今年発売されたばかりの、この 2枚組 CD。なんといってもジャケットがイカしてます。 ボロボロになった SP アルバム を模した装丁で、最初に手にとった時には不良品かと勘違いしましたよ . . .
This double CD album, just released in this year, has very funny artwork here – take a look, it looks like a heavily worn-out 78rpm album binder! When I saw this artwork for the first time, I thought this copy is one of substandard products . . .
( . . . and the rest of the English edition of this article will be available in the near future I hope . . . )
この CD は、Mercury レーベル に残されたニューオーリンズ R&B 録音の集大成となるものです。全47曲 (別テイクも含む) だけしか録音されていないのは、Mercury がシカゴを本拠地とするレーベルで、ニューオーリンズでは全く活動をしていなかったからでしょう (その代わりシカゴ以外でも、ニューヨークやロサンゼルスには A&R が常駐していて大量の録音をしていましたし、カントリー向けにはナッシュビルやフロリダで多数の録音をしていました)。そんな Mercury でニューオーリンズ R&B 録音が実現したのは、ニューオーリンズでラジオ部品屋を経営していた ウィリアム・アレン (William B. Allen) の働きかけによるものだったそうです。アレンさんがマーキュリーにニューオーリンズ録音を強く勧めた結果、南部担当 A&R の マレー・ナッシュ (Murray Nash) が実際にニューオーリンズに赴き、アレンさんと一緒にミュージシャンをあたって契約をしていったとのこと。
ジョージ・ミラー (George Miller)、アルマ・ロリポップ (Alma Mondy, Alma Lollypop)、レイ・ジョンソン (Ray Johnson) などなど、マイナーながら聴き応えのある楽曲が並びますが、この一連の録音のハイライトとなるのは、文句無しに プロフェッサー・ロングヘアー (Professor Longhair) の最初期録音でしょう (録音時の名義は Roy Byrd)。全 9曲 13テイクが録音されたものの、当時は SP 2枚で 5曲 (うち 1枚が、2種類のカップリングでリリースされたため) しか陽の目を見なかったのですが、アメリカ全土での知名度がまだまだ低かったこの時期に、極上の楽曲、そして極上のコンディションで録音が行われていたことに感謝するしかありません。
1970年代に入ると、全米での知名度もぐんとあがり、伝説のニューオーリンズピアニストとして高い人気を博しましたが、それに先立つこと30年、声の張りも素晴らしく演奏のドス黒さも全開の本録音は、まるで別人ではないかと錯覚させられる程のド迫力です。特に、後に何度も演奏された代表曲「Bald Head」の本セッション版は、まさにこの曲の決定版とも言える素晴らしい出来です。テンポはあまり早くとらず、ゆったりとかつどっしりとロールするリズムに乗せて、御大のピアノとヴォーカルが抜群のノリで迫ってきます。有名な Atlantic 録音に比べるとバンドサウンド全体としての完成度はまだ低いかもしれませんが、それでもなかなかのものです。なお、この「Bald Head」は当時、ビルボード誌の R&B チャートで最高 5位までいったそうです。
当時 SP でリリースされたのは次の 2枚 (3種類) だそうですが、まだ入手できていません。 結構いい値段するんやろうなぁ . . .
- Bald Head c/w Hey Now Baby (Mercury 8175)
- Her Mind Is Gone c/w Hadacol Bounce (Mercury 8184, 1st release)
- Her Mind Is Gone c/w Oh Well (Mercury 8184, 2nd release)
余談ですが、これらのセッション (のうち 1953年録音を除く) は、過去のディスコグラフィーでは 1949年 8月〜9月の録音とされていましたが、本 CD のライナーノーツでは 1950年 2月/6月/7月と修正されています。これは、上述のマレー・ナッシュさんへのインタビューや、当時の音楽雑誌のリリース情報などを資料として検証、修正されたとのことです。
本 CD に収録されている音源で、現在 SP を所有しているのはたった 1枚、George Miller & His Mid-Driffs の 「Boogie’s The Thing c/w Bat-Lee Swing」 (Mercury 8183) のみです。あまりニューオーリンズ臭さを感じないのが不思議な演奏ですが、A面はノリノリのブギにコテコテテナーが絡み、B面は リー・アレン (Lee Allen) と リロイ・“バットマン”・ランキン (Leroy “Batman” Rankin) のダブルテナーでブリブリ迫るミドルテンポで、けっこうスルメ的魅力に溢れた盤です。コテコテブリブリホンカー好き にはお薦めしたい 1枚。
70ページもある付属のブックレットも、ミュージシャンの紹介、サイドストーリー、貴重な写真などが満載で必読なのですが、George Miller バンドがクラブで演奏している写真に目が止まりました。まんなかで歌っている黒人女性シンガーの名前を確認すると Anna Marie Woolridge とあります。要するに、のちの アビー・リンカーン (Abbey Lincoln) ってことですね (Anna Marie Woolridge が本名の様です)。へぇ〜、こういうところで歌ってたとは全然知りませんでした . . .
![[George Miller w/ Abbey Lincoln]](https://microgroove.jp/img/GeorgeMiller.jpg)
George Miller (left) and his Mid-Driffs featuring Anna Marie ‘Abbey Lincoln’ Woolridge (centre)
Similar Posts / 関連記事:
Some similar posts can be found on this website (automatically generated).
- Jazz Winds From A New Direction / Hank Garland (2007/04/16)
カントリーギタリストとしてだけではなく、ジャズのリーダーアルバムも出し、ナッシュビルギャングの一員として幾多のロックレコーディングでも録音を残した、ハンク・ガーランド (Hank Garland)。そのキャリアを概観してみました。 - Fine And Dandy / Sonny Stitt (2008/09/24)
今年前半に書きかけだった駄文に追記したものです。謎はまだ解けず。さて真実はいかに? This short article is a revised edition of what I was writing bits and pieces earlier this year. Still one mystery survives – what and how will be the real truth coming out? Stitt’s Bits: The Bebop Recordings… - Don’t Stop The Music / George Jones (2007/06/14)
これは 先日届いた14枚 の中の 1枚ではないのですが、先月か先々月に「ついでに」入手したものでした。しかしここまで素晴らしい内容だったとは嬉しい誤算です。 This 78rpm is not one of the fourteen 78rpms I got the other day – probably I bought this a month or two ago along with several other 78rpms I won. However, the music was… - Your choice? LP with cover, or 78rpms without cover? (2007/07/02)
ある人種 (笑) にとっては、究極の選択かも知れません。 同一内容、同時期リリースのアルバムだとして、 ジャケット付の LP をとるか、 ジャケなしの SP をとるか。 - Granz’ Jazz to Shift To Clef Label Aug. 1 (2012/01/13)
ずっと前から、調べよう調べようと思って忘れていたのですが、先日、別の調べ物をしているときに発見しました。1948年頃から Mercury とディストリビュート契約をしていたノーマン・グランツ音源が、グランツ本人の Clef レーベルに切り替わった時期。過去に調査した際に、1953年であることまでは特定できていたのですが、より詳しい切り替わり時期を調べようと思っていたのです。 The other day I happend to find the very article that identifies the period when Norman Granz stopped distribution contract with Mercury label and started his own Clef label – I found this while I was looking for info on other research topics… I knew it was in - The Bright Mississippi / Allen Toussaint (2009/07/15)
2009年にも新譜アルバムをLPで聴ける幸せ。そして、アレン・トゥーサン (Allen Toussaint) さんの渾身の作品は、戦前ジャズとニューオーリンズR&Bの見事なブレンド。ノスタルジーに浸るだけではない、素晴らしい演奏で満たされた作品になりました。
模造ダメージ・ジャケの銘品がまた増えましたネ!
板起こしですか?
お手持ちのSPと比べるとやはり迫力に欠けますでしょうか?
> 板起こしですか?
具体的にどの曲がメタルマスターから?アセテート盤から?通常の盤から?音がおこされたのかは分からないですが、
このテのジャンルにしては、かなり音はマシだと思います。
一部あきらかに盤起こし的な音質の曲もありますが、大半の楽曲は良好な部類に属すると思います。
> お手持ちのSPと比べるとやはり迫力に欠けますでしょうか?
これはさすがに SP に軍配があがりました (笑)
この手のジャケは好きですねぇ。
正方形のLP時代にはなかった発想ですね。
横長のCDケースになり、SPアルバム的デザインが復活といったところでしょうか。
板起こしの件ですが、以前、どこかのブログで私のmodern sax stylistsを紹介していました。
そこには、原盤が入手出来なかったのか、市販されたSPを使っているようだと書かれていました。 よって、音も悪いが仕方がないですって。 復刻は難しいです。ハイ