ラーメン丼柄のスリーヴ / LEBO PEERLESS Generic Sleeve

そういえば、米国中古盤でよくみかけますよね、この柄のインナースリーヴ。

確かに私も、ジャンルを問わず、いろんな中古盤でよくみかけてきました。特に1960年代〜1970年代近辺の盤でよくみかけるような気がします。当時いろんなところで売られていたポピュラーなジェネリックスリーヴか、はたまたレコードショップ(チェーン)が提供したジェネリックスリーヴか、そんなところかなぁ、と思っていました。

じゃあ手元のどの盤で、このスリーヴ付を見かけたか調べよう…となるところなんですが、なにせ購入後レコードをクリーニングしたら、別の新品インナースリーヴ(いわゆる白い「ダイカットインナースリーブ」です)に交換し、元々ついていたこのテのスリーヴは捨ててしまうんですよね。各レーベル固有のカンパニースリーヴの場合は保管してますけど。

そこで、この、通称「ラーメン丼柄」スリーヴについて、英語圏のコレクターが集うオンライン某所で訪ねてみることにしました。

“Record Collector” Group on FB

ちなみに「某所」というのは、Facebook の “Record Collector” というグループなのですが、当時を知るご年配の方も結構おられるようなので、カジュアルに質問してみました(その際、写真は ランブリングボーイズ さんのものをお借りしました、事後報告すみません)。

My post on FB's “Record Collector” group

私が FB の “Record Collector” グループに投稿した内容

すると、いろんな情報が集まってきました。協力してくださったみなさん、感謝です。

Musical Heritage Society Label

まず最初に情報を寄せてくれた Dave Kowalsky さん(アメリカ西海岸)は、「Musical Heritage Society レーベルのファクトリースリーヴとほとんど一緒だよね」と教えてくれました。

Musical Heritage Society used them. They are horrible and can/will permanently etch into the vinyl surface.

Musical Heritage Society レーベルがこのスリーヴを使ってたね。本当にこのスリーヴは最悪で、(内袋に使われていた当時のプラの組成のせいで)レコード盤の焼け(曇り)を引き起こしてしまい(あるいは引き起こす可能性があり)、ダメにしてしまうんだよね。

FB comment from Mr. Dave Kowalsky, on 06:12 AM JST, May 23,2023

この Dave さんのコメントに対し、他の方々が「そう、このスリーヴ本当に最悪」「これを見かけたらすぐに別のインナースリーヴに交換して捨ててしまわないと」と盛り上がる一方、「いや、うちのコレクションではこのスリーヴでもレコード焼けなんて起こってないけど」「湿度とか保管状態とか、いろんな状況が関係するんじゃないかな」「当時のプラスチックの組成でこういう問題が起こることがあって、それに気づいた製造メーカはのちにプラ組成を変更したので、最近のは大丈夫だよ」など、いろんな情報が飛び交いました。

で、その Musical Heritage Society というレーベルについて知らなかったので、調べてみたところ、1962年ニューヨーク市発足のメールオーダー(通信販売)、クラシック専門のレーベルでした。

一連のリリースは、お馴染み Discogs にも大量に掲載されています。Erato レーベルなどの音源を、シンプルなジャケット装丁でメールオーダー専用として販売していたようです。

で、その Musical Heritage Society レーベルのスリーブ写真を探してみると。。。eBay にありました。

Musical Heritage Society MHS-1442 (with MHS Factory Sleeve)

source: eBay listing
eBay に出品されている Musical Heritage Society MHS-1442 の写真

この盤は、マラン・マレ (Maran Marais) の作品 “Pièces De Viole From Suitte D’un Goût Etranger, Book Four, 1717” を収録したアルバム MHS-1442 で、1975年リリースだそうです。

それはさておき、例のラーメン丼柄のジェネリックスリーヴとは柄が異なり、ト音記号があしらわれていますね。また、スリーヴ下部には Musical Heritage Society と印刷もされています。しかし、写真で判断するところ、スリーヴの質感や、全体的なデザインスキームは非常に良く似ているのも事実です。おそらく、同じ会社によって製作されたスリーヴ、ってことなんでしょうね。

Generic Sleeves Popular At That Time?

その後、多くの方から「当時レコード店でこのスリーヴを買った」という情報が多数寄せられました。「ラジオシャック (RadioShack, 有名な家電量販店チェーン) で買ったよ」と購入店舗まで教えてくれる方もいたり、「当時はこのスリーヴを数百枚と買って、レコードを買うたびにこれに入れ替えてたもんだ」という話をしてくださる方もいました。

They were sold in record stores in the 70s for an upgrade over the paper sleeves the records came with.

1970年代に、レコード販売店で売られていたものだね。レコード購入時に付属していた紙のスリーヴのアップグレード版として。

FB comment from Mr. Steve Bertram, on 08:25 AM JST, May 23, 2023

At one time in the 70’s these were sold to consumers to protect their vinyl purchases. What happened over a few years instead of helping to protect the vinyl, they actually left residue all over the records that you couldn’t get off the surface. They are terrible things for your vinyl purchase. They also left a cloudy imprint all over the records as well. Throw them out.

このスリーヴは、1970年代の一時期に販売されていたものだね。レコード購入者に向けて「レコードを保護するため」という名目で販売されていた。で、数年が経過したら、レコードを保護するどころか、盤がビニ焼けしてしまって、取り除くことができなくなってしまった。購入したレコードにとってはこれは最悪の事態で、盤の表面に曇ったような跡が残る。(このスリーヴは)捨ててしまった方がいい。

FB comment from Mr. Geoffrey Hutson, on 06:27 AM JST, May 23,2023

Back in the day some of us bought these because we assumed they were better than the paper sleeves that came with the records. I must have bought hundreds of these. I still have many of them. I must be lucky because I’ve seen no damage after using these for more than 50 years.

かつて、我々(のようなレコード購買者)の中には、レコード購入時についていた紙のインナースリーヴよりも、こっちの方が優れていると思っていた人もいたわけなんだ。私は数百枚くらい買ったのかな。それらはまだ多くが手元にある。50年以上たつけど、私の手元では盤にダメージは出てないから、ラッキーだったんだね。

FB comment from Mr. Albert Barton, on 06:43 AM JST, May 23,2023

Factory Sleeves Used By Some Labels?

その他、当時のボックスセットに新品時から使われていた、という情報も寄せられました。

まずは Columbia レーベルのボックスセット。

They came with Columbia music box sets whether or not they are a generic sleeve that other companies used I’m not sure . But they definitely came with Columbia music sets.

このスリーヴは Columbia のボックスセットに付属してきたものだね。Columbia 以外の他社が使っていた汎用スリーヴなのかは分からないけど、Columbia のボックスセットに付属してきたのは間違いない。

FB comment from Mr. Carmelo Graci, on 06:37 AM JST, May 23,2023

続いて、Time Life Music のボックスセットでも使われていた、という情報も寄せられました。

I have a Time Life Box set of Willie Nelson. They used these sleeves. The TL sets are complications put together by a national magazine company in the USA.

Willie Nelson の Time Life ボックスセットを持っているけど、このスリーヴだったよ。Time Life ボックスセットは、全国区の雑誌(Time 誌 / LIFE 誌)が編纂したコンピレーションだった。

I will say that my Willie Nelson set is first rate. They definitely used original master tapes when they mastered that set. It sounds incredible and has most of Willie’s best material from the early sixties to the early eighties.

私の所有する Willie Nelson ボックスセットは素晴らしいコンピだと断言できる。オリジナルのマスターテープが絶対に使われてただろうね。信じられないほど音がいいし、1960年代前半から1980年代前半までの Willie のベスト音源で構成されている。

FB comment from Mr. Carl Ferguson, on 07:18 AM JST, May 23,2023

Time Life Music というのは、Time 誌や Life 誌を発行していた Time 社が、雑誌ではなく書籍を発行するために1961年に Time-Life Books, Inc. を発足したのち、1966年にブックレット付きレコードセットを販売するために Time-Life Records という部署を作り、そこからリリースされた一連のシリーズのことです。

Lebo/Peerless Sleeves

で、再び eBay で調べてみたら、確かにバルクで売られていたもののデッドストックの出品がありました。

Lebo Peerless Factory Sleeves

source: eBay listing
“LEBO PEERLESS” と印刷はあるものの、例のラーメン丼柄デザインスリーヴですね。
4枚入りで $2.29 のプライスタグが貼られています

Lebo/Peerless Corporation(同社が申請した特許のリスト)というのは、8トラックテープ、カセットテープ、CD などのキャリングケースを製造販売したり、クリーニングテープを販売したり、このようにレコードスリーヴを販売していた会社のようです。ただし、Lebo/Peerless 自体が、このラーメン丼柄のスリーヴのオリジナルかどうかは分かりません。

…と書いているうちに、ランブリングボーイズさんが Steve Hoffman Forum の投稿を見つけられていました(笑)さすがです。そして、こちらも印刷色は違うし、ロゴも異なりますし「LEBO/PEERLESS」ではなく「LEBO」とだけありますね。

また、kaori E さんが、7インチの LEBO スリーブも見つけられていました。Twitter クラウド探究すごい。

つまり、我々がディスクユニオンやレコファン、バナナレコードなどで買っていた、白いダイカットスリーヴのようなもので、当時米国で非常に一般的に流通していたジェネリックなペーパースリーヴ(ただし、今となってはあまり好ましくない組成のヴァイナルスリーヴが裏打ちされていた)、ってことなんでしょうね。なぜこのラーメン丼柄のデザインがあしらわれていたのか、は良くわかりませんが。

Le-Bo Products Co. Inc. RC-10 Record Protector

そしてさらに追加情報として、1978年当時の広告を見つけました。ただし社名は “Lebo/Peerless Corporation” (Bloomfield, NJ) ではなく、“Le-Bo Products Co. Inc.” (Maspeth, NY) となっています。そして商品名は RC-10 Record Protector (10枚入り) となっています。解像度が低いですが、こちらはラーメン丼柄のみで、社名は印刷されていないようにみえます。

Le-Bo Products Co. Inc. RC-10 Record Protector

source: Le-Bo Products Co. Inc. Ad, The Billboard, March 25, 1978, p.122.

“Billboard 1974-1975 International Music-Record Directory” というムックに、Le-Bo Products Co. Inc. の情報が載っていました。ハンガリー出身の創業者 Leslie Bokor 氏の名前から Le-Bo という社名をとったようです。

Le-Bo Products 社と Lebo/Peerless 社との関係を明確にできていませんが、おそらく Le-Bo 社と Peerless 社が合併したということでしょう(1972年に Peerless 社が存在したことまでは確認済)。

Lebo and Peerless

source: “Mass Merchandiser Match”, The Billboard, September 8, 1973, p.48
さまざななアクセサリを紹介する記事で、Gusdorf, Lebo, Amberg, Peerless といったレコード/カセットキャリングケース製造会社名が記されている

Peerless 社が、正式には “Peerless-Vidtronic Corp.” であることも確認しました。住所が Lebo/Peerless 社と同じ Bloomfield, N.J. ですので、やはり Le-Bo 社と Peerless 社が合併した(あるいは、Peerless 社が Le-Bo 社を買収し、社名を変更した)というあたりでしょうかね。Billboard 1981年7月25日号 S-13ページ に、LEBO/PEERLESS 名義で広告が出されていますので、遅くとも1981年には合併していたということでしょう。

Provisional Conclusion?

ともあれ、現時点でわかっていることをまとめると、以下のようになるでしょうか。

  • 特に1970〜80年代、米国で一般的に販売されていた、交換用ジェネリックスリーヴ
  • 当時の購買層は「レコードに付属している紙スリーヴよりこちらの方が保管に優れている」と考える人もいて(あるいはそのように宣伝されていて)、多くの人が買っていた
  • 裏打ちされているプラスリーヴの組成のせいで、湿度など保管環境によっては盤焼けを起こす原因になることもあり、それもあってか、のちにあまり流通しなくなった
  • Musical Heritage Society レーベルは、このスリーヴの OEM を使用していた
  • Le-Bo 社および Lebo/Peerless 社が、同じ柄のスリーヴに社名を追加印刷して複数パターン販売していたことが確認された
    • Le-Bo 社と Peerless 社が1980年代初頭に合併?買収?して Lebo/Peerless ブランドになったっぽい
  • 社名なしのスリーヴは、Le-Bo Products Co. Inc. の広告が1978年のBillboard誌に掲載されているのを確認した
  • 社名なしスリーヴは、一部のレーベルが新譜製造時にも使っていたとの目撃例もあがった
    • 少なくとも Columbia や Time-Life のボックスセットでの目撃例は確認された
  • しかし、この社名なしラーメン丼柄スリーヴのオリジナル製造会社がどこなのか、などについては、結局特定できず仕舞いだった

Miscellaneous

下北沢の サボテン・レコード さんが、このスリーブにまつわるブログ記事を2012年9月に書かれていました。

また、Eremite Records の盤では、このラーメン丼鉢柄のスリーヴが使われているそうです。裏打ちされたインナースリーヴは、写真で判断する限りは、1970年代のものと異なり、近代的な組成に見えますので、これはおそらく「オマージュ」なんでしょうね。

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