bassclef さん のところの 「Jazz On The Bounce (bel canto)」 というエントリ。ここのコメントで、SP、10インチLP、12インチLP、シングル盤、EP などの価格についての話題がありました。
何年か前に、たまたま古いカタログパンフレット (いろんな時期のいろんなレーベルのミックス) をロットで買う機会がありまして、bassclef さんのところに書いたのも、それらを一部参考にしました。せっかくなので、なにかの参考になればと思い、何回かに分けて紹介してみようと思います。
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MODERN MUSIC PRICE LIST (1956?)
私が入手したロットに同封されていた、タイプ打ちされたレターサイズの書面。どうやら、それらカタログの元オーナーは、ミズーリ州セントルイスの「Modern Music」というディーラーからレコードカタログを取り寄せたようです。その書面には「いろんなカタログを同封するので、追加質問や発注はどうぞお気軽に。我々はジャズのスペシャリストです」といった文章が添えられています。また、発注用のシート、更に「今から60日間だけの限定プライス、エマーシー10インチLPがどれでも $1.49」といった文面もありました。いいなあ、$1.49 で新品が買えた時代 (笑) もちろん物価は今とは全然違いますけどね。
で、その1ページが、そのディーラーで扱うレコードの価格表にあてられています。
- 12 インチ LP $3.98
- 10 インチ LP $2.98
- EP 1枚 $1.49
- EP 2枚組 $2.98
- EP 3枚組 $3.98
というのが、メジャー/セミメジャーレーベル (Victor, Columbia, MGM, Mercury etc.) および大抵のジャズレーベル (Clef, EmArcy, Fantasy, Gene Norman, Norgran, Pacific Jazz, Roost, Storyville, Tampa) での価格だそうです。
その他別料金のレーベルは以下の通り。
- Atlantic, Bethlehem, Savoy
- 12 インチ LP $4.95
- 10 インチ LP $3.95
- EP 1枚 $1.58
- Contemporary
- 12 インチ LP $4.85
- 10 インチ LP $3.00
- EP 1枚 $1.47
- EP 2枚組 $2.94
泣く子も黙るブルーノート、リヴァーサイド、プレスティッジが一切触れられていないのはなぜ? よくわかりませんが、このディーラーでは、御三家の扱いはしていなかったようです。
この書面そのものは、書かれているいろいろな情報から判断して、1956年頃 に作成されたものと思われます。エマーシー10インチLPが叩き売りにあっていること (笑)、あるいはクレフやノーグランは書かれているのにヴァーブがまだ登場していないことなどがその判断材料です。
ADS ON DOWN BEAT MAGAZINE (Jan. 26, 1956)
こちらはお馴染み Down Beat 誌 1956年1月25日号の20ページに掲載されている Modern Music の広告です。ノーグラン、クレフ、デビュー、ベスレヘム、コンテンポラリー、コンサートホール、エピックなどのセレクションが記されています。一番上の「SPECIAL 12" DEBUT 3rd ANNIVERSARY LP ONLY FOR $1.98」というのがそそりますね (笑) これは「Autobiography In Jazz (Debut DEB-198)」のことでしょう。確かに、レコードコレクターズ誌 1-3号 (1982年8月発行) の「デビュー・レコードの全貌」 (Manek Daver、西島経雄・訳) という記事の中でも、このアルバムが特別廉価盤 $1.98 として3周年記念にリリースされた (そしてこれがデビューレーベル最後のリリースとなった) と記されています。デビューレーベルのスタートは 1951年とのことですので、本アルバムのリリースは 1954年。それが 1956年のダウンビート誌上の広告に載っているということは、当時あまり売れなかったんでしょうかね。
その広告と同じページに載っていたのがリヴァーサイドレーベルの広告。同レーベル最初の12インチLPリリースとなる「Thelonious Monk Plays Duke Ellington (Riverside RLP 12-201)」、更に下には「Get Happy With The Randy Weston Trio (Riverside RLP 12-203)」と「Mundell Lowe Quartet (Riverside RLP 12-204)」の広告も掲載されています。価格は $4.98 とのこと。なお、リヴァーサイドレーベルのカタログも手元にありますので、次回あるいは次々回あたりに紹介する予定です。
BETHLEHEM RECORDS CATALOG (1956)
さて、ここからが本題のカタログです。まずは Bethlehem (ベスレヘム or ベツレヘム) のものから。1956年版のカタログです。横14cm、縦21.5cm の三つ折りタイプで、表紙込みで全6ページとなっています。
三つ折りを開くと中はこんな感じになっていて、EP ($1.58) は 101-A / 101-B (Chris Connor Sings Lullabys Of Birdland) から 127 (Herbie Mann Quartet Vol.2) まで (114 は未掲載)、12インチLP ($4.95) は BCP-12 (Don Elliott) から BCP-35 (Bobby Troup Vol.II) まで (なぜか BCP-11 およびそれ以前は未掲載)、10インチLP ($3.85) は BCP-1001 (Chris Conner Sings Lullabys Of Birdland) から BCP-1040 (Russ Garcia) まで (BCP-1020 は未掲載) がリストアップされています。
残念ながら、SP およびシングル盤は一切掲載されていませんでした。
FANTASY RECORDS CATALOG (Jul. 1955)
続いては Fantasy (ファンタジー) レーベルの 1955年7月版のカタログです。ベスレヘムのものより細めの横9.8cm、縦21.6cm の三つ折りタイプで、これも表紙込みで全6ページとなっています。
中はこんな感じで、10インチLP、12インチLP、EP、シングルがずらずらっとリストアップされています。10インチLP は LP 3-1 (The Dave Brubeck Trio) から LP 3-21 (Desmond) まで (LP 3-19 は12インチのためスキップ)、12インチLP は LP 3-19 (Red Norvo Trio) および LP 3-201 (Herdsmen Plays Paris) から LP 3-205 (Dave Brubeck Trio) まで、EP は EP 4001 (The Dave Brubeck Trio) から EP 4040 (Mambo With Tjader) まで (EP 4024、EP 4025 は未掲載)、2枚組 EP は EP 2-800 (Desmond) から EP 2-803 (Dave Brubeck Quartet) まで、SP および同内容の 45回転 シングル盤 は 501 (You Stepped Out Of A Dream c/w Lullaby In Rhythm / The Dave Brubeck Trio) から 537 (Chloe c/w Lucero / Cal Tjader Quintet) までが掲載されています。
なお、45回転シングルについては 537 に対して 537X-45 といった型番が用意されていたようで、1955年7月号である本カタログにおいては、501X-45〜504X-45、517X-45〜527X-45、530X-45〜537X-45 が掲載されています。つまり 505〜516、528〜529 については、この時点では SP しかリリースされていなかったということのようです。
価格については一切触れられていませんが、本記事冒頭のプライスリストを参照すると、12インチLP が $3.98、10インチLPが $2.98、EP 1枚が $1.49、EP 2枚組が $2.98 ということになりそうです。
PACIFIC JAZZ RECORDS CATALOG (Spring 1956)
今回最後のものは Pacific Jazz (パシフィック・ジャズ) レーベルの 1956年春版のカタログです。ファンタジーのものとほぼ同じサイズ、横9.6cm、縦21.4cm の四つ折りタイプで、表紙込みで全8ページとなっています。
こちらもバラエティ豊かなラインアップで、12インチLP ($3.98) が JWC-500 (Jazz West Coast) および PJ-1201 (California Concerts) から PJ-1213 (Bud Shank And 3 Trombones) まで、10インチLP ($2.98) が PJL-1 (The Gerry Mulligan Quartet) から PJL-20 (Bud Shank And Bob Brookmeyer With Strings) まで、更に Pacifica 801 (Johnny Holiday Sings Featuring Bud Shank) と Pacifica 802 (Kitty White Sings Featuring Corky Hale) も。EP ($1.47) は EP4-1 (Gerry Mulligan Quartet) から EP4-43 (Cy Touff Octet And Quintet) まで (EP4-26 は未掲載)、EP 2枚組セット ($2.94、「Two-Pocket Albums」と書かれています) は EP4-7 (Gerry Mulligan Quartet)、EP4-10 (Laurindo Almeida Quartet Featuring Bud Shank)、EP4-15 (Chet Baker Ensemble)、EP4-16 (Chet Baker Sings) といったラインアップで、SP および同内容の 45回転 シングル盤 ($0.89) は 601 / 45-601 (Bernie’s Tune c/w Lullaby Of The Leaves / Gerry Mulligan Quartet) から 45-629 (My New Jet Plane c/w Swing Easy / Steve White Quartet) まで (603, 604, 606〜609、611〜613 は未掲載) となっています。
なお、先ほどのファンタジーとは逆に、こちらでは SP は 627 までとなっており、45-628 と 45-629 については 45回転シングルのみがリストアップされています。やはりこの 1955年〜1956年頃というのが、各レーベルが SP の新規リリースをフェードアウトさせていった時期ということですね。
» . . . 「Old Record Catalogues, Pt.2」に続く . . . »
この手の資料は貴重ですね。
新情報はと思って手持ちをチェックしてみました。
Fantasy のSP は全37枚ですね。うち504 と505 はCoronet の再発なので、実際は35枚でしょうか。
私の手持ちは22枚でした。
Pacific Jazz のSP、手持ちは16枚でした。
両方とも新情報はありませんでした。
両レーベルとも、音は最高ですね。SP で聴くとLP は、と言いたくなりますね。
次回も期待しています。
これは凄い!
楽しい!
カタログパンフレット をロットで買うだなんて!
図版がどれも素晴らしくて、いい紙にプリントアウトして額窓しようかと思うほどです。
パシフィックのが個人的には特にいいですねェ。
次回が待ち遠しいです。
おおっ!shaolinさん、これは凄い!・・・やはりshaolinさん・・・こういうのをお持ちだったんですね。拙ブログのコメントやり取りでのお願い・・・素早い反応をしていただいて、ありがとうございます!
瀬谷さん~初めまして。こちらはSP盤には無知ですが、瀬谷さんの素晴らしいHPを覗かせてもらってます。
mono-monoさん、こんばんわ。
どの資料も興味深いですね。FantasyのEP盤とdouble extended play(2EPセット)辺りのリスト、面白いですね。
NOTさんが拙ブログ・コメントで指摘されたように、確かにEPセットというのはその点数が少ないようですね。このリストで見ると・・・どうやら10インチ盤で人気のあったものだけセレクトしてEP Album化していたのかもしれませんね。
ちなみに、pacificではTwo-Pocket Albumsと呼んでいたらしいですね。このあたりのまだ不統一な感じ・・・各社とも、SPフォームからの移行を手探り状態で図っていたんでしょうね。
このModern Musicというディーラーさんでは、Emercyの10インチを約半額にしていたり・・・(笑)興味は尽きません。
shaolinさん、素晴らしいものを見せていただき、ありがとうございました。まだ出そうですね(笑)よろしくお願いしますね(笑)
瀬谷さん:
Fantasy、Pacific Jazz 共に、まだ SP は 1枚も持ってません。
いつか買って聴いてみたいです。特に Pacific Jazz は…
mono-mono さん:
確かに Pacific Jazz のは表紙のデザインがいいですね。
こういうパンフレットに限らず、その時代らしいデザイントレンドがみてとれて楽しいです。
いろんな情報が読み取れる資料としても有効ですし。
bassclef さん:
> NOTさんが拙ブログ・コメントで指摘されたように、
> 確かにEPセットというのはその点数が少ないようですね。
さすがに 1950年代中盤ともなると、ジャケ付 EP としてリリースされた盤は少なくなってきていたみたいですね。当初は EP アルバムが少なからずリリースされていたみたいですが…
> 各社とも、SPフォームからの移行を手探り状態で図っていたんでしょうね。
こういうカタログ類は、音楽そのものとは直接は関係ないのかも知れませんが、音楽をリスナーに届ける役目を果たしていたレコードというメディアの文化史(?)的側面がいろいろ読み解けたりして、非常に興味深いですね。