3部作ドキュメンタリ「The Beatles: Get Back」はたくさんの発見があって楽しかったですね。かつて中学生〜大学生時代に海賊版レコードを買いまくり聴き込みまくりノートに勝手分析してた(笑)元マニアとしても、Get Back 時代のアングラ音源には大変お世話になったクチです。21世紀に入ってからも、例のCD83枚分の音源「A/B Road」を必死に聴き通した(笑)のも懐かしいです。
その映画のことや、ビートルズの音楽については、いろんなところでディープに分析されていますので、ここでは特に何も書きません。
代わりにここでは、イギリスの音楽雑誌 MOJO Magazine 2021年11月号(9月発行)に付属していたCDについて。
MOJO Magazine、毎月いろんなコンピレーションCDが付属してきて、ものすごくよく編集されてるのもあれば、たまにはテキトーな奴もあったり、玉石混合ではありますが、今回の Get Back にあわせた特集号では、食傷気味なほど世に溢れるビートルズカバーアルバムや編集盤の中でも、なかなか新鮮な体験ができるコンピレーションになっていました。
端的に言うと、ビートルズの原曲が持つ、いろんなジャンルからの影響、その影響を、極限までデフォルメすることによって、今まで「ビートルズ」としてしか聴いてなかった曲の中に秘められている、隠れた可能性を引き出す楽曲が少なくない、ということです。
もちろん、カジュアルなお手軽カヴァーっぽいのもありますけど。リチャード・トンプソン (Richard Thompson) の「It Won’t Be Long」とかはそうですね。ジュディ・コリンズ (Judy Collins) の「Golden Slumbers」もそっち方向。
CDの最後に収録されているジョシュア・レッドマン (Joshua Redman) の「Let It Be」もそっち方面ですよね。だいたい想像できる仕上がり。
一方、デーモン・アンド・ナオミ (Damon and Naomi) の「While My Guitar Gently Weeps」などは、エリック・クラプトンの渾身のギターの後ろに隠れた、ふわっとしたドリーミーさのデフォルメが、21世紀の今にぴったりくるアレンジです。ジョージ本人のアコギのデモ録音とも違う雰囲気を醸し出しています。
タックヘッド (Tackhead) の「Don’t Let Me Down」も、当時から原曲でもモヤっと感じられた、あのスカっぽさアーリーレゲエっぽさ、そこを全面にぐっと出しつつ音響的な21世紀型R&Bに仕立て上げられています。
ベティ・ラヴェット (Bettye LaVette) の「The Word」も、1965年の4人が憧れていたであろう(けど当時はあからさまには表現していなかった)ソウルフルなグルーヴを、本家本元らしく拡張しています。それでいて、無理矢理のこじつけ感がなく、原曲の「The Word」の魅力がきちんと継承されているのが見事です。
個人的にかなりツボったのが、メルヴィンズ (Melvins) の「I Want To Hold Your Hand」。あの曲が、ヘヴィメタルっぽくグランジっぽく大変身。ところが、原曲のキャッチーさがちゃんと良さとして残ってる。もしかしたら、1963〜1964年当時の一般のリスナー(特に白人層)にとって、「抱きしめたい」はこんな風に聴こえていたんではないか、という再現のようにも感じられ、とても興味深く聴き込んでしまいます。
あと、はずせないのが、シー&ヒム (She & Him) の「I Should Have Known Better」。そうなんですよ、あの原曲のメロディ、どこかハワイアンっぽい響きがあるよなぁ、とみんな無意識に気づいていたところを、ハワイアンなアレンジでデフォルメし、かつ珠玉のポップスに仕上がっているという、素晴らしいカヴァーだと思いました。
Spotify のプレイリストにされている方がいたので、以下に貼り付けておきます(10曲目の Long Long Long / Jim James のみ未収録)。いやー、今回の MOJO 付属CDは、かなり当たりだったんじゃないかなぁ。個人的にはいろんな発見がありました。