How Records Were/Are Manufactured (5)

第1回第2回第3回第4回 に続き、戦後のレコード製造工程や原材料の歴史を改めて調べてみた、そんな記録です。

5回目となる今回は、1964年の Burt Bacharach = Hal David 両氏へのインタビュー記事に登場する射出成形スチレンシングル盤への不満という面白いエピソードのほか、英国の射出成形ヴァイナル盤研究開発を捉えた興味深い動画の紹介、同じく射出成形ヴァイナル盤製造を1970年代に行っていた日本コロムビアの学術論文、最後に21世紀になって登場した「エコフレンドリーな」射出成形PET盤について、それぞれみていきます。

レコード業界における射出成形による製造法の役割が、長期的なコスト削減および生産効率向上、という目的から、持続可能なレコード文化存続へ、とシフトするさまを現在進行形でみているんだなぁ、という思いを強くした学びでした。

Burt Bacharach、スチレン盤への不満を語る (1964, The Billboard)

レコード製造工程とは直接関係ない記事で、著名人によるスチレン盤嫌悪が表明されている、非常に興味深い記事を発見しました。

The Billboard 1964年4月8日号 に、当時次々大ヒット曲を連発していた作詞作曲チーム、Hal DavidBurt Bacharach に関する連載インタビュー記事が掲載されました。

この中に、射出成形スチレン盤に対する不満ともいうべきバカラック氏のコメントが掲載されているのです。

Burt Bacharach continued, “Unfortunately there has to be a gradual diminishing of sound quality of the ‘date’ — down to a monaural mix, then the ‘final catastrophe’ when it goes into and and out of a pressing plant.”

バート・バカラック氏はこう続けた。「残念ながら、『レコーディングセッション』の時の音は、最終的にモノーラルミックスとなるまでに経るさまざまな工程で徐々に低下してしまうものだ。そしてプレス工場に送られ、そしてプレスされて出てくる、この最後の工程を経た結果『最悪の大惨事』となるんだ。

“Economics are involved in all record companies’ choices of materials in pressing. Pure vinyl should be used on the test pressing for the DJ copies. We feel that anything else is false economy.”

「どのレコード会社においても、プレスする際の素材の選定には経営判断が絡んでいる。DJ用のテストプレスにはピュアヴァイナルを使うべきであり、それ以外は経済の理屈からしても間違っている、と我々は感じている。」

We find that there is a difference in various songs and ‘date’ we do, varying from time to time on whether a compression or injection pressing method was used. Thus, we always get pressings from at least two plants on every ‘date’, and we choose the record closest to the original tape sound. Not many songwriters and producers go out inspecting pressing plants.”

圧縮成形盤か射出成形盤かによって、我々が関わった様々な『セッション』で生み出した曲の音に違いがあることが分かる。だから私たちは常に、それぞれの『セッション』ごとに、少なくとも2箇所以上のプレス工場からテストプレスを入手し、オリジナルテープの音に最も近い盤を選んでいる。我々がやっているようにプレス工場を視察に行く、そんな作詞作曲家やプロデューサはあまり多くない。」

Bacharach said: “When I hear the record on the radio for the first time I ascertain right then and there whether it really has it for a hit. But, hearing it on the air will never have the excitement that I get while making the record in the studio due to limited ability of the radio to reproduce the sound that I had put on tape.”

バカラック氏はこうも述べた。「(我々が作ったレコードを)ラジオで初めて聴く時に、その曲が本当にヒットするかどうかをその場で判断する。しかし、スタジオで録音しレコード制作している時のような興奮は、ラジオ放送からは決して得られない。スタジオで私がテープに閉じ込めたあの音をラジオで再現するには限界があるからだ。」

Inside R&B: David & Bacharach Profile: Part 1”, The Billboard, April 8, 1964, p.14

このバカラック氏のコメントが当時の典型的なものか、は議論の余地があるかもしれませんが、こうやって音楽関係者からも当時の(特に45回転盤の)レコードの質のばらつきについて、否定的な意見が出ていたことを示す、貴重な資料であるといえるでしょう。

「原材料不足が45回転盤の品質を押し下げる」(1973, The Billboard)

1970年代の The Billboard 誌で、射出成形、またはスチレンというキーワードが久しぶりに登場しました。1973年、すなわち オイルショック と関係していたかは不明ですが、再び深刻なレコードの原材料不足が懸念されていました。

1973年10月6日号 では、1面トップ記事として「Industry Tackles Plastics Shortage」が掲載され、米国各レーベルがポリ塩化ビニルやポリスチレンの確保に奔走している様子が捉えられています。

さらには長編解説記事「Shortages of Materials: This Year’s Pain In The Neck」および「Accesory Firms Keep Sharp Eye Out For Raw Materials Shortages」も掲載されており、テープ業界、紙業界、コンピュータ用ストレージ業界、各種アクセサリ業界など、あらゆる業界でプラスチック原材料や化学製品不足への懸念が渦巻いていたことを伝えています。

続く 1973年10月13日号 には、続編として「Shortages Pinch 45 Quality Push」という記事が掲載されています。

記事執筆者は Earl Paige 氏、1966年から1993年まで Billboard 記者を務めた方です。

CHICAGO — Jukebox programmers and home phonograph manufacturers involved in the multifaceted efforts to improve the quality of 45’s are watching carefully the shortage of raw materials (Billboard, Oct 6). While attention is directed at the short supply of benzine, the main compound from which polyvinyl chloride (PVC) is made and hence LP’s, experts point to an even more critical shortage of polystyrene used for singles. A chief worry of jukebox people is that more and more singles pressing will be farmed out as a result of the crunch on LP’s, and such farmouts have resulted in poorer quality 45’s.

シカゴ発 — 45回転盤の品質向上のため多方面にわたる取り組みを行っているジュークボックスプログラマや家庭用レコード業者は、原材料の不足を注意深く見守っている(本誌10月6日号)。LP の原材料であるポリ塩化ビニル (PVC) の原料となるベンジンの供給不足が注目されているが、専門家は、シングル盤に使われるポリスチレンの不足がより深刻である、と指摘している。ジュークボックス関係者が最も懸念しているのは、LP盤の逼迫の結果、45回転盤のプレスがますます外部に委託され、結果として45回転盤の品質が劣化することである。

Bryce Johnson, industrial manager of compounds. Tenneco Chemicals, Piscataway, NJ., said, polystyrene “is drying up faster than PVC. This would make sense because it is low-end product and would be bought up faster.” A NJ. pressing plant manager said he believes some problems with 45’s stems from injection molding with polystyrene. “1 don’t even believe they should use styrene, but I suppose it’s a cost factor again.”

ニュージャージー州ピスカタウェイの Tenneco Chemical社生産マネージャの Bryce Johnson 氏は、ポリスチレンは「PVC より先に枯渇している。ポリスチレンは低価格製品であり、早く買い占められるため、これは当然のことだ」と語った。ニュージャージー州のあるプレス向上のマネージャは、45回転盤の問題の一部は、ポリスチレンの射出成形に起因すると考えている、と述べた。「私はスチレンを使うべきではないと思うが、これもまたコスト要因だと思う。」

Shortages Pinch 45 Quality Push”, The Billboard, October 13, 1973, p.23

米国において射出成形スチレン45回転盤が長らく流通していた理由は、やはりコスト要因が最も大きかったのであろう、それを如実に表す記事であると言えます。

しかし、ジュークボックス業界からもあまり歓迎されていなかったように読める、そんなスチレン盤ですが、レーベル側の経営判断により、1980〜90年代にアナログレコードがフェードアウトするまで、引き続き米国では盛んにリリースされていたわけですね。

あと、個人的に気になるのは、「45回転盤のプレスがますます外部に委託され」という箇所で、自社プレスではまかないきれない分を外部委託する、そしてその分はコストを圧縮しようとする、すなわち射出成形スチレン盤になる確率が高くなる、ということだったのかもしれませんね。

1960年代: British Geon Ltd.、射出成形ヴァイナル盤テスト製造

話は一気に変わります。

英国の British Geon Ltd. 社が、射出成形盤に適したポリ塩化ビニルの組成を1960年代に調査研究した結果をまとめ、サンプル生産した7インチ45回転盤が付属したドキュメントが、YouTube で紹介されているのを見つけました。

ただただ圧巻の貴重な資料なので、ご覧ください。

現時点では、英国でのプレス工場とプレス技術、当時の英国レコード業界や各レーベルの思惑、などを探る資料をほとんど見つけられていないため、英国での廉価盤の歴史やそこで使われた原材料について情報を得ることができずにいます。そしてなぜ、英国(や欧州)では、ポリスチレンが使われなかったのか、も非常に気になるところです。

この辺りは、今後の調査課題としたいと思っています。

そのため、あくまで推測ですが、この British Geon Ltd. 社の取り組みが、1970年代に英国で射出成形ヴァイナル45回転盤が生産されるようになった、そのさきがけだったのかもしれません。

1971: 日本コロムビア、射出成形ヴァイナル盤に関する研究論文を発表

1971年、学会論文誌「高分子化學」に「射出成形レコードの成形性」という論文が掲載されました。執筆者は、日本コロムビア(株)研究開発本部の4名です。

この論文は、射出成形盤製造に適した材料を調べるため、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、特殊配合ポリスチレンの3種について、流動性、成形加工性を測定した上で、レコードの成形性、およびできあがったレコードのS/N比や混変調歪率に対する金型温度と型締力の影響について調査したものです。

結果、ポリ塩化ビニルは成形性が低いため型締力は100トン以上を必要とするが、S/N比や耐摩耗性などの音響特性が最も優れていることが分かった、と結論づけています。

結果、日本コロムビアは1970年代〜1980年代にかけて、45回転シングルとして射出成形ヴァイナル盤を製造・販売することとなります。

おそらくは、レコード製造に限らず一般的なプラスチック加工分野において、射出成形そのものの技術レベルがあがったことにより、かつては難しいとされていたポリ塩化ビニルの射出成形技術を用いたレコードが実用レベルになってきたこと、そして出来上がったレコードも品質的に問題ないレベルと判断された、などの要因があるのではないか、そのように推測できます。

2016: Symcon 社、環境に配慮した射出成形LP製造技術を公開

1980年代後半、主たる音楽メディアとしての座をCDに明け渡して完全に下火となったアナログレコード製造は、2000年代中頃に底を打ちました。音楽の主要メディアも、CD から MP3 などのディジタルファイルへ、そしてストリーミングや動画共有サイトへと変化していきました。

多くのレコード製造(プレス)工場が操業時間の短縮または休業・廃業となり、レコード製造のノウハウも一旦止まることとなりました。また、カッティング技術についても跡を継ぐ人が少なくなり、レコードというメディア・文化にとって最も辛い時期だったことでしょう。

ところがレコードはその後不思議なことに、かつてのような大量生産品としてではなく、好事家向けのニッチなメディアとして、徐々に復権を果たしてきました。現在では多くの新譜がLPフォーマットでも販売され、また過去の名盤のLP復刻も盛んです。

そんな中、別の文脈から、再び射出成形に脚光があたったのが、2016年11月 でした。

1995年設立、オランダの Symcon 社は、CD や DVD など光学ディスク製造用の原材料や製造パーツの会社ですが、レコード復権に伴い、EU からの助成金を受け研究開発したのが、環境に優しく製造時のエネルギー効率をあげた、射出成形LPレコード製造方法です。

最初に報じたのは Discogs が Symcon 社に行ったインタビュー記事「Injection Moulded Records – Vinyl Of The Future?」だったようです。

その直後、さまざまなメディアでも話題となりました。

当時の Symcon 社の研究開発目的は、以下のように要約されます。

  • 圧縮成形のように蒸気を使わないため、レコード製造時のエネルギー効率を大幅に改善できる
  • スタンパーへの負担が圧縮成形より低くなるため、スタンパーの耐用回数を伸ばせる
  • 1枚製造あたりの時間も短縮でき、製造効率をあげられる余地がある
  • プレス後にトリミングする必要がないため、原材料の無駄を省ける
  • 機器のメンテナンス性の向上により、ターンアラウンドタイム(実際にレコードが店舗に並ぶまでの期間)を短縮可能
  • 従来の圧縮成形ヴァイナル盤よりも再生品質を向上させられる可能性がある

この2016年時点では、新製造方式に適した、品質と音質に貢献する原材料がまだ確定しておらず、カラーヴァイナルにするための方法も調査中、という段階でした。

2021: Green Vinyl Records、世界初の射出成形PET盤を生産

その Symcon 社が、2021年9月21日に子会社として Green Vinyl Records というレコードプレス工場を設立、これはオランダの8社による合同プロジェクトでした。社名からわかるように、環境に配慮した新時代のレコードを目指している、ということなのでしょう。

また、Green Vinyl Records 自体が GVR Sound レーベルを立ち上げました。さらに、このレーベルを筆頭に、2021年暮れに Green Vinyl Records 工場でプレスされた LP の出荷が次々に始まりました。

1950年代中頃にお目見えした射出成形LP盤から70年近くたって、ついに、新技術・新時代の射出成形LPが登場したのです。

Discogs 上では、2021年リリース、Green Vinyl Plastic プレスの LP が、11タイトル掲載されています。

Go Green Records / GVR Sound 0001 (PET)

source: Discogs entry.
Teenage Gizzard / King Gizzard And The Lizard Wizard
King Gizzard And The Lizard Wizard (Go Green Records / GVR Sound 0001, 2021)
Green Vinyl Records プレス工場で製造された恐らく最初のタイトル、オーストラリアのサイケロックバンドのアルバム
これはピンク盤だが、グリーン盤も同時リリース

これらの LP には、Green Vinyl Records プレスのレコードの特徴が以下のように記されたステッカーが貼られています。

  • 限定生産 180g グリーン エコフレンドリー素材 100%リサイクル可能な12インチレコード
    • PVC (ポリ塩化ビニル) 、フタル酸エステル(可塑剤)を一切含まない素材
    • 従来のヴァイナル盤プレスと比べてCO2排出量を95%削減
    • 400回以上再生しても変わらない実証済の品質
    • 科学的な測定結果が優れたオーディオ品質を証明
    • 100%リサイクル紙に植物性インクで印刷したLPジャケット
Go Green Records 0001 (PET)

source: Discogs entry.
Go Green Records 0001 (グリーン) のインナースリーブに加貼されたステッカー

そして、Green Vinyl Records がポリ塩化ビニルの代わりに使用したのが、ポリエチレンテレフタート、すなわち PET であることが明らかとなりました。

Green Vinyl Records が使用している、オランダの産業用混合機専門メーカ Movacolor B.V. のサイトでは、なぜ Green Vinyl Records が PET を最終的に選択したか、について紹介するパラグラフがあります。

かつての射出成形スチレン盤の時のような「コストをかけず廉価に大量生産するため」が動機ではなく、やはり、時代を反映した「環境に配慮した持続可能な取り組みで、レコードという文化も持続可能にする」という動機であることがみてとれます。

Diving deeper into the traditional way of LP production, Harm also found that PVC has several limitations regarding sustainability and circularity.

LPの伝統的な生産方法をさらに詳しく調べた結果、(Symcon 社オーナーの)Harm Theunisse 氏が発見したのは、PVC(ポリ塩化ビニル)には持続可能性と循環性においていくつか制限があることであった。

Although PVC is a versatile material, it is associated with negative environmental effects due to the presence of toxic substances. Moreover, PVC is not highly conducive to recycling. Therefore, in an effort to address these concerns, Harm decided to find a more environmentally friendly alternative to PVC and eventually settled on virgin and recycled PET.

PVCは多用途の素材であるが、有害物質が含まれているため、環境に悪影響を及ぼす。さらに PVC はリサイクルにはあまり適していない。そのため、これらの懸念に対応すべく、PVC よりも環境に優しい代替品を探すことを決定し、最終的にバージン(未使用)PET とリサイクル PET に落ち着いた。

PET, unlike PVC, offers certain advantages in terms of environmental impact and recyclability. PET is easier to handle and has a higher recycling rate. It is considered more environmentally friendly due to its recyclability and the availability of recycling infrastructure for PET products. By opting for virgin and recycled PET, Harm aims to reduce the environmental footprint associated with the production and disposal of LP records.

PET は PVC と異なり、環境への影響とリサイクル性の点で一定の利点がある。PET は取り扱いが容易であり、リサイクル率も高くなっている。このリサイクル性の高さ、そして PET 製品用のリサイクルインフラが利用できることから、(従来の PVC レコードに対して)より環境にやさしいと考えられている。Harm 氏は、バージン PET とリサイクル PET を選択することで、LP レコードの製造と廃棄に伴う環境への影響を削減することを目指している。

A Sustainable Solution in the Vinyl Industry”, MOVACOLOR

そして、原材料である PET をさまざまな色に均一に着色する際の問題を解決するために Movacolor 社と協力し、カスタムのプラスチック着色添加剤投入装置を開発し、カラーPETレコードの実用化に成功したとのことです。

2023: 独 Sonopress 社、射出成形PET盤「EcoRecord」の生産開始

その2年後、今度は1957年創業のドイツのプレス会社で 1992年からは CD / DVD プレス会社として稼働していた Sonopress 社が2023年にレコードプレス事業再開を発表しました。エコフレンドリーを謳った「EcoRecord」ブランドのもと、やはり射出成形PET盤の製造を開始しました。

世界初の EcoRecord として選ばれたのは、オアシスの Liam Gallagher、ストーンローゼズの John Squire の連名アルバム「Liam Gallagher and John Squire」のうち、Amazon 限定で販売されたドイツプレスのオレンジLP盤 (Warner Brecords 5054197893964, 2024) でした。

Warner Records 5054197893964 (PET)

Liam Gallagher & John Squire (Warner Records 5054197893964, PET, Orange)
from my own collection
Sonopress でプレスされた射出成形PET盤「EcoRecord」の第1弾リリース

その後、2024年8月に、著名な評論家 Michael Fremer 氏が EcoRecord を取り上げた記事を掲載したことで、一気に知名度があがることとなります。

Abbey Road Studios の錚々たるエンジニア、Lucy LaunderGeoff Pesche、そして Miles Showell の3氏が、Sonopress 社の工場を訪問した、というプレス記事も話題になりました。

2022〜: EU、PVC を「有害な化学物質リスト」に追加、段階的禁止へ

Green Vinyl Records や EcoRecord のこういった取り組みの背景には、EU で PVC 禁止の動きが出ていることが大きな要因として考えられます。

2022年1月、EU が「The use of PVC (poly vinyl chloride) in the context of a non-toxic environment」(非毒性環境におけるポリ塩化ビニルの使用)というレポートを公開しました。

ポリ塩化ビニル (PVC) およびそこで使用されている各種添加剤が、環境および人体に悪影響を及ぼす、として、EU での流通を禁止すべきという流れが始まりました。そして2022年4月には「Restrictions Roadmap for chemical sustainability」(化学物質の持続可能性に関する規制ロードマップ)を発表、そのなかに PVC および添加剤が含まれました。

そして「ポリ塩化ビニルを2030年までに段階的廃止すべき」という意見が、多くの NGO から出されています。

2023年11月には、EHCA (欧州化学物質庁) が、PVC および添加剤の中から、環境および人体への有害性を持つ一部物質を特定した、とレポートを公開、規制措置が必要、としています。

これに呼応して、リサイクル率向上などにより PVC 開発の持続可能性を向上させるため、欧州の PVC 業界によって VinylPlus というプログラムを進めています。現在、2024年の進捗レポート が公開されています。

このような大きな動きがあるため、ヴァイナルに比べて環境負担の少ないとされ、同時にリサイクルのインフラがすでに存在する PET を使い、圧縮成形に比べて製造時のエネルギー効率や環境負荷に優れるとされる射出成形法でレコードを製造する、2010年代からそのような方法論と技術に改めて注目が集まった、と考えられます。

今すぐなんらかの手を打たなければ、せっかく復権してきた「レコードという文化」が持続できない恐れがある、それが圧縮成形PET盤を生んだということなのでしょう。

レコードの製造方法、および原材料の歴史変遷を学ぶ、が今回の発端だったわけですが、ここにきてサステナビリティの話につながるとは、少々意外でした。

「自分は新譜には興味がないから関係ない」「ヴィンテージ盤しか集めてないからどうでもいい」などという方もいらっしゃるかもしれません。しかし、新譜・旧譜を問わず、同じレコードというメディアとその歴史、メディアに刻まれた音楽を愛する者として、この問題を無視することはできない、少なくともこんな状況になっていることを知っておくべきである、ということは間違いないでしょう。

そういったことを再認識する、良い機会にはなりました。

さて、最終回となる次回は、今回の一連の記事のきっかけとなった、圧縮成形スチレン盤と思われる Mercury の3本線マーク入りレコードにまつわるあれこれについて書く予定です。

続編は後日公開です / The sequel will be published shortly

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