Tijuana Moods / Charlie Mingus

アンプの修理が終わったとメールで連絡がありました。金曜日に取りに行く予定です。あぁ長かった。

 

さて 前回 載せた 6枚の中に チャールズ・ミンガス (Charles Mingus) の「ティファナ・ムーズ」(“Tijuana Moods”) も入っていました。ベーシストとして、作曲家として、アレンジャーとして、つまり Mingus の多岐に渡る要素がバランス良くフィーチャーされた、初期の名作といえます。

On my previous post, there are six labels (78rpms, 45rpms and LPs) being featured. They include the LP “Tijuana Moods” by Charles Mingus, one of his masterpiece albums in his early period, featuring his every versatile artistry such as a great bass player, a talented composer, and a superb arranger.

 

アンプが返ってくるまでは、2001年に BMG からリリースされた 2枚組 CD を聴いています。この CD は未発表のフラグメントもテンコ盛りで、文字通り本アルバムの決定版となっています。しかし、この CD を隅々まで聴けば聴く程、“Tijuana Moods” というアルバムに対するいくつかの謎が解明されると同時に、更なる謎は深まるばかり。

Since my tube amplifier is in trouble and is under repair, the only equipment for me at the moment is a PC speaker, and I enjoy listening (although the sound quality is way poor) to the 2CD edition of “Tijuana Moods”, which was released in 2001 by BMG. This definitive 2CD version contains many bonus tracks, most of which are previously-unreleased fragments of the recording. And more devotedly I listen to the CD, the more questions arise in my head, while on the other hand this CD edition also reveals the answers to the mysteries of the album.

(. . . the rest of the English edition of this article will hopefully be available in the near future . . .)

 
[Tijuana Moods]

First Editions: Tijuana Moods / Charlie (Charles) Mingus
(BMG/Bluebird [US] 09026-63840-2)

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Why this album was kept unissued for five years?

このアルバムのオリジナルは 1962年にリリースされたものですが、ご存じの通り録音自体はその 5年前、1957年に行われています。リリースがこれだけ遅れた理由について、本 CD のライナーノーツで触れられています。曰く、本来この録音は RCA Victor の傍系レーベルである Vik からリリースされる予定だったが、Vik レーベル自体がすぐにフェードアウトした為、とのことです。また、当時、MingusDebut レーベルは RCA Victor 相手に裁判を起こそうとしていた (Debut と契約していた Thad Jones をレコーディングセッションで使った件について)、という記事が Down Beat 誌に載っているそうですが、これが “Tijuana Moods” リリース遅延の理由ではないだろう、ともライナーに書かれています。

 
[RCA Victor LSP-2533 Front]      [RCA Victor LSP-2533 Back]

Tijuana Moods / Charlie Mingus
(RCA Victor [US] LPM-2533 / LSP-2533)

[RCA Victor LSP-2533 Side-A]      [RCA Victor LSP-2533 Side-B]
 


 

Composing every track by “splicing”

この当時 (1950年代〜1960年代) のジャズ録音においては、いわゆるテープ編集というものは積極的には行われていませんでしたし、一般的にはむしろ、一気に演奏しきったものをアルバムに収録することが好まれていました (それは現在でもそうでしょう)。たまにテープ編集が行われる場合というのは、ほぼ完璧なテイクのごく一部分の (演奏上の) ミスを別のテイクと差し替えたり、エンディング部分を別テイクのものに繋いだり、レコードの収録時間に収まらないので一部をカットする、といったものが多かったと思います。

しかし、ごく一握りのミュージシャンはそうではなかった。積極的にテープ編集を施すことによって、アルバムをより完璧なものにする。つまり、作曲や演奏と同じく、テープ編集もアルバム製作の重要なテクニックとしてとらえていた、ということです。ジャズの録音史において有名なのは、最も初期の例が Lennie Tristano、本格的に導入したのが Miles Davis / Teo Macero でしょうが、Mingus も多くのアルバムでテープ編集を積極的に行っていました。本アルバムにおいても、その典型例が聴かれます。いや正確には、Mingus にとって、ここまで徹底してレコーディング後の編集テクニックを駆使したのは本アルバムが最初かもしれません。 この当時の Mingus も最初から編集することを念頭においてレコーディングセッションを行っていた。本 CD を聴けば、そのカラクリ (の一部) を覗き見ることができます。

 

再びライナーノーツによると、Mingus はレコーディングに入る前に、アルバム収録予定のレパートリーをバンドで何度となくリハーサルしたようです。その上でレコーディングに臨み、業界用語でいわゆる Island-Hopping という手法で次々とフラグメントを録音していきました。つまり、楽曲の先頭から録音を開始し、途中で気に入らない演奏になるとそこでストップし、次のテイクはその続きを録音し . . . という積み重ねで録音を続け、あとでそれらを編集して曲にまとめあげる、というものです。つまり、偶発的なトラブルで一部を編集したとか、レコードの片面収録時間に収まらないので一部をカットしたとか (*1)、そういうものではなく、最初から編集することを念頭に置いて録音を行っていたというのです。実際、そのテープ編集 (スプライシング/オーバーダビング) は Mingus 監督下で1957年の録音直後に行われたそうで、1962年にプロデューサ Brad McCuen がリリース準備をしようとした時には、Mingus が 5年前に完璧に編集し終えたマスターテープを使ったとのことです。

(*1): 冒頭のユーモラスな響きのリフが印象的な小品 B-1 “Tijuana Gift Shop” は、このアルバムにしては珍しく、唯一通しで録音されたトラックです (テイク6) が、それでも中間部のソロ部分がばっさりと編集で落とされています (落とされた部分は、ボーナストラックとして CD 2枚目に収録されています)。この曲だけに限っては、B面の収録時間との兼ね合いでハサミを入れられたのかもしれません。
 

例えば A-2 “Ysabel’s Table Dance”Ysabel Morel のかけ声とハンドクラップ、Frankie Dunlop のカスタネット、そして Mingus のギターの様に演奏されるベース (一部弓) が印象的な、まさに本アルバムを代表する楽曲ですが、この完成版はテイク 3B、テイク4、テイク5、テイク9 を編集して完成されたことが知られています。確かに、2〜3箇所で、明らかにテープを繋いだと分かる様な、やや不自然な箇所がありますが、本 CD ではスプライシングの箇所にインデックスが打たれており (2分25秒、2分30秒、2分33秒、3分32秒、3分52秒、3分53秒、4分30秒、5分17秒、5分39秒、6分5秒、6分53秒、7分39秒、9分47秒、10分21秒)、どれほど緻密にテープ編集が行われていたかが分かるようになっています。単純に 4つのテイクを繋いだどころじゃありません。まさかここまで緻密にフラグメントを構築していたとは!

 

なお本 CD では、別編集テイク (テイク1、テイク3A、テイク9 の合成) の他、未編集の断片 (テイク2、テイク3A/4、テイク7、テイク9) も聴くことができます。

 


 

The Original Song Order

本 CD のライナーノーツにはもうひとつ興味深いことが書かれています。Mingus が当初考えていた曲順は、実際にリリースされた “Tijuana Moods” とは違った可能性があるというのです。確かに、Mingus がオリジナルイシューの裏ジャケに寄せたライナーノーツを読むと、Los Mariachis, Dizzy Moods, Ysabel’s Table Dance, Flamingo, Tijuana Gift Shop という曲順を意図していたようにも読めます。

 

ともあれ、1962年のリリースの際、Brad McCuenMingus とも相談しつつ、最終的な曲順を決定したとのことです。

 


 

“The” Master Tapes?

上で触れた通り、このアルバムは 1957年に録音され、本来ならリアルタイムに Vik レーベルからリリースされるはずだった音源です。ということは、当時のリリースはモノーラルだったことになります。しかし、実際に CD 化されている音源はもちろんステレオです。 それ自体は全く不思議なことではないのですが、ここまで緻密に編集を施すことを念頭に置いたレコーディング。当時の他の録音の様に、ステレオとモノーラルの録音は、別テープが回されていたのでしょうか?

 

私にはどうも違う様に思えてなりません。1957年当時であっても、3チャンネルからダウンミックスしてモノーラル盤のマスターを作ったのではないでしょうか。モノ/ステレオ別々のテープに録音していたとしたら、両方を全く同じように編集するには倍の手間がかかってしまいますよね。また、本アルバムでもオーバーダビングをしている箇所がありますので、そのための便宜を鑑みて 3チャンネルマスターを使って録音した、と考えるのが自然でしょう。

確かに、オリジナル LP や CD で聴けるミックスは、トランペット/トロンボーン/サックスが見事に左右チャンネルに分かれて収録されており、その他の楽器が (オフマイクな残響音を生かした) ややステレオフォニックな感じでセンターに録音されています。つまり、ステレオフォニックな効果を最初から狙っていた録音というよりは、編集やオーバーダビングの容易さのためにマルチチャンネルマスターに録音した、ということではないでしょうか?

 

余談ですが、本アルバムの録音は、ナチュラルな録音が売りの RCA Victor にしては、ややイコライジングされた音の様に聞こえます。初めてオリジナル LP を聴いた時に「あれ?」と不自然に感じたのですが、それは録音から 5年たった1962年のリリースのため、リマスタリングが施されてこの音になったのかも、と思っていました。ところが本 CD を聴いても、やはり音の感触は LP と基本的に同じ。ということは、リード楽器やホーン楽器のこの「つぶれる寸前」っぽい音色を狙って録音したことになります (逆にドラムスやベース、カスタネットなどは比較的ナチュラルに録音されています)。この辺りも謎として残るところです。

そしてもうひとつの謎。どうして決定版たる本 CD にすら未編集テイクがほとんど収録されておらず、フラグメントや編集テイクばかりなのか。これは、Mingus がマスターテープそのものにハサミを入れてスプライシングをしたため、録音直後の状態で残っているテープがほとんどないから、と考えるのが自然だと思われます。

 


 

A-1 : Dizzy Moods
A-2 : Ysabel’s Table Dance

B-1 : Tijuana Gift Shop
B-2 : Los Mariachis
B-3 : Flamingo

Clarence Shaw (tp), Jimmy Knepper (tb), Shafi Hadi (Curtis Porter) (as, ts),
Bill Triglia (p), Charles Mingus (b), Dannie Richmond (ds, perc),
Ysabel Morel (vo, handclaps on A-2), Frankie Dunlop (caastanets on A-2).

Recorded on July 18 and August 6, 1957.
Original Recordings Produced by Bob Rolentz.
Recording Engineer: Bob Simpson.
Remastered for LP Release by Brad McCuen.

 


 
[RCA Victor LSP-2533 Side-A]

(2nd label w/ 4S/1S suffix on matrix)
 

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