グルーヴマシンの録音を追いかけて (II): 時系列順に聞いてみる

Part I では、McDuff、Dukes、Benson、Holloway の 4 人がそれぞれどんなプレイヤーだったかを書きました。ここからは、この 4 人の録音を時系列で辿ってみます。

McDuff-Holloway-Benson-Dukes の Prestige CD 6 枚

1963 年 6 月の Newark から、同年 10 月の San Francisco、1964 年 2 月の Los Angeles、同年夏のヨーロッパ、そして 1964〜65 年の New York スタジオへ。2 年間のうちにバンドがどう変わっていったのか、セッション単位で聴いていきます。

なお、ライブ盤の編集手法(拍手のオーバーダブやフェードアウト処理)にも各所で触れます。「ライブ盤 = ライブの完全な記録」とは限らない、ということが、聴いていくとわかります。

ここからは語り口を少し変えて、音源に向き合う実況風の筆致でいきます(笑)。

1. Newark, Front Room — 1963 年 6 月 5 日

Benson が加入した 1963 年、最初の録音。Newark の Front Room でのライブで、LP Brother Jack Live! (PR 7274) として発売された。現行 CD は PRCD-24147-2 で、後述の Jazz Workshop 録音とのカップリング。

PR 7274 と次の PR 7286 は、それぞれ 1 晩のライブをそのまま LP に収めた盤。後の CD(PRCD-24256-2 や PRCD-24141-2 等)が複数セッションからの寄せ集めであるのとは性格が違う。この 2 枚については LP の曲順に沿って全曲聴いていくことに。

LP は MC で始まる。

“The Front Room is proud to present America’s most exciting jazz organist — Brother Jack McDuff!”

Front Room が誇りを持ってお届けします、アメリカで最もエキサイティングなジャズオルガニスト — Brother Jack McDuff!

だがこの MC の直後、不自然な編集で拍手に切り替わり、そこからクロスフェードで A-1 が始まる。最初の数秒から、このライブ盤が「ライブの完全な記録」ではないことの表れ。

グルーヴマシンの初登場曲は A-1: Rock Candy。McDuff の左手+足のベースと Dukes のソリッドなドラムスが、全てのグルーヴの源泉となっていることがよくわかる。Part I でも触れた通り、まさに「非常に前のめりにぐいぐい進むのにテンポが微塵も揺らがない」演奏。正確無比なのに無機質ではなく、ひたすら熱い。体が自然に動く。Benson はソロでは同じリフの繰り返しが多いが、バッキングに回った途端に McDuff と Dukes のグルーヴと一体化し、素晴らしいアクセントを付加する。Holloway のソロはイナタい音色で聞かせるが、後ろの 3 人を差し置いて引っ張るタイプではなく、4 者が一体化するように吹く。何度聴いても、この末恐ろしいグルーヴの魔力の虜になる。

曲が終わると、McDuff がこう語る。

“Thank you very much, ladies and gentlemen. That was a little ditty we call Rock Candy. We hope you dug it.”

どうもありがとう、みんな。いまのは Rock Candy っていうちょっとした曲だ。気に入ってもらえたかい。

その前に、客が “one more!” “one more!” と声を上げているのが聴こえる。セットの冒頭で “one more!” はありえない。LP では MC 紹介 → A-1 と配置されているが、実際のセットリストでは Rock Candy はもっと後半に演奏されたか、あるいは別の曲、はたまた別のライブの盛り上がる歓声をオーバーダビングしたか。いずれにせよ、編集の手が入っている。

A-2: It Ain’t Necessarily So は、McDuff が冒頭でピアノのようなパーカッシブな音色を出している。Hammond の harmonic percussion 機能による音色と考えられる。ベースのリズムフィギュア(Pink Panther 型アンティシペーション)と、Benson の 9th コードのバッキングが絶品。

A-3: Sanctified Samba。この曲が始まる前に、McDuff の MC が入る。

“You know, this Latin music is quite the thing now. … they call me Brother Jack for a reason. … once you get that church in you, it’s kind of hard to backslide all the way. But anyway, here’s our version of the sanctified song.”

ほら、このラテン音楽ってのは今すごく流行ってるだろ。……俺が Brother Jack と呼ばれるのには理由があるんだ。……教会の音楽が身に沁みついたら、そう簡単には足を洗えないもんだ。まあとにかく、俺たちのゴスペル風 (sanctified) ソングをやるぜ。

ゴスペル/チャーチの要素が意識的であったことを示す、McDuff 自身の言葉。曲自体は Samba と名乗りながら中身は Watermelon Man 風。この時期のバンドは明らかに、1963 年初頭に Mongo Santamaría バージョンが大ヒットし、ラテンジャズやのちのブーガルーのブームにつながった、Watermelon Man の影響下にある。後述の Hot Barbeque (1965) も同じ流れの中にある。ここでの Benson のソロにはまだぎこちなさが残るが、バッキングに回ると完璧に一体化する。20 歳、加入直後の Benson。なお、0:42 のテーマ終了後に明らかな編集跡(つなぎ)があり、おそらく 1 コーラスがカットされている。A 面最後の曲でもあり、曲終了後の拍手はフェーダー操作で大きくされたのち、フェードアウトする。LP の面替わりの処理がそのまま CD に残っている。

McDuff の前口上に続いて B-1: Whistle While You Work は始まる。

“Y’all ever see ‘Snow White and the Seven Dwarfs’ when you were kids? If so, remember this tune.”

みんな子供の頃に『白雪姫』観たことあるだろ? なら、この曲を覚えてるはずだ。

Dukes のベル打ち (ride bell) + リムショットによるサンバっぽいシャッフルのイントロが抜群にカッコいい。McDuff のベースラインはウォーキングではなく 2 ビートで、曲の軽さに合わせた選択。McDuff のソロ前半は、わざと音を抜いてゴーストノート的な空間を作る、という「引き算の美学」。ディズニー楽曲をこう料理するショウバンド的なセンスも面白い。Holloway はフルートで参加するが、冒頭テーマとエンディング付近のみで、ソロは取らない (PR 7274 ライナーに “tongue-in-cheek flute work by Red Holloway” (Red Holloway のおどけたフルート) とあり、Holloway がフルートを吹いていることを示す)。

B-2: A Real Goodun’ では、演奏前に McDuff が曲名の由来を語っている。

“Here’s a little blues tune we got together in East St. Louis. … an old timer at the bar yelled over and said, ‘What’s that?’ I says, I don’t know my man, we haven’t got a name yet. He says, ‘Boy, that’s a goodun’.’ So that’s what we call it, A Real Goodun’.”

East St. Louis で仲間と作ったブルースの小曲をひとつ。……バーの常連のおっちゃんが「それ何て曲だ?」って叫んだんだ。「いやあ、まだ名前がないんだよ」って言ったら、「坊主、そいつはいい曲だ (a goodun’)」って。だからそう呼んでるのさ、A Real Goodun’。

スローブルースだが、テンポが落ちてもグルーヴ感が全く衰えない。アップテンポ (Rock Candy) からスロー(本曲)まで、テンポ帯を問わずグルーヴが持続する。Benson のソロは実にブルージーで、Kenny Burrell より更にイナタい。

右チャンネルに耳を澄ますと、演奏中の客の声が生々しく残っている。低い声の男性が “yeah!” “hoo!” と繰り返し、5 分あたりでは女性の声で “Holy Roller!” という掛け声も聴こえる。聖霊に打たれて体を揺さぶるペンテコステ派信者を指す俗語で、McDuff の “once you get that church in you” と地続きの世界。終盤には “Hey, don’t stop now, Jack” (やめないでくれ、Jack) の声、そして “Let’s go, Jack!” (いけ、Jack!) “Thank you, Jack!” の連呼。これが「おとなしいライブ」のはずがない。客の声と、曲の終盤に聞こえる “ガハハハハ” というステージ上の笑い声が、1963 年 Newark の Front Room の空気をそのまま伝えている。

B-3: Undecided が本 LP 最終曲。McDuff が “With the hot sauce. With the hot sauce.” (ホットソースでいくぜ) と声を上げてから演奏が始まる。Rock Candy の “just cook!” (派手にいこうぜ!)、Sanctified Samba の “once you get that church in you” (教会の音楽が身に沁みついたら)、そしてここでの “with the hot sauce”。McDuff のステージトークは一貫して食べ物の比喩で音楽の熱量を表現している。1965 年の曲名 Hot Barbeque まで、この食卓の比喩は続く。

PR 7274 のライナーで Morris Mobley はこう書いている。”four pieces, playing an old standard, Undecided and sounding like Basie’s whole orchestra.” (4 人でスタンダードの Undecided を演奏して、Basie のオーケストラ全体のように聴こえる) と。Part I で触れた Count Basie 本人が Dukes を見に最前列に座ったというエピソードを思い出してほしい。Basie 的なサウンドを出すと評判のカルテットを、Basie 本人が見に来ていた。

hi-hat bark の気付きはこの曲から(Part I 参照)。master と alt take で bark がほぼ同じ構造位置に出現する。「設計された様式」の証拠。alt take(PRCD-24270-2 収録)と比べると、master = 編集された商品、alt = 生に近い記録、という対照がこの 1 曲の 2 テイクで示される。7:35 付近には、Holloway のサックスの音色と環境音が突然変わる編集跡があり、おそらく 1 コーラスのカットと思われる。

PR 7274 の編集について: 全曲を聴き直して、見えてきたこの盤の体系的な編集手法:

  1. MC の貼り付け: セット冒頭の司会者紹介と各曲間の McDuff の前口上は、演奏とは別のタイミング・場所の録音からつないでいる可能性がある(B-2 末尾の MC の後に客の反応がほぼないことからもわかる)
  2. ソリスト目印のオーバーダブ拍手: ソロ交代で自然な拍手が起きるブレーク部分ではなく、新しいソリストのコーラス頭にフェードイン→フェードアウトの短い拍手を挿入する、というパターンが Undecided で 3 回繰り返される。リスナーへの「ここから次のソロですよ」という目印としての編集。A 面 (Rock Candy) では派手に、B 面 (A Real Goodun’、Undecided) では控えめに行われている
  3. 曲終わりの拍手差し替え: B 面 3 曲すべてで、自然な拍手の直後にオーバーダブ拍手(掛け声・口笛入り)がクロスフェードする
  4. コーラスカット: Sanctified Samba 0:42、Undecided 7:35 に編集跡
  5. 曲順の再構成: Rock Candy 終了後の “one more!” の声から、LP の曲順は実際のセットリストと異なる可能性が高い
  6. プロダクションマスターからの CD 化: A 面末尾 (Sanctified Samba) のフェードアウトがそのまま CD に残っている。Bill Evans の Sunday at the Village Vanguard などと同様、CD はセッションマスター(未編集テープ)からではなく、LP 用に編集されたプロダクションマスターから作られたと推定される

しかし、右チャンネルに残された客の生の声(”yeah!” “Holy Roller!” “don’t stop now, Jack”)は、編集者の手が届かなかった場所に、1963 年 Newark の夜の空気をそのまま残している。「ライブの体験を再構成した商品」、それが PR 7274 の性格。

2. San Francisco, Jazz Workshop — 1963 年 10 月 3 日

Front Room から 4 ヶ月。LP Brother Jack Alive! at the Jazz Workshop (PR 7286) として発売された。前のめり度が明らかに上がっている。なお、PRCD-24147-2 では Front Room 音源がステレオ収録なのに対し、Jazz Workshop 音源はモノーラル収録になっている。オリジナル盤 LP の PRST-7286(ステレオ)でも擬似ステレオ収録であることを確認しており、セッションマスターがモノーラルだったということだろう。

A-1: Blues 1 & 8 は超アップテンポブルース。微塵も揺らがない完璧なグルーヴ。特に McDuff のベースラインのグルーヴ感が最高。1 コーラスごとにソロを回す構成で、Smithsonian (p. 38) の Benson の説明(12 小節 + 8 小節、最後の 4 小節は全員が抜けて次コーラスへの導入を埋める)と符合する。

Dukes のドラムソロ(1:23〜1:45 ほか)は、ロールやリムショットに Art Blakey の影が色濃い。Smithsonian の “them same lumpy rolls that Art used to play” と Flophouse Magazine の “Art Blakey-like single-stroke rolls” が、ここで音になって聴こえる。

そして 3:34、Benson ソロ冒頭に chicken sound が飛び出す。Smithsonian p. 38 の証言(4 小節のブレイクで偶然生まれ、1 年半バンドの定番になったというあのギミック的な音)が音源として確認できる瞬間。位置もソロ導入部で証言と一致する。直後の拍手はオーバーダブではなく生の拍手に聴こえる。Benson の証言 “the audience went to pieces” (客が沸いた) が、そのまま音として残っている。

この chicken sound は映像でも確認できる。1964 年夏の Antibes Jazz Festival の映像がまさに Blues 1 & 8 の演奏で、3:00〜3:04 に chicken sound がバッチリ映っている。Jazz Workshop 版よりさらにテンポアップしているが、同じ仕掛けが 9 ヶ月越しで健在。同じ映像の 0:08〜0:26 では、McDuff の左手+左足でベースを弾く姿(右手はメロディ)も明確に映っている。3:40〜4:00 のドラムソロでクローズアップされる Joe Dukes の姿も見逃せない。

A-2: Passing Through (Harvest) はフルートとテナーがテーマを競うように奏でる、このバンドにしては異色のカリプソ風味の曲。Chico Hamilton Quintet(Charles Lloyd 作)のカバーで、45-286 としてシングルカットもされている。あっという間に終わる (2:39)。

A-3: Dink’s Blues はスローテンポのブルース。スローな時の Benson のバッキングは絶品だが、ソロでは一部考えすぎて手がこんがらがるような瞬間もある。1963-10 時点の到達点と限界の両方が聴こえる。

A-4: Grease Monkey は短い演奏 (2:32)。シングルカット (45-299) を念頭に、わざと短めに演奏したのではないか。PR 7347(Kenny Burrell、スタジオ)の同曲と比べると、Burrell はソロも取らず職人的にタイトにまとめ、Benson はミストーン込みで奔放にソロを取る。2 人のギタリストの役割の違いがそのまま出ている。

B-1: Vas Dis はアップテンポのマイナーワルツで、さすがの McDuff+Dukes も前半で少し揺らいでいる。完璧超人ではない正直な記録。後半の Dukes のパーカッシブなソロ(+ McDuff のうねるようなベース)はグイグイきて必聴。究極の前のめり。Jazz Workshop は全体的に Front Room より前のめり度が上がっている。

B-2: Somewhere In The Night で Benson は Wes Montgomery よろしくオクターブ奏法でソロを取っている。まさにこの Jazz Workshop 出演時に Wes の弟 Buddy Montgomery が楽屋に来て “I told you you could play jazz” (ジャズが弾けるって言っただろう) と言った (Smithsonian pp. 39-40)。Wes の代名詞の奏法を、Wes の弟にジャズを弾けると認められたその現場で弾いている。時系列が合うかは “in between sets” (セットの合間に) としか分からないが、少なくとも同じ出演期間中のこと。

B-3: Jive Samba が LP 最終曲。Nat Adderley 作、Cannonball Adderley Sextet 版の雰囲気を踏まえつつ、バンドの仕事に作り替えている。原曲のエンディングでアルトとトランペットが静かにユニゾンする “C E♭ E F” のフレーズを、McDuff 版は曲中のテーマ終わりに移植して全体展開し、スネア連打とシンバル連打を重ねた。原曲の「静かな締めの挨拶」を「ショーを開く扉」に作り替えており、カバーの解釈としてのバンドの創意を示す好例。

2:15 からの Dukes ソロは、Part I で書いた通りの展開(ドラムソロ → “My Soul!” 4 回 → セルフ Call & Response → “My My My” でテーマ復帰)。Smithsonian の「ショーの締めの Dukes 大暴れ」証言 (“at the end of the show he would play a roll on the bass drum”) が、おそらくこの曲に記録されている。LP をひっくり返し、B 面の針が最後の溝に近づく頃、Dukes が声を上げ、ドラムセットを叩きまくり、バンドをテーマに戻す。セットの最後にふさわしい、有終の美。

PR 7286 の編集: 編集多めな PR 7274 とは違う形でさまざまな編集が施されている。

  1. 曲終わりの拍手差し替え: 全曲共通で、演奏終了後の環境音に大歓声がフェードインし、フェードアウトする
  2. 曲間のクロスフェード: 前の曲のフェードアウトと次の曲の冒頭を重ねて「熱気が途切れない」演出を作っている
  3. ソリスト目印のオーバーダブ拍手: Dink’s Blues ではフルートソロ突入直後 (1:01)、Benson ソロ冒頭 (2:08)、McDuff ソロ中のトリル直後 (3:49) の 3 箇所、Grease Monkey ではテーマ中 (0:22) と Benson ソロ突入直後 (1:02)。PR 7274 と同型の編集が PR 7286 にも使われている
  4. プロダクションマスターからの CD 化: A 面末尾 (Grease Monkey) はオーバーダブ拍手をかぶせたままフェードアウトで、LP の面替わりの処理がそのまま CD に残っている。PR 7274 と同じく、CD はプロダクションマスターからの復刻と推定される

ただし B 面に入ると様相が変わる。Vas Dis と Somewhere In The Night は曲中が完全に無編集で、エンディングの拍手処理だけがオーバーダブ。そして最も重要なのは、Jive Samba の Dukes ショーケース(”My Soul!” の叫び、セルフ Call & Response、”My My My” でのテーマ復帰)が、全て生のまま残されていること。編集者もこのショーケースには手を入れなかった。あるいは、手を入れる必要がなかった。

2 枚のライブ盤の歓声は、実はその多くが編集によるものだった。しかしそのことが分かった上で聴くと、編集者の手が届かなかった場所に残された生の声(PR 7274 右チャンネルの “Holy Roller!” や “don’t stop now, Jack”、PR 7286 の Dukes の叫び)がかえって際立つ。1963 年 Newark と San Francisco の夜は、編集で飾る必要がないほど熱かった。

3. Los Angeles — 1964 年 2 月 6〜7 日

2 日間で 3 名義 (McDuff / Holloway / Benson) の録音が行われた。Holloway 名義 Cookin’ Together (PR 7325、CD は PRCD-24141-2 Brother Red に収録) でしか聴けない曲が多い。

B-1 Brother Red は Holloway をフロントに立てた演奏だが、鉄壁のグルーヴは McDuff リーダー盤と全く同じ。Benson のバッキングが実に光る。McDuff も Holloway を立てるべく、いつもより控えめ。なのに、穏やかなコテコテの裏に、分かりにくいがドロドロしたグルーヴが蠢くのが聞こえる。名義が違っても実体は同じ実働バンド。

B-4 Shout Brother で Benson のソロは、この時期の中ではいつもよりかなり「歌っている」ように聴こえる。後年の歌心の萌芽がここにある。ただし後年との比較ではなく、この時期の中での相対差として聴こえるレベル。

A-2 This Can’t Be LovePart I の McDuff 節で書いた「ベース不在の逆説」の実聴。フットベースが消えてピアノの McDuff が若干あとノリになる場面は、グルーヴの源泉が何だったかを逆説的に教えてくれる。スローバラードの B-3 No Tears でも、同様に McDuff はピアノ担当。

4. ヨーロッパの夏 — 1964 年 7 月

Stockholm, Golden Circle でのライブ (LP The Concert McDuff, PR 7362 → PRCD-24270-2) と、同時期の Antibes Jazz Festival の映像がある。

B-3 Four Brothers では、Woody Herman 楽団のサックスセクション定番曲を、異常なテンポで McDuff+Holloway+Benson の 3 声ソリで処理する。4 本のサックスパートを 3 声で、爆速で。Smithsonian pp. 36-37 の証言(Benson がセカンドハーモニーを耳だけで 20 分で覚え、譜面を読める Holloway が 3 日かかった)の対象がこの難曲だったことに、聴けば納得がいく。

Holloway のテナーソロも迫力十分で、その時の Benson のバッキングが神がかっている。Benson のソロもかなりまとまってきている。Front Room から 1 年、21 歳。そして hi-hat bark も要所要所に。bark の確認録音 3 コンテキスト目(Newark 1963-06 Undecided 両テイク → Stockholm 1964-07)。1 年越しで大陸を越えて持続する Dukes の様式が、ここで確定的になる。

PR 7362 の観声: 曲が始まる前とソロ終わり直後に、かなり大ホールでの大人数の拍手や声に聴こえる観声が入っている。Golden Circle はクラブなので、大ホールの音は不自然。PR 7362 にもオーバーダブの可能性が高い。ライブ盤 3 枚目にも編集跡が。

Benny Golson 編曲による大編成セッション (Silk and Soul / Prelude) もこの時期だが、4 人のカルテットとは性格が違う録音なので、本稿では深追いしない (Part III のマトリクスで整理する)。

5. NYC スタジオ — 1964 年 5 月〜1965 年 10 月

ライブからスタジオへ。商品化のあり方が変わっていく時期。

Soulful Drums は 2 バージョンが存在する。PR 7259 版(1963 年、Burrell g / Wright as)と PR 7324 版 (1964-05-14、Benson g / Holloway ts)。Dukes と McDuff だけが共通する、ギタリスト違いの定点比較。7324 版は 7259 版よりテンポも構成も複雑で、Burrell が控えめだったギターパートを Benson が元気に絡みまくっている。ドラムフィーチャー曲なのに、グルーヴの根幹はやはり McDuff のベース。

Greasy Drums (1964-05-14) は BPM 65 のスロー 8 ビートシャッフル。ドラムソロに残り 3 人が固定リフでずっと絡み続けるスルメ的魅力。James Brown の “on the ONE”、すなわち 1 拍目に重きを置くドラミングになっていたら、ほぼ JB ファンクの先祖に近い。見事なドラミングだが、しかしソウルジャズ。ファンクとの近さと決定的な一線、その両方を体現する演奏。

Two Bass Hit [La Ronde] (1964-05-14) は BPM 160 のビバップ。McDuff ソロ時の Dukes の音量控えめながらグイグイくるグルーヴ、McDuff より前に出ないように気遣いながらがんがん絡む Benson のバッキング。Salt Peanuts のリズムを引用しながら入る Dukes の超ロングドラムソロ (3:38〜6:38) は Blakey 色濃厚。

Au Privave (1964-07) は Holloway 入りのバピッシュな好演。Benson と McDuff の右手の絡みが聴きどころ。これもフェードアウト。

East Of The Sun (1964-07、Holloway out) はスローテンポのメロー曲。Holloway が抜けた音場で、控えめな Benson のバッキングの貢献がよく聴こえる。

Hot Barbeque (1965-10-19) が、本稿で追う時系列の最後の録音セッションから。同名アルバム (PR 7422) のタイトル曲。”Hot Barbeque!” という掛け声が “Watermelon Man!” と同じ響きに聴こえる(笑)。リズムは The Sidewinder をベースに、Watermelon Man 的コード進行、Watermelon Man を想起させる掛け声を入れた曲で、1965 年のブーガルー市場を Prestige が狙った構図が透ける。Benson のギターソロは控えめながらかなりまとまりが出てきている。22 歳、Front Room から 2 年半。ただし、Front Room や Jazz Workshop のようなグイグイくる熱気は後退している。グルーヴマシン感が薄れた代わりに、商品としての磨きがかかった。

レパートリーの変遷: Front Room ではディズニー曲 (Whistle While You Work) やスタンダード (Undecided, It Ain’t Necessarily So)。Jazz Workshop ではボサノヴァ風味 (Jive Samba, Somewhere In The Night) とカリプソ (Passing Through)。スタジオ期になると Watermelon Man/Sidewinder 型のブーガルー商品 (Hot Barbeque) が出てくる。バンドのレパートリーが、ソウルジャズ市場の流行に沿って動いている。

スタジオ録音のフェードアウト問題: Greasy Drums (1964-05)、East Of The Sun、Au Privave と、スタジオ録音にフェードアウトが目立つ。当時の Prestige のスタジオ制作習慣か、LP 収録時間の都合か。いずれにせよ、フェードアウトの先の演奏がどう終わったのか、完奏までの記録は世に出ていない、ということになる。

いま CD で聴くには: 逆引きガイド

ここまで読んで「聴いてみたい」と思っていただけたなら、以下の CD を手がかりにしてください。現行 Prestige CD(PRCD 番号)を中心に案内します。

Brother Jack McDuff – Live!

PRCD-24147-2 (Live!)
Front Room (原盤 PR 7274) + Jazz Workshop (原盤 PR 7286) のカップリング。本シリーズで最も多く言及した盤です。Rock Candy、Blues 1 & 8、Undecided、Jive Samba、全部入っています。まずはこれから。

The Soulful Drums

PRCD-24256-2 (The Soulful Drums)
Dukes フィーチャー盤。原盤は PR 7324 (The Soulful Drums of Joe Dukes) + PR 7422 (Hot Barbeque) ほか。Soulful Drums、Greasy Drums、Two Bass Hit 等。ただし track 1 の Soulful Drums は PR 7324 版 (Benson) で、PR 7259 版 (Burrell) とは別録音です。

Red Holloway – Brother Red

PRCD-24141-2 (Brother Red)
Holloway 名義の LA セッション。原盤は PR 7325 (Cookin’ Together) + PR 7323 (The Dynamic Jack McDuff) の一部 + The Nomos の Redwood City。Brother Red、Shout Brother、This Can’t Be Love はこの盤でしか聴けません。なお、ブックレットの Benny Golson クレジットに誤りがあります(Part III で詳述)。

Jack McDuff – The Concert McDuff

PRCD-24270-2 (The Concert McDuff)
Stockholm ライブ (原盤 PR 7362) + Undecided の alt take (初出は PR 7492)。Four Brothers の爆速 3 声ソリはここで聴けます。

Legends of Acid Jazz

PRCD-24184-2 (Legends of Acid Jazz)
Au Privave、East Of The Sun (いずれも原盤 PR 7492) ほか。途中から Holloway が抜けるので、Holloway in/out の音場比較が 1 枚でできます。

George Benson / Jack McDuff

PRCD-24072 (George Benson / Jack McDuff)
Hot Barbeque (原盤 PR 7422) と Benson の New Boss Guitar (原盤 PR 7310) の 2in1。1965 年スタジオセッション中心で、本稿で扱った最後のセッションが入っています。

注意: CD によっては全曲がこの 4 人ではありません。Pat Martino が弾いている曲、Holloway が抜けた曲、Dukes 不参加の曲が含まれる盤があります。4 人の演奏だけを追いたい場合は、Part III のマトリクスと照合してください。

2 年間を聴き終えて

5 つのセッション群を聴いてきました。Front Room の圧倒的な初期衝動から、Jazz Workshop の前のめりの燃焼、LA での名義の多重性、Stockholm での爆速アンサンブル、そしてスタジオ期のブーガルー商品化へ。グルーヴマシンは走り続け、変化し、やがて散っていきました。

ところで、Part I、Part II とここまで書いてきた中で、「PR 7286 のジャケット裏では〜」「TJD では〜」「jazzdisco.org では〜」と、資料の食い違いに何度か触れました。この 4 人の録音を追いかけていると、ブックレットのクレジットも、ディスコグラフィデータベースも、自分たちのディスコグラフィさえも、間違えることがあるとわかってきます。

Part III では、そうした資料の検証(TJD の誤り発見、加入年の訂正、フルート/ソプラノサックスの担当問題)と、セッション/原盤/CD の簡略マトリクスをまとめます。

本稿は 3 本シリーズの第 2 回です。Part I: 4 人の奇跡の 2 年間 / Part III: ディスコグラフィカルなデータ

 

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