(this article deals with my favourite Isleys album, “Brother, Brother, Brother”. English version of this article (probably) will not be available.)
私が Isley Brothers を初めて聴いたのは、15年ほど前に購入した “It’s Our Thing” (T-Neck / Buddah TNS-3001) でのこと。1969年当時、文句なしの全盛期を迎え黒人音楽の分野では完全に最先端を走っていた James Brown からの影響が濃厚な力強いファンクで溢れた、彼らののちの活躍を考えるとマイルストーン的なアルバムといえます。続く “The Brothers: Isley” (T-Neck / Buddah TNS-3002) や “Get Into Something” (T-Neck / Buddah TNS-3006) もグルーヴ溢れる力強いファンク系の作品として、聴き所満載です。この辺りでは今では最後の “Get Into Something” が一番好みです。 前作、前々作よりぐっとタイトで切れ味抜群なリズムセクションが曲によってセカンドラインを聴かせたり、なかなか面白い。
その後私は、最初期の “Shout”、“Twist And Shout” までさかのぼったり、セールス的に絶頂だった 3+3 時代のネチネチファンクととろけるバラードまで、ひととおり楽しむ様になりましたが、現在最も良くターンテーブルに載る機会が多いのは、過渡期とされる 1972年にリリースされた本アルバムです。
1973年以降の T-Neck / CBS 時代、3+3 編成となった Isleys 全盛期を支えているのは、ゴスペルやソウルといった黒人音楽的なテイストと、ロックやポップスといった白人音楽的なフィーリングの、絶妙なブレンド具合にあると思います。その意味で、本アルバム、及びひとつ前のアルバム “Givin’ It Back” (T-Neck / Buddah TNS-3008) あたりが、彼らのひとつの大きな転換期であったことは間違いありません。特に “Givin’ It Back” は全編カヴァー曲で構成されており、“Ohio” (Neil Young / CSNY)、“Machine Gun” (Jimi Hendrix)、“Fire And Rain” (James Taylor)、“Lay Lady Lay” (Bob Dylan) と縦横無尽に料理する A面の流れは実に見事ですし、B面最後の素晴らしいカヴァー “Love The One You’re With” (Steven Stills) も強く印象に残る出来です。
それに続く 1972年リリースの本アルバムでは、前作のムードを更に推し進め、オリジナル曲とカヴァー曲を絶妙に並べた、それでいて実に統一感ある構成となっています。 例えば、Marvin Gaye の “What’s Goin’ On” にインスパイアされて作ったと言われる Carol King の “Brother, Brother”。黒人が黒人に訴えるメッセージソングからエッセンスとインスピレーションを授かって白人女性ミュージシャンが作った曲を、黒人グループが演奏する。1970年代前半のあの空気の中、より広いリスナー層に向けてうってでようとする意気込みが感じられます。もちろん、単なるカヴァーではなく、彼ららしい流れる様にコクを感じさせられる極上の演奏と歌唱です (まだ後年とは違い、少しリズムに揺れが感じられますが)。
この曲で幕を明ける A面は特に圧倒的です。続く A-2 は Jackie De Shannon の名曲 “Put A Little Love In Your Heart” のカヴァー。これも転がるように軽やかなアレンジメントのもと、Ronald Isley の歌唱が光ります。A-3 では再び Carol King の “Sweet Seasons” のカヴァーと、それとメドレーになって自作の “Keep On Walkin’” と続きます。ここから A面は自作曲が続き、大名曲の A-4 “Work To Do” で打ちのめされます。この時代の Isleys を代表するといってもいい、軽やかでかつ説得力のある素晴らしいトラックです。やや黒っぽいリズムでファンキーな A-5 “Pop That Thing” でチェンジオブペースをはかり、A面最後は、ポップなファンク、という形容がふさわしい “Lay Away” で締められる。
B面は長尺ナンバー2曲で構成されています。特に素晴らしいのが10分を超える B-1 “It’s Too Late”。言うまでもなく、Carol King のカヴァーですが、まるで別の楽曲であるかの様にテンポとアレンジが絶妙に設定され、Ronald のソウルフルで非常に説得力のある歌唱、そしてジミヘンフォロアー Ernie Isley の見事なギターが炸裂する名演です。そして B-2 の自作 “Love Put Me On The Corner”。印象的なピアノのイントロに始まり、やや重い雰囲気の、しかし音のすきまを有効活用したアレンジで静かに歌い出し、中盤の素晴らしい盛り上がりへともっていき、水面の波が消えていくかの様に静かに終わる。ジャンルの枠を越えた名演、名唱。
手元にあるのは、両面手書きで「2」(更にその下に小さな点が 3つ書き込まれている) の枝番がある盤。まぁファーストプレスではないと思います。最内周でほんの少し歪んだ感じになる以外は、全体的に良好な音質です。しかし、10年ほど前にリイシューされた CD の方が、迫力のある音質でより楽しめる様に思います。LP の方は、レンジを欲張らずに「あの時代の」音となる様、イコライザーやコンプレッサーが適切かつ的確に使用されており、もっと安心して聴ける「1972年のおと」です。
A-1: Brother, Brother
A-2: Put A Little Love In Your Heart
A-3: Medley: Sweet Season – Keep On Walkin’
A-4: Work To Do
A-5: Pop That Thing
A-6: Lay Away
B-1: It’s Too Late
B-2: Love Put Me On The Corner
O’Kelly Isley (vo), Rudolph Isley (vo), Ronald Isley (vo),
Ernie Isley (g, el-g, maracas), Marvin Isley (el-b, woodblock), Chris Jasper (p, tambourine),
Truman Thomas (org except A-6), Milton Westley (org on A-6),
Karl Potter (congas except A-6), George Patterson (congas on A-6),
George Moreland (ds).
Produced, arranged and conducted by R. Isley, O. Isley and R. Isley.
Engineered by Michael Delugg, Media Sound Recording Studios.