Blood, Chet And Tears / Chet Baker

(ごめんね、たまには悪態つかせてください)
(this article is my thoughts (and beyond) on Chet Baker’s famous “guilty pleasure for Chet’s fans” album left on Verve label. English version of this article (probably) will not be available.)

もし、知り合いに Chet Baker コレクターがいたとしたら、 このアルバムについてどう思うか聞いてみて下さい。きっとこんな感じで答えられるはずです。

. . . マニア泣かせの、なんとも言いようがない「迷盤」というところでしょうか . . .

まぁこのアルバムを彼の「最高傑作」だの「一番好きなアルバム」だのと言う人はさすがにいないでしょう (いたらごめんね)。 しかしその一方で、このアルバムを聴く度に、いろんなことに思いがめぐり、私はとても複雑な気持ちになります。

[V6-8798 Front Cover]      [V6-8798 Back Cover]

Blood, Chet And Tears / Chet Baker
(Verve V6-8798)

そもそもこれはジャズちゃうんやってば

そもそもね、アレンジャー/プロデューサーが Jerry Styner ですよ? (彼が何者か知らない人は web を検索して出直してくるように) ドラマーが Hal Blaine ですよ? (上に同じ) ベースが Joe Osborne とか Ray Pohlman ですよ? (しつこいようだが上に同じ) ギターに Mike Deasy がいるんですよ? (更に上に同じ) そもそもこれは Jazz じゃないんです。それを Jazz の土俵でどうのこうの言ったところで、なんになりますか。

そのくせ RollinsStones のアルバムに客演していることについては誰も「考えられない」「ロリンズも堕落した」とは言わず。それはやっぱり Stones がロックというジャンルでエスタブリッシュされた存在だからですかそうですか。

腕利きのセッションミュージシャン達が、ばっちり譜面通りに演奏して (それはそれは素晴らしい演奏です)、その上で Chet がいつもの様に美しいトーンでトランペットを吹いているだけのアルバム。しかもレパートリーは全部 Rock / Pops 畑の作品ばかり。

Chet Baker の素晴らしい Jazz 録音はやまほどあるんですよ。だからこんなの聴かなくてよろしい。もっと Jazz らしい演奏をしている盤を聴いていればいいんです。

ジャズファンは他のジャンルをなめとるんか

だいたいね、ジャズファン (特にモダンジャズばかり聴いてはる方々ね) って、妙に守備範囲が狭かったりしませんかArt Pepper の前期後期どっちがいい論争とか、Miles Davis の電化以後がどうたらこうたらとか、( . . . 以下多数をごっそり省略 . . .) そんな些末なことに拘るくせに、境界ジャンルや別のジャンルのことには全く無頓着だったり。なんかジャズとかいう音楽は、他の音楽ジャンルとは一段レベルの違う、超越した崇高で精神的な音楽ジャンルなんですかね。はぁー、わたし的にはもう辟易ですわ。世界中に山ほどある音楽ジャンルの1つでしょ? そんなところで妙にクラシック音楽 (及びその熱烈なファン) への屈曲した劣等感や憧れを抱かなくてよろしい。

そんな人達より、普段は J-POP や Hip Hop を聴いていて「ジャズって何?」という感じの人が、“Waltz For Debby” だの “Saxophone Colossus” だの (以下省略) を初めて聴いて「あー、これ、なんかいいですねー」と言っている、その次の日にはフィギュアスケートで (時間の都合上ハサミを入れられまくった) ラフマニノフのピアノ協奏曲2番がかかっているのを聴いて「この曲いいですねー」と言っている。まだその方がよっぽど健全に思えるね。

ま、同じことはロックの世界でも言えるのかもしれません。ともあれ、人それぞれ。人の趣味に対してとやかく言う権利はないわな。余計なことゆうてもうてすまんこった。えらいすんません。

全てのレコードは平等に聴かれる権利がある

. . . と言ったのは幻の名盤解放同盟でしたか。もうこれは絶対的に正しい。

だいたいね、私が一番生理的に受け付けないのは、音楽の価値を音楽そのものの中に形而上的に存在するものという前提でその価値の優劣を云々しようとしている という (往々にして無意識の) スタンス。アホかっちゅうねん。 いったん録音され、音盤として固定されたら (ライブ演奏であっても同じでしょうが)、もはや元の演奏者、プロデューサの意図も離れて、自由な解釈のもと、個々人によって受け止められ感じ取られ吸収されていくものでしょう。全く同一の音源を聴いて、人それぞれ受け止め方影響の受け方が違って当然。我々音楽ファンは評論家じゃないんだから。評論家というこの世の不思議な職業(?)についている方々の間であっても、あんなにゆうてることがバラバラなんですから。

私は、「どうしてこれが名盤たるか」とか「この人とこの人ではジャズ史上どちらが影響力の大きい仕事を成し遂げたか」とか蘊蓄をたれる人よりは、「どうして私はこれが好きか」「私にとってこの音楽はどういう影響を及ぼしたか」ということを語る人を信じます。私にとって、自分以外の人と音楽の話をするということは、その人がどういう音楽的嗜好があって、どういう音楽的興味の変遷をたどってきて、その音楽がその人にどういう影響を与えてきたか、その人がどれだけの音楽的嗜好の広さを有しているか、ということを確認することに他なりません。もちろん、話し相手が評論家さんであってもジャズ喫茶のおやじさんであっても同じ。

一見あるアルバムのことを語っている様でいて、実は仮想敵 (別のファンや別の評論家さん) に対して 口プロレス を挑んでいるだけ (俺のゆうてることの方がより「正しい」(とより多くの人が思ってくれるはずだ) とかそういうモティベーションだけで熱く語る?)、なんてのもよく見かけますね。NOT INTERESTED.

(余談:私は文才に欠けている)

悪かったね、あんたに言われんでもわかっとるよ。どうせ本当に言いたいこと伝えたいことの1割も書けてないし、なんの個性もなく人を引きつける魅力のない文章しか書かれへんよ。だからここのサイトにはあんまり他人さまからのコメントがないって言いたいんやろう。そらあんたの言う通りやわ。




それはさておき本盤の内容はというと

ふうぅ〜っ、と深呼吸して、気持ちを落ち着けて。

上述の通り、これは Jazz アルバムとは到底言えない内容です。どう考えても Chet Baker 本人が望んで録音されたものとも思えません (もし本人が望んでこれを録音したのだとしたら、それはそれで素晴らしい。改めて拍手喝采を送ります)。1960年代後半に特にはやった、ポップスやロックの著名曲をやってみるとこうなりました、的なアルバム。

同じく上述の通り、バックは腕利きのセッションミュージシャン (と一部のジャズミュージシャン) でがっちり固められています。鋭角的なブラスアンサンブルと、ロック的なノリのリズムセクション (特にベースとドラムスは素晴らしい仕事をしてます) は、セッションミュージシャンマニアにとっては実はたまらない内容かもしれません。ここまでがっちりとアレンジメントがなされているのに、個々のミュージシャンがそれぞれの個性を発揮できる。やっぱり凄いことです。ウィズストリングスもののストリングスが分厚いロックアレンジになってる、という受け取り方もアリでしょう。

おもしろいのは御大 Chet Baker。恐らく本人は気乗りしていなかったと思われるのですが、やっぱり何をどう吹いたところで、誰が聴いても Chet Baker と分かってしまう音色とフレーズと感触を出してしまう。調子も悪くありません。ただ、さすがに A-3 “Something” のヴォーカルだけはちょっと . . . Chet さんにこの曲が合っているとは到底思えず、真ん中の一番盛り上がるところなど、単なる歌のヘタなおっさんがカラオケでビートルズ歌ってみました、的に聞こえてしまうのがとても悲しい。

ロック畑の人にしては精一杯ジャズに擦り寄ってみました、的なアレンジも成功しているとは言えません。Chet さんのトランペット自体は全然悪くないだけに、ちょっと惜しい。 どうせなら、ジャズもファンクもロックもポップスもいける Quincy Jones さんあたりがアレンジメントを行っていたら、また別の意味で Chet Baker の別な魅力を引き出すことに成功していたのかなぁ、とか妄想が膨らんでしまう内容です。

. . . ということで、やっぱり、「迷盤」「珍盤」的なアルバムであることには変わりないですね (笑)

[V6-8798 Label Side-A]      [V6-8798 Label Side-B]



A-1: Easy Come, Easy Go
A-2: Sugar, Sugar
A-3: Something
A-4: Spinning Wheel
A-5: Vehicle

B-1: The Letter
B-2: And When I Die
B-3: Come Saturday Morning
B-4: Evil Ways
B-5: You’ve Made Me So Very Happy

Chet Baker (tp, vo on A-3, B-3) with:
Tony Terran (tp), Ray Triscari (tp),
Miles Anderson (tb), Dick “Slide” Hyde (tb), Ollie Mitchell (tb), George Roberts (b-tb),
Plas Johnson (ts), Buddy Collette (reeds),
Larry Knechtel (key), Al Casey (g), Mike Deasy (g), Joe Pass (g), Tommy Tedesco (g),
Joe Osborne (el-b), Ray Pohlman (el-b), Hal Blaine (ds), Gary Coleman (per),
Jerry Styner (arr, cond),
The Sid Sharp Strings (section).

Recorded at Sunwest Recording Studio, Los Angeles, CA on July 7, 1970.

Produced by Jerry Styner.
Engineered by Donn Landee.




最後に

すんません酔っ払った勢いで久々に悪態をついてしまいました。

もとい、悪態というよりは、支離滅裂な「スジ」の通っていない事を書きなぐってしまいました。

暫くおとなしくしてます、はい。

そしてなにより Chet Baker さんごめんなさい。
あなたのアルバムをとっかかりにして、悪態ついてしまいました。
えらいすんません。


6 thoughts on “Blood, Chet And Tears / Chet Baker

  1. shaolinさん、こんにちわ。
    >音盤として固定されたら (ライブ演奏であっても同じでしょうが)、もはや元の演奏者、プロデューサの意図も離れて、自由な解釈のもと、個々人によって受け止められ感じ取られ吸収されていくものでしょう。全く同一の音源を聴いて、人それぞれ受け止め方影響の受け方が違って当然~
    全く同感です!たまたまペッパーの音盤のことで・・・僕はどちらかというと前期ペッパーを好みますが(~派ですみません:笑)例外的に最晩年の[going home]~普段はクラシック曲のポピュラー化」は好きではないのですが~この「家路」だけは・・・本当によく聴きます。どうにもジワジワと心に染み入ってくるようです。自分の中では「音楽は音だけが全て」という考えがないわけではないのですが・・・82年録音のすぐ後に「ペッパーは亡くなってしまった」ということを、全く意識することなしにこの盤を聴くことも、またムリなようです。
    それぞれの方のそれぞれの「音楽聴き」において、全くいろんな「思いいれ盤」があるはずです。それぞれが自信を持って自分の趣味を貫けばいい・・・そんな風に思います。
    まあでも・・・僕もブログなどやってると、つい「あいつの趣味は、本線(モダンジャズ)ガチガチだな」とか思われてるんんでしょうね(笑)確かに「新しい録音もの」は、数少ない例外盤以外はあまり聴きませんけど(笑)
    shaolinさん・・・また酔っ払って下さいね(笑)では。

  2. 早朝テニスから帰ってきました。もちろんシラフです (笑)
    こんな悪態ついた文章にコメント頂き恐縮です。
    # はぁ、しかしまた勢いで酷い文章を書いてもうた。
    # また読者を大勢うしなったなこりゃ (笑)
    気をとりなおして、
    > 最晩年の[going home]
    George Cables とデュオでやってる奴ですよね。今手元にはないのですが、昔聴いた時には「あーやっぱり 何をどうやっても Pepper さんの存在感は凄いよなぁ」と思った記憶があります。
    > 「あいつの趣味は、本線(モダンジャズ)ガチガチだな」とか思われてるんんでしょうね(笑)
    いや私はそんなこと全然思いませんよ。いつも楽しく拝見してます。
    ひとつのアルバムや、それにまつわるいろんなアルバムについて、その思い入れを縦横無尽に語って下さってますもの。そこから basssclef さんのいろんな嗜好が透けてみえるようで、とても興味深いです。
    Pepper で思い出しましたが、なにかのドキュメンタリーで、「俺もやっとウィズストリングスものを吹き込めた。これは本当に素晴らしい」と悦に入りながら「Winter Moon」を自宅のターンテーブルにかけてしんみり聴いている Pepper、なんてシーンがありましたね。そのときの Pepper さん、とてもいい顔をされてました。

  3. いやまた、凄い勢いなんで、どうしたかと思いました(笑)
    ネットでオープンにサイト開いてるといろいろ雑音も聞こえてきますが、自分が唯一正しいという前提で押し付け的にいろいろ言ってくる人のことは、もう無視しとけばいいですよ~(って、全然見当違い?)
    評論家といえば、最近妙にNat Hentoffが気になり始めまして、未聴のCandid盤を4枚もオークションで落札してしまいました(笑)
    これで私的にアタリがけっこう多いと、一気にCandid集めに走りそうです。
    まあ、たかだか30枚程度しかありませんが。

  4. へへ、えらいすんませんでした。
    今日もお酒飲んでますが、おとなしくしてます、はい。
    > 自分が唯一正しいという前提で押し付け的にいろいろ言ってくる人のことは、
    > もう無視しとけばいいですよ~(って、全然見当違い?)
    はは、これは例のアレのことですね? (笑)
    > 一気にCandid集めに走りそうです
    Candid かー、20代のころにオリジナル盤を買おうとしていたら全揃えとか狙ってたかもしれませんが、最近はどうも熱くて熱気ムンムン系をずっと聴くのは体力的に無理になってきたかもしれません (笑) ともあれ、最近はあまり積極的に聴いてないかもなぁ。未聴のアルバムがあと数枚あるんやけど。
    Hentoff といえば、彼が書いた小説?「Jazz Country」を数年前に古本屋で買って読みました。就寝時に読むにはとても手頃な? 不思議な魅力のあるフィクションでありました。

  5. > はは、これは例のアレのことですね? (笑)
    あはは、そうです(笑)
    > 最近はどうも熱くて熱気ムンムン系をずっと聴くのは体力的に無理になってきたかもしれません (笑)
    なんとなくわかる気がします。ローチがらみでオリジナルのMONO盤を3枚買いましたが、いずれも聴くには相当に体力使いますね。
    あと、日本盤とかで持ってるミンガスも、好きなんですが、聴くときには、「聴くぞ~」って意気込んでかけるというか(笑)
    > Hentoff といえば、彼が書いた小説?「Jazz Country」を数年前に古本屋で買って読みました。
    あ~おもしろそうですね。私も古本屋で探してみます。

  6. > 聴くには相当に体力使いますね。
    おかしいよなぁ、20代の頃はそういうアルバムばっかり好んで聴いてたんですけどね。ジャズもロックもクラシックもなにもかも。
    最近本当に自分の歳を意識してしまいます (涙)
    といいつつも、今晩は久し振りにヘヴィーな内容のを堪能しました。正にタイミング良く某所で話題になった「Metal Machine Music」。カッチョエー。

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