左は 1990年前後(?)にリリースされたブート CD (No Label T-2580),
右は今回の CD (Nonesuch 79846-2)
先週,とうとう Brian Wilson Presents Smile がリリースされました (本国版は 9月末リリースだったそうですが). 遅れ馳せながら本日米国版 CD を購入,涙を流しながら聴き入りました.
データの類や,「語られつくされつつある」お馴染みのストーリーはレコードコレクターズ11月号の特集記事などを見れば分かることなので,ここではあまり触れませんが,今まで断片的に公開されてきた Beach Boys の音源 – “Smiley Smile”,“20/20”,“Sunflower”,“Surf’s Up”,“Rarities”,ブート LP 数種,ビデオ “An American Band”,幾多のブート CD,“Good Vibrations” ボックス,1990年代の CD リイシューのボーナストラック,その他いろいろ – や,Domenic Priore 氏の書籍 “Look! Listen! Vibrate! Smile” などを通して,永遠に解けないパズルと格闘するかの様に悶々としてきたファンも多かった “Smile” (多分に洩れず私もそのクチです).それが,ここ最近復調著しい Brian Wilson さん御本人と現在のバックバンド,そして Van Dyke Parks さんなどによって作られたこの新録 “Brian Wilson Presents Smile” によって,一応のピリオドが打たれたというわけです.
この CD で聴ける新録 Smile は,近年のライブ活動を通じて丹念に練り上げられたアレンジをベースにしています.既に Smile ライブ音源もあれこれとブートで出回り出しているようです (未入手.正規で出るまでは買わないとは思いますが…).
見ての通り,ジャケットはかなりしょぼいです (オリジナルで使われるはずだったジャケットも充分にしょぼいですが).けれども,内容は全然しょぼくなかった.これは嬉しい誤算でした. ある意味,これでやっと「万人に文句無く勧められる」作品になってくれたとも言えます.
新録であるけれども,アレンジはオリジナル録音の断片に忠実で,また録音もあの「空気」を見事に再現したもの.足りないところは新たに作詞作曲し,構成も練りに練って,本人の手によってようやく完結した今回の CD.単なるセグメントの羅列ではなく,きちんとトータリティを打ち出した三部の組曲風に仕上っているのは,(それが本来の “Smile” になるはずだったものと同じかどうかはさておき),本人作ならでは.ヴォーカルは残念ながら (当然) あの天使のようなハイトーンが全く出ない現在の Brian さんではありますが,内容の余りの充実ぶりには文句無しに感服しました.1967年に出るはずだった “Smile” そのものではあるはずがありませんが,それに最も近い (あるいはその発展形) ものであることは確かです.
1995年にリリースされるはずだった (けれども Brian さん本人の許可が降りずに日の目をみなかった) “Smile Sessions” ボックスに相当するものは,Brian さんが元気に活動している限り出ることはないでしょう.けれどもあくまで未発表アルバム (になるはずだったものの断片群).ご本人が,37年後にこうやって新録ではあれ一応のおとしまえをつけ,しかもそれが (危惧していた様に「昔の名前で出ています」的なズッコケ新録音になることなく) 実に素晴しい作品になっていることに,何はさておき感謝感激するしかありません.私が 1999年にライブを聴きに行った時には,まだかなり音程も怪しく,懐メロ大会的なライブでしたが,ここ数年でぐんとパワーアップした結果がこのアルバムの充実ぶりに表われています.
今後の活躍に期待せずにはおれません.いや,こんな切札をとうとう切ってしまったのですから,この次のアルバムが本当の正念場になることでしょう.
“Pet Sounds” 同様,「時代の音」から超越しているであろうこのアルバム.今,私が興味があるのは,Brian のことも Smile にまつわるあれこれのことも何も知らないリスナーが,この 2004年に予備知識なしに初めてこのアルバムを「新譜」として聴いてみて,どういう感想をもたれるのだろうか,ということです.
… 「幻」であったが為か,ここ10年程余りにも祭りあげられている感なきにしもあらず,の Smile ではありますが,ここは何も言わず,素直にこの CD を聴き敬礼することにしましょう …