(This entry is my casual review on Allen Toussaint’s brand new album. I don’t think the English version of this article will be available this time . . .)
音楽のダウンロード販売も非常にポピュラーになってきたこのご時世、国内の音楽となると、さすがに LP での新譜リリースというのはほとんどみかけなくなりましたが、海外では音楽ジャンルによっては LP での同時リリースも (限定販売的であることが多いものの) 根強く残っているようです。
私の場合、LP でリリースされない音源を買わない、なんてことはさすがにありませんが、CD と LP の両方のフォーマットでリリースされると分かった盤については、躊躇なく LP で買ってしまいます。
それにしても、CD でも出ているのに、どうしていまさら LP の方で買ってしまいたくなるのか。
もうこれは、正直に言って、収録されている音楽の内容に関わらず、メディア として LP の方がどうにも 魅力的でたまらない と個人的に感じてしまうからです。オーディオ的に音がどうの、とかそういうことでは全然違う。ブレッド・ミラノ (Brett Milano) 著のあの「ビニール・ジャンキーズ」の中で様々な人たちが決まって口にするセリフの通り、アナログレコードの方が「クール」で「セクシー」な体験ができるから。これに尽きるとしかいいようがありません。
それ以上の (たいていは後付けの) 理由なんて、私には正直必要ありません。「オリジナル盤のみが持つブットビの音が〜」とか、「アナログレコードに記録されている周波数帯域が〜」とか、いろんな薀蓄をたれるコレクター、結構多いんですけど、正直「みんな素直じゃないよなー」って思ってしまいます (笑)
私にとっては、もう本能的なものです。アナログ盤で再生音楽を聴く行為がとにかくクールでセクシーで楽しい。正直、そんなもんなんです。もちろん、古い音源であれば、オリジナル盤で聴く方がよりセクシーな体験ができるのは事実ですけどね。
それはさておき、先日買った新譜。CD より若干遅れて LP でもリリースされると知ったので、そちらを予約注文しました。なにがしかの事情のためか、リリース予定日より半月以上遅れてしまい、手元に届いたのは先週のこと。内容的にとても楽しみにしていた新譜なのですが、この 2枚組 LP のジャケットにはこんな ステッカー が貼られていました。
180-gram audiophile-quality vinyl
Includes complete album on CD
180グラム オーディオファイル向け高品質レコード
同内容 CD 付
なんとまあ、親切な (?) ことに、全く同内容の CD がボーナスディスクとして付属しているんです。輸入盤 CD と、(CD つきの) 輸入盤 2枚組 LP では、値段もそれなりに違いますから、それに見合ったお得感程度なのですが、CD をそのまんまつけてしまう、というところが、なんともおかしいといいますか。
確かに、聴くの、CD の方が楽ですしね。最近では音源のダウンロード権つきの LP リリースなんてアルバムもちらほら出ているんだそうで。
(Label scan of Nonsuch 480380-1 Disc 1 Side-A, accompanied w/ attached paper-sleeve CD album)
さて、アラン・トゥーサン (Allen Toussaint) による今回の新譜。拍子抜けする程に戦前ジャズのテイストをなぞったかたちでの演奏で埋め尽くされています。ただし、現役のトラッドジャズミュージシャン達とは若干異なるアプローチでこのアルバムは作られています。そしてそこが、このアルバムの最も素晴らしいところ。
The Bright Mississippi / Allen Toussaint
(Nonsuch 480380-1)
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( 通常の CD 版 | regular CD version )
単なる演奏スタイルやフォーマットの 模倣「だけ」になっていないところが特筆すべき点。確かにバンドの編成や全体的なアレンジのベースは、(真の意味で) 古き良き戦前の名演奏への愛情たっぷりなオマージュになっています。けれども、単なる懐メロ的な演奏には全くなっていないところが凄いところです。特にトゥーサン本人にとっては、小さい頃に普通に聴き親しんで血肉と化しているバックグラウンドでもあるということなのでしょう。
かつての歴史的ミュージシャンたちが奏でていたであろう、当時の演奏の スピリット や 雰囲気、空気感、肌触り、そういったおいしいところ (もっといえば、ここで演奏しているミュージシャン達が、そういった昔の音楽のどういった側面に惹かれているのか、というところ) を絶妙にすくいとった上で、やっぱり プロフェッサー・ロングヘア (Professor Longhair) 直系であるトゥーサンのニューオーリンズ R&B の香りをぷんぷんとたたえたピアノが全体のトーンを規定しているという、新旧の良質な音楽の絶妙なブレンド によって成り立っているのです。プロデューサの ジョー・ヘンリー (Joe Henry) さん、今回もいい仕事してはります。
単なる昔の名演奏のコピー的なものではなく、結局は実際の演奏者たちが今までに聴いてきて演奏してきたさまざまな音楽ジャンルの有形無形の影響が心地よくブレンドされている、きちんとオリジナリティのある音楽。
私みたいな雑食系音楽ファンにとっては、この上なく素晴らしいアルバムです。そう、今演奏されるべき、あるいは今聴かれるべき戦前ジャズ的なおと (の、いくつかの可能性のなかの一例) というのは、まさにこういう方向性で制作されたものだと、私は強く思います。こういうのを待っていた! というべきか。
戦前ジャズを SP や復刻 CD で楽しんでいる音楽ファンにとって、あるいはトゥーサンに代表されるニューオーリンズ系 R&B / ファンクなどが主食のファンにとって、はたまたいわゆるモダンジャズ一筋のファンにとって、このアルバムがどの様に感じられるのか、とっても聞いてみたいところです。
個人的には、10曲目の「Day Dream」で客演している ジョシュア・レッドマン (Joshua Redman) の演奏だけが、なんか明らかに 浮いてるなー というのが残念です。この人にはやっぱりこのテの音楽とはあわないんだな、と再確認したというか。それにひきかえ 5曲目「Winin’ Boy Blues」でのトゥーサンと ブラッド・メルドー (Brad Mehldau) の肩肘張らない絡みのなんと魅力的なこと。。。
他のミュージシャンの皆さんはホント、全編に渡ってイイ仕事してます。バーニー・ビガード (Barney Bigard) を彷彿とさせる雰囲気で好演している ドン・バイロン (Don Byron) を筆頭に、みなさん無理がない。実に自然に、同時に緊張感高く、あの空気の再現に貢献しています。トゥーサンのピアノじゃなければ (笑)、まるであの時代にタイムスリップしてるかの様。
そこへ絡むトゥーサン御大のピアノ! これですよこれ。個人的に彼の大名盤だと信じて 愛聴している「From A Whisper To A Scream」(1970) の B面と並んで、トゥーサンの正統ニューオーリンズピアノが堪能できるアルバムです。
そしてタイトル曲の「Bright Mississippi」。もちろん私の敬愛する セロニアス・モンク (Thelonious Monk) のあの曲ですが、この曲の隠された側面を十二分に引き出した最高のカヴァーバージョンかもしれません。なんてファニーで、かわいらしくて、ステキなアレンジ。これならあの世のモンクさんも拍手喝采でしょう。今回のこのメンツでこの路線で演奏する、モンク曲集的アルバムなんて出たら、もう悶絶ものだと思うのですが。。。
個人的には大好きな、アーサー・ブライス (Arthur Blythe) のファニーな佳作「Light Blue – Arthur Blythe Plays Thelonious Monk」(1983) のあの面白さも、またじっくりと味わいたくなってきました ( あれ、ブライスの「Light Blue」って、まだ CD 化されたことがないのかな? うちには LP がありますが)。
A-1: Egyptian Fantasy (Sidney Bechet / John Reid)
A-2: Dear Old Southland (Raymond Bloch)
A-3: St. James Infirmary (Traditional)
B-1: Singin’ the Blues (Con Conrad / J. Russel Robinson)
B-2: Winin’ Boy Blues (“Jelly Roll” Morton)
B-3: West End Blues (Joe Oliver / Clarence Williams)
C-1: Blue Drag (Django Reinhardt)
C-2: Just a Closer Walk with Thee
C-3: Bright Mississippi (Thelonious Monk)
D-1: Day Dream (Duke Ellington / Billy Strayhorn)
D-2: Long, Long Journey (Leonard Feather)
D-3: Solitude (Duke Ellington / Irving Mills / Eddie DeLange)
Allen Toussaint (p on all tracks; vo on track 11) with:
Don Byron (cl), Nicholas Payton (tp), Marc Ribot (g), David Piltch (b) and Jay Bellerose (ds, perc).
Special Guests: Brad Mehldau (p on track 5), Joshua Redman (ts on track 10).
Recorded March 19-22, 2008, by Kevin Killen at Avatar Studios, New York
Produced by Joe Henry
Assisted by Anthony Ruotolo
Mixed by Kevin Killen at Sevonay Sound and Avatar Studios, New York
Assisted at Avatar by Rick Kwan
最後に、戦前の音楽、というか、戦前の音源をあまり聴いたことのない方のために、Spotify で作ったプレイリストを貼っておきましょう。今回のアルバムでとりあげられた楽曲のオリジナル演奏、あるいは著名な演奏が楽しめます (今回トゥーサン達がオマージュしたミュージシャンによる演奏ではないものも一部含まれていますが)。あの時代の雰囲気をご堪能あれ。。。あ、「Bright Mississippi」は1960年代ですね。
Singin’ the Blues を聴いて国内盤CD を買ってしまいました。
来日記念盤というタスキが恥ずかしかったのですが、曲数が多かったので・・・。
内容は気に入ってます。一時、毎日のように聴いていましたが、今は気が向いた時だけになりました。
あーー、そうだったんですね。。。
That’s My Home と The Old Rugged Cross だけ、
なんか入手する方法はないもんかしら。。。
ここで国内盤CD買ったら、もろにアホですからね (笑)
いやはや困ったな。。。