
Part II の最後で予告した通り、最終回ではディスコグラフィの検証と、セッション・原盤・CD の対応マトリクスをまとめます。
このシリーズを調べる過程で、ディスコグラフィの世界にも「完璧な一次資料」は存在しないことを痛感しました。まず、その話から始めさせてください。
Contents / 目次
ブックレットも TJD も、自分のディスコグラフィも間違える
ディスコグラフィを調べていると、ひとつ分かることがあります。完璧な資料は、どこにもありません。
ブックレットの誤り
PRCD-24141-2 Brother Red のブックレットを開くと、tracks 8〜10(原盤 PR 7323 The Dynamic Jack McDuff、1964-02-06/07 LA 録音)のクレジットに Benny Golson の大編成が記載されています。しかしこのセッション(PR 7323 B面)は McDuff カルテットの 4 人だけで録音されたもので、Golson は関与していません。PR 7323 A面が Benny Golson Big Band との演奏だから間違って記載されたと思われます。

PRCD-24141-2 ブックレットの誤記。tracks 8〜10 に「Orchestra arranged and conducted by BENNY GOLSON」と記載されているが、実際にはカルテットのみの録音
TJD の誤り: My Three Sons
Tom Lord の The Jazz Discography(TJD)は、ジャズ録音データの標準的な参照資料です。その TJD [B6168] は、My Three Sons を 1964-05-01 の George Benson リーダーセッション(ドラムスは Montego Joe、Joe Dukes は不参加)の下に配置しています。
ところが、OJCCD-461-2 The New Boss Guitar of George Benson のライナーは、track 8 の My Three Sons を「May 14, 1964 録音、Joe Dukes (d)、PR 7324 The Soulful Drums 既発」と明記しています。5/1 セッションからの別テイクは存在しません。この曲の録音は 1964-05-14 の Joe Dukes リーダーセッション [D6891] のもの 1 つだけです。TJD がセッション配置を誤った実例です。
TJD の誤り: PR 7476 のギタリスト
TJD [M4144] は、1966 年 2 月の Benny Golson 大編成セッション(PR 7476 Walk On By)のギタリストを George Benson と記載しています。しかし PR 7476 オリジナル盤のジャケット裏には “Pat Azzara, guitar” と明記されています。Pat Azzara は Pat Martino の本名 (Patrick Carmen Azzara) です。ライナーにも Benson への言及はありません。このセッションは Martino の録音であり、Benson がこの 4 人のバンドとして参加した最後の Prestige セッションは 1965-10-19 の Hot Barbeque (PR 7422) です。
加入年と二次資料
Part I で触れた通り、Benson の加入年は多くの資料が 1962 年としていますが、本人が “No, I joined him in ’63.” (Smithsonian Jazz Oral History, p. 35) と訂正しています。二次資料も例外ではなく、Flophouse Magazine の The Soulful Drums レビュー (Francois, 2016) では、personnel 欄に “George Benson (drums)” という誤記がありました。Benson はギタリストです。本文の分析がどれほど優れていても、データ欄は別の話です。
曲名揺れの答え: Moohah
PR 7324 The Soulful Drums の track 6 は、TJD で Moonah The D.J.、Flophouse Magazine で Moohah The DJ と表記が揺れています。答えは Benson の証言にありました (Smithsonian, p. 46)。
“There was actually a guy… a disk jockey, from his hometown, Memphis, Tennessee. His name was Moohah, and Joe honored him by naming a song after him.”
実在の人物がいたんだ……ディスクジョッキーで、Joe の地元 Memphis, Tennessee の人。名前は Moohah で、Joe は彼に敬意を表して曲名にした。
George Benson, Smithsonian Jazz Oral History, 2011Moohah は Joe Dukes の故郷 Memphis の実在の DJ でした。曲名の揺れは、実在人物名の転記の差から生じたものでしょう。

Prestige 45-322 レーベル面。曲名は MOOHAH THE D J と表記されている
ts/ss/fl 担当問題
Part I で触れた問題を、もう少し具体的に書きます。Live! At the Jazz Workshop (PR 7286) では Red Holloway と Harold Vick が共演していますが、曲によってテナーサックス (ts) とソプラノサックス (ss) とフルート (fl) をどちらが担当しているか、5 つの資料で一致しません。
- PR 7286 ジャケット裏: パーソネルに fl/ss の楽器名が記載されていない
- Ruppli の The Prestige Label を参照したとみられるレビュー(damimijazz 氏): Vick = fl、Holloway = ss
- PR 7286 ライナー: McDuff のこれまでのバイオグラフィーに終始しており、fl/ss に関する記載なし。パーソネルでは Holloway も Vick も “tenor sax” とのみ表記
- jazzdisco.org: 同じく Holloway と Vick は “tenor sax” とのみ表記
- TJD: “Red Holloway, Harold Vick (ts, fl)” とあり、曲ごとの担当は書かれていない
盤面にもライナーにも決め手がない以上、当事者に確認できない限り未解明のままです。私も関与しているディスコグラフィでもこの ts/ss/fl 帰属問題を解決できていません。
PR 7286 のステレオ/モノーラル
Part II で、PRCD-24147-2 の Jazz Workshop 音源がモノーラル収録(Front Room はステレオ)であることに触れました。ここで補足します。
オリジナル LP の PRST-7286 は、ステレオ盤を示す PRST 接頭辞で発売されています。しかし筆者がオリジナル盤の盤起こし音源を確認したところ、その「ステレオ」は擬似ステレオでした。ジャケットにもレーベルにも “simulated stereo” や “re-processed stereo” の表記はありません(Discogs 盤面写真で確認)。
セッションマスター自体がモノーラルだったということです。擬似ステレオの LP が存在する以上、元がステレオなら擬似処理する理由がありません。当時の Prestige に限った話ではありませんが、モノーラルマスターを表記なしで擬似ステレオとして売っていた事例として記録しておきます。
ライブ盤 3 枚すべてに編集の手が入っている
Part II で、PR 7274 (Front Room) と PR 7286 (Jazz Workshop) の拍手オーバーダブ、MC の貼り付け、コーラスカット等の編集を詳述しました。
PR 7362(The Concert McDuff、Golden Circle, Stockholm)でも同型の編集を確認しました。The Girl From Ipanema で特に顕著で、曲中に大ホール風の大拍手が突然フェードインし、すぐフェードアウトします。Golden Circle はクラブですから、大ホールの響きは不自然です。この 4 人の Prestige ライブ盤 3 枚(PR 7274 / PR 7286 / PR 7362)すべてに、オーバーダブ拍手が使われていたことになります。
筆者は以前、Bill Evans の The Complete Live At The Village Vanguard 1961 (Riverside / Victor Japan) について記事を書いたことがあります。Evans のケースでは、オリジナル LP はプロデューサが曲順・フェードアウト処理・選曲を施した「作品」でしたが、2002 年の Complete box で未編集のセッションマスターから復刻されました。あれは本当に画期的なリリースでした。
一方、今回みてきた McDuff ライブ盤についてはどうでしょうか。PR 7274 / PR 7286 / PR 7362 音源を含む CD は、プロダクションマスター(編集済みテープ)からの復刻と推定されます。もしセッションマスターが残っているならば、Evans の Complete box のようなリイシューにより、当時ライブハウスで聴こえた本当の音が確認できることになりますが、いまのところ歓声がオーバーダブされていない音源はいちどもリリースされていません。これだけ CD リイシューがされても出てこないところをみると、未編集セッションマスターは現存していないのかもしれません。
だから盤に戻る
ブックレットも間違える。TJD も間違える。二次資料のレビューも、私も関わっている jazzdisco.org も完璧ではない。それでも(というより、だからこそ)最後に頼れるのは盤そのものです。盤面のクレジットを読み、音を聴き、自分の耳で確かめる。その作業を積み重ねた記録が、以下の 2 つのマトリクスです。
セッションごとのリリース一覧
以下は、McDuff-Holloway-Benson-Dukes が参加した Prestige 録音セッションの簡略な対応表です。
| 日付 | セッション | 原盤 LP | 現行 CD | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 1963-06-05 | Front Room, Newark / McDuff qt. | PR 7274; PR 7492; PR 7529 | PRCD-24147-2; PRCD-24270-2 | 10 曲。Undecided alt・Love Walked In・The Midnight Sun は PRCD-24270-2 収録 |
| 1963-10-03 | Jazz Workshop, SF / McDuff qt. + Vick | PR 7286 | PRCD-24147-2 | 7 曲。fl/ss 担当は未解明。録音はモノーラル |
| 1963-12-24 | NYC / McDuff qt. + Golson big band | PR 7333 | PRCD-24283-2 | 9 曲。Prelude |
| 1964 | Antibes / McDuff qt. | なし | Moon Ride Freres | 3 曲。非 Prestige |
| 1964-02-06 | LA / Holloway 名義 qt. | PR 7325 | PRCD-24141-2 | 7 曲。Cookin’ Together |
| 1964-02-06/07 | LA / McDuff qt. | PR 7323 | PRCD-24141-2 | 3 曲。ブックレットの Golson 誤記あり |
| 1964-02-06/07 | LA / The Nomos | PR 7791; 45-301 | PRCD-24141-2; PRCD-24256-2 | Long Distance は未発表 |
| 1964-05-14 | NYC / Dukes リーダー qt. | PR 7324 | PRCD-24256-2 | 6 曲。TJD の My Three Sons 配置は誤り |
| 1964-07 | Golden Circle, Stockholm / McDuff qt. | PR 7362 | PRCD-24270-2 | 7 曲。The Concert McDuff |
| 1964-07 | Stockholm / McDuff qt. + Golson big band | PR 7404 | PRCD-24184-2 | 4 曲 |
| 1964-07 | NYC studio / McDuff qt. | PR 7404〜7666(複数) | PRCD-24184-2 ほか | 9 曲。一部 Holloway out。正確な日付は不明 |
| 1965 | NYC studio / McDuff qt. | PR 7404; PR 7642 | PRCD-24274-2; PRCD-24242-2 (tr. 13) | 4 曲。正確な日付は不明 |
| early 1965 | NYC / McDuff qt. + Golson big band | PR 7529; PR 7642; PR 7666 | PRCD-24283-2 | 3 曲。ギタリストは TJD では Benson だが LP 裏ジャケでは Martino 表記。移行期のため未確定 |
| 1965-10-19 | NYC / McDuff qt. | PR 7422 | PRCD-24256-2; PRCD-24072 | 7 曲。Hot Barbeque |
注記
- 「正確な日付は不明」と記した 3 セッション(1964-07 NYC、1965 NYC、early 1965 Golson big band)は、TJD の記載が月または年までで、日付が特定されていません
- スタジオ録音の一部(Greasy Drums、East Of The Sun、Au Privave など)はフェードアウトで終わっています。完奏テイクは世に出ておらず、演奏の終わり方は不明です
- 上表は 4 人のバンド(Core)セッションが中心です。Benson リーダーの 1964-05-01 セッション(Dukes 不参加)や Pat Martino 参加曲は含んでいません。CD 上ではこれらの曲と混在していることがあるため、Part II の逆引きガイドも併せて参照してください
- PRCD-24242-2 Silken Soul は 13 曲中 Benson 参加は track 13 (Silk And Soul) のみです。残り 12 曲は Pat Martino
- BGP (E) CDBGPD053 は英国 CD 再発で、Front Room (PR 7274) と Hot Barbeque (PR 7422) の曲を収録しています。上表では省略しましたが、入手可能な別経路です
- PRCD-24287-2 The Prestige Years は複数セッションからのコンピレーションで、Rock Candy、Grease Monkey、Jive Samba、Hot Barbeque、Opus De Funk を収録しています
最後にひとつ。2024 年にイギリスの Fingerpoppin’ Records から The Legendary 1963-64 Concerts (117032) という 2 枚組 CD がリリースされています。Front Room、Jazz Workshop、Antibes、Golden Circle の 4 セッションから 28 曲を収録しており、この 4 人のライブ音源のほぼ集大成です。音源自体は既発のプロダクションマスター由来ですが、フランス盤シングル Col (F) ESRF1423 でしか聴けなかった Chicken Feet や、モノーラルの Sanctified Samba 別テイクが含まれています。上のマトリクスと突き合わせながら聴くのに最適な 1 タイトルです。

原盤 LP の収録セッション一覧
上のマトリクスは「このセッションはどの盤に?」を追うためのものでした。こちらは逆引きです。「この LP には何が入っている?」。Benson 期の録音を含む原盤 LP をカタログ番号順に並べます。
この 4 人の録音だけで構成された LP
| 原盤 LP | タイトル | セッション | 備考 |
|---|---|---|---|
| PR 7274 | Brother Jack Live! | 1963-06-05 Front Room | 6 曲 |
| PR 7286 | At the Jazz Workshop | 1963-10-03 Jazz Workshop | 7 曲 (+ Vick) |
| PR 7323 | The Dynamic Jack McDuff | A: 1963-12 Golson big band / B: 1964-02 LA qt. | A 面は大編成 |
| PR 7324 | The Soulful Drums | 1964-05-14 NYC | 6 曲。Dukes リーダー |
| PR 7325 | Cookin’ Together | 1964-02-06 LA | 7 曲。Holloway 名義 |
| PR 7333 | Prelude | 1963-12-24 NYC | 9 曲。Golson big band |
| PR 7362 | The Concert McDuff | 1964-07 Stockholm | 7 曲。Golden Circle |
| PR 7404 | Silk and Soul | 1964-07 Stockholm Golson + NYC + 1965 NYC | 3 セッション混在だが全曲 Benson 期 |
| PR 7422 | Hot Barbeque | 1965-10-19 NYC | 7 曲 |
Benson 期と他のギタリストが混在する LP
McDuff は Prestige に長く在籍し、ギタリストが Green → Burrell → Benson → Martino と入れ替わりました。後期の LP やコンピレーションでは、複数の時代の録音が 1 枚に混在しています。
| 原盤 LP | タイトル (発売年) | Benson 期 | 他のギタリスト | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| PR 7481 | Greatest Hits (1967) | Rock Candy, Grease Monkey | Green (1960〜61) 2 曲、Burrell (1962〜63) 2 曲 | 8 曲中 Benson は 2 曲のみ |
| PR 7492 | Hallelujah Time (1967) | Undecided alt, Au Privave, Hallelujah Time, East Of The Sun | Martino 2 曲 | |
| PR 7529 | The Midnight Sun (1967) | Love Walked In, Misconstrued, The Midnight Sun | Martino 1 曲 (Stop It)。Rockabye は Golson big band (ギタリスト未確定) | ジャケ裏に “George Benson, guitar (A1, A2, B1)” と明記 |
| PR 7567 | Soul Circle (1968) | Lew’s Piece, Opus De Funk | Martino 2 曲、Eddie Diehl 1 曲 | 3 人のギタリストが混在 |
| PR 7642 | I Got A Woman (1969) | I Got A Woman, Twelve Inches Wide | Martino 2 曲。English Country Gardens は Golson big band (ギタリスト未確定) | |
| PR 7666 | Steppin’ Out (1969) | Our Miss Brooks (1964-07) | Green (1961) 1 曲、Burrell (1963) 2 曲、Martino (1966) 1 曲。Shortnin’ Bread は Golson big band (ギタリスト未確定) | 4 人のギタリストが 1 枚に混在。1961〜1966 年の 5 年間にわたる |
| PR 7703 | Best Of — Live! (1969) | 全 6 曲 (Front Room + Jazz Workshop + Golden Circle) | なし | ライブベスト。Benson のみ |
| PR 7771 | Best Of — Big Soul Band (1970) | Stockholm Golson 4 曲 | Martino 5 曲 (Walk On By ほか) |
注記
- 「ギタリスト未確定」とした 3 曲(Rockabye, English Country Gardens, Shortnin’ Bread)は、いずれも Golson big band 編成で、TJD は Benson と記載するが、LP 裏ジャケのクレジットは Martino を示しています。ギターがほぼ聴こえない録音のため聴覚照合もできず、未確定としました
- PR 7476 Walk On By (1966) は TJD が Benson と記載していますが、ジャケット裏のパーソネルは “Pat Azzara, guitar” (= Pat Martino) と明記。全曲 Martino のため上表には含めていません
- PR 7778 Best Of Red Holloway (1970) と PR 7791 Soul/Jazz Giants (1970) にも一部 Benson 参加曲がありますが、McDuff バンドの文脈からは離れるため省略しました
おわりに
3 回にわたって、McDuff、Holloway、Benson、Dukes の Prestige 録音を追ってきました。Part I で 4 人のプレイヤー像を、Part II で時系列の聴取記録を、そしてこの Part III でディスコグラフィの検証と整理を書きました。
1963 年 6 月の Newark から 1965 年 10 月の NYC まで。14 のセッションから 80 曲あまりの録音が生まれました。名義やリリース形態が違っても、4 人が揃えばあのグルーヴマシンが動き出す。その記録です。
このシリーズが、散らばった録音の中から 4 人のバンドを聴き直すきっかけになれば嬉しいです。
本稿は 3 本シリーズの第 3 回(最終回)です。Part I: 4 人の奇跡の 2 年間 / Part II: 時系列順に聞いてみる