-5: The Truth Is Not Real

Curt Boettcher (vo), Gary Usher (vo),
Glen Campbell (vo), Bruce Johnston (vo), Terry Melcher (vo),
Larry Knechtel (kbd), Carol Kaye (b), Hal Blaine (ds),
others unknown.

Arranged and Produced by Gary Usher.
Recorded in Hollywood, CA.
(based on demo recordings of Ballroom and Curt Boettcher, then chorus, effects and instruments overdubbed)

One thought on “Present Tense / Sagittarius

  1. Sagittarius 「Present Tense」(1968)

    オーケストラとコーラスを絶妙にブレンドしたポップス集
    いわゆるソフトロックの名盤ですね。ソフトロックの特集が組まれると必ず推挙されるアルバム。
    コーラスの魔術師、カート・ベッチャーを中心としたバンド「ボールルーム」の音を聴き、時の名プロデューサーであるゲーリーアッシャー(ブライアン・ウィルソンとの共作者でも有名)がカートにラブコールを送り、2人が中心となって制作されたアルバムです。
    レコーディングメンバーは直後に名作「Begin」を発表するミレニアムのメンバーに、ブルース・ジョンストン…

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