四方山話〜ハイジからラファロまで〜

さてさてお立ち会い。
アルプスの少女ハイジ」と「スコット・ラファロ (Scott LaFaro)」を繋ぐ細く長い線は? (笑)




突然ですが、アルプスの少女ハイジ のサントラを愛聴しています (笑)

[TOCT-9356 Front Cover]

懐かしのミュージッククリップ (1) アルプスの少女ハイジ
(東芝EMI TOCT-9356)

子供の頃にテレビでアニメを観まくって、それでテーマ曲や劇伴BGMが無意識の領域に刷り込まれている、ということもあるのでしょうが、大人になって改めて聴き返しても、本当に細かいところまでよく作り込まれていて、アニメの雰囲気にぴったりくるようなアレンジメントが的確になされているという、本当にお手本の様な劇伴音楽ですね。

テーマ曲よりむしろ劇伴BGMの出来が圧倒的に素晴らしく、「牧場に行けば」の中間部分の16ビートや「上を向いて」 (タイトルから連想されるように、後半部分で「上を向いて歩こう」のメロディのさりげない引用が聴かれます) のドライブ感溢れるドラミングとアレンジなんぞは今聴いても格好良いのひとこと。その他の曲でも、アニメから独立して個々の楽曲として聴いても素晴らしいフラグメントだらけ。

テーマ曲、及び劇伴の作曲者は、あの 渡辺岳夫 さん。 著名なアニメのテーマ曲や劇伴をはじめ、TV ドラマや映画のサントラ/劇伴も驚くほど多数手がけられてきた、この分野の第一人者です。




ハイジから 11PM へ

さて、そのハイジの有名なオープニング曲「おしえて」でヴォーカルをとっているのは あの 伊集加代子 さん。

最近では「ネスカフェ ゴールドブレンド」の CM で知らない人はいないであろう、あのスキャットの主も伊集さんですし、 少し古いところでは 11PM のオープニング曲 のスキャットも伊集さん。ジャズ畑出身で、後にありとあらゆる歌謡曲のバックコーラスで参加された偉大なるスタジオミュージシャン。

ちなみに 11PM のオープニングテーマの作曲は 三保敬太郎 さん。 この方も 守安祥太郎 さんに師事していたという本格的なジャズピアニストで、 のちにドラマや映画、歌謡曲の作曲/編曲で大活躍された方です。

[VPCD-82136 Front Cover]

11PMのテーマ [Maxi]
(バップ VPCD-82136)

私の大好きな音楽家 大野克夫 さん (演奏家としても作曲家としても超一流の仕事ばかり!) も含め、 日本の幾多の歌謡曲、サントラ、劇伴を支えてこられた 偉大なる裏方さん達に改めて乾杯!




11PM から Leon Sash へ

話は少し変わって、先日 Refugee さんちに遊びに行った際 (こちら も参照)、 私がかけたある SP 盤を聴いて Refugee さんがひとこと:

「これって 11PM のテーマ曲みたいですね (苦笑)」

ああ、Meadowlarks のスキャットコーラスってこんな認識になっちゃうのね . . . そう、その時かけてみたのは Leon SashLeon The Lion (EmArcy 16003, 1954年) だったのです。確かに、言われてみればそんな風に聴こえなくもない様な。 Double Six Of ParisSwingle Singers より先に試みられた ブラスアンサンブル的なスキャットコーラス。

[16003 Side-A]      [16003 Side-B]

Package For Peggy c/w Leon The Lion / Leon Sash
(EmArcy 16003)

アコーディオントリオ、プラス、スキャットコーラス、という編成が、 またいかにも「いわゆる Jazz」らしくなくていけなかったのかもしれません。 しかし Leon Sash のアコーディオンには是非耳を傾けて頂きたいものです。 幾多の EmArcy レーベルの録音の最高峰とは決して申しませんが (笑) アコーディオンでここまでバピッシュなフレーズがこんこんと湧いてくる Leon Sash も素晴らしい。

ちなみに、この盤、1954年某月の Down Beat 誌のレビューで、 A面 (Package for Peggy) B面 (Leon The Lion) 共に 五つ星の最高評価。 さすがにそれはどうなんでしょうか…. 担当レビューアーはなんとあの Nat Hentoff というから更に意外です。 しかもそのレビュー内では 「ところで Leon はバブパイプを演奏したことがあるのだろうか。 かねてより、あの楽器をスウィングさせられるミュージシャンは いないものかと考えていたのだ。Leon こそまさにその人物ではないか。」 という謎なコメントまで残しています (笑)

なお、Leon Sash with the Meadowlarks の EmArcy への録音は、 当時 SP として出た 4曲の他に未発表が 7曲あり、これらの集大成が 「Leon Sash – The Master」(Mercury PSPS-1#101) という 限定リリース LP で出されています (1983年リリース)。 疑似ステレオではありますが、 幸い音質的にはまだ許せる範囲内ですし、この盤でしか聴けない曲が 7曲もあるということで、Leon Sash ファンにとっては貴重な1枚です。 特に未発表曲 “Runaway” での、にわかに信じ難い程の超絶技巧には圧倒されます。ここまでくると アコーディオン界の Charlie Parker という形容も決して大袈裟ではない、と言える程。

[PSPS-1#101 Front Cover]      [PSPS-1#101 Side-A]

Leon Sash – The Master
(Mercury PSPS-1#101)

このアルバムのライナーノーツでは、あの George Shearing が、Sash の演奏を耳にして衝撃を受け、アコーディオンを弾くことを断念した、という Down Beat に残した談話が紹介されています。そうそう、Shearing もかつてはアコーディオンを演奏していたんでしたよね。

余談ですが、ジャケットにも書かれている Lee Morgan というのは、あの Lee Morgan とは 全くの別人 で、女性ベーシストです (この録音では、ベースは弾いておらず、ヴォーカルを担当しています)。 のちに Leon Sash と結婚し、Lee Sash という名前になります。




スキャットコーラスがダメでしたか、そうですか。 そんな貴方には 1967年録音のこちらをお勧めしましょう。

[DS-9416 Front Cover]      [DS-9416 Side-A]

I Remember Newport / Leon Sash
(Delmark DS-9416)

トリオ編成で、相変わらずの凄腕でもって、しかしそれをひけらかすことなく、 全体としてはしんみりと聴かせるアルバムです。録音も良い。

アルバムタイトルはもちろん、1957年に Newport Jazz Festival に出演した時のことを 指しているのでしょう。その時のライブ録音で、穐吉敏子さんとのカップリング、Verve から出た 「Toshiko & Leon Sash at Newport」(Verve MGV-8236) は 比較的有名なアルバムですよね。穐吉さんのサイドしか注目されてないと思いますが . . .




Leon Sash から Art van Damme へ

上述の EmArcy 録音でドラムスを担当していたのが Max Mariash。 この人はやはりアコーディオンプレーヤーの Art van Damme バンドの メンバーとして知られています。Leon SashArt van Damme は 親しい友人だった様ですが、プレーヤーとしての知名度は 圧倒的に Art van Damme の方が高かったわけで、なんとも複雑な気持ちです。

Art van Damme さんは、バップ的なイディオムに則りつつも、 Jazz だけにとらわれることなく幅広いジャンルで演奏されてきました。 ですので、ジャズファンのみならず、多くのリスナー層を獲得することができたんでしょうね。 Art van Damme さんの MPS 時代のベストは 現在以下の CD で聴くことができます。

[841 413-2 Front Cover]

State Of Art / Art van Damme
(MPS 841 413-2)



Art van Damme から Jo Stafford へ

その Art van Damme が自己のクインテットを率いて Jo Stafford と組んだアルバムが、有名な「Once Over Lightly」です。

[CL-968 Front Cover]      [CL-968 Side-A]

Once Over Lightly / Jo Stafford
(Columbia CL-968)

アコーディオン、ヴィブラフォン、ギター、ベース、ドラムスという編成で 小粋に歌う Jo Stafford をさらりとバッキングしています。 一応 Jo Stafford がリーダーのアルバムですので、バックの演奏は あまり前面に出ない様なミックスになってはいますが、van Damme の演奏は やはり素晴らしい。Leon Sash みたいにバカテクではないものの、 表現力が優れているというか、的確な音で全体のムードをバックアップしています。

朝にも、昼にも、夜にも聴ける。 リスナーの状態を選ばずに楽しめる、不思議なアルバムでもあります。




Jo Stafford から Tommy Dorsey へ

いわゆる Jazz ファンの皆さんが最も馴染みのある Jo Stafford のアルバムといえば やはり「Jo + Jazz」でしょうかね。

[CS-8361 Front Cover]      [CS-8361 Side-A]

Jo + Jazz (The World On A String) / Jo Stafford
(Columbia CS-8361)

確かにバックの錚々たるミュージシャン (Ben Webster, Johnny Hodges, Don Fagerquist など) の芸達者振りといい、見事な声といい、Jazz らしい雰囲気でいっぱいの名盤でしょう。

まぁしかし、Jo Stafford さんはどちらかというと本来ポピュラーヴォーカル的な 魅力の方が溢れているのも事実です。実際、CapitolColumbiaCorinthian といったレーベルからあれほど大量のアルバムをリリース されている Stafford さんの中で、「これぞ Jazz ヴォーカル」的なアルバムと なると、そんなに多くはありません。

あれですね、いわゆる Jazz ファンの間では、Nat King Cole のアルバムとして 「After Midnight」が選ばれるのと同じリクツなんでしょうね (もちろん私も大好きなアルバムですが)。 Nat Cole の最初期のトリオ録音であったり、ヴォーカルに専念しだしてからのアルバムなんかは、実際のところあまり聴かれていなかったり。

「いわゆる Jazz」ってのが、最近では要するに 1950年代〜1960年代にスタイルとして確立された「あの辺の」サウンドを指すわけですが、それより前、今の様に音楽ジャンルごとにきっちりと分かれているというよりは、ありとあらゆる音楽的ベクトルが混じり合い、いろんなジャンルのミュージシャンが普通に交流していた時代は、あまり顧みられなくなっているんでしょうかね。もしそうだとすると寂しいお話ですが。Jazz 周辺に限っていうと、ちょうど同じ頃に LP 時代に移っていったわけで、あの独特の SP の音 (復刻 LP や CD で聴かれる音) が、敬遠される理由の一つなのかもしれません。

それはさておき、ここではあまのじゃく的に、別のアルバムを選んでみましょう。

[R-6090 Front Cover]      [R-6090 Side-A]

Getting Sentimental Over Tommy Dorsey / Jo Stafford
(Reprise R-6090)

ジャケットが非常に似ていますが、これは「Jo + Jazz」のジャケットと 同一のフォトセッションからとられたんじゃないですかね?

Jo Stafford はもともと Tommy Dorsey オーケストラのコーラスグループ The Pied Pipers 出身で、もちろんあの Frank Sinatra とも Dorsey 時代に 共演しているわけです。この Reprise レーベルから出されたアルバムでは、 Tommy Dorsey バンド時代の懐かしの名曲を Pied Pipers っぽいコーラスをバックに歌っている好内容のアルバムです。 しかも、Nelson RiddleBilly MayBenny Carter と 3人のアレンジャーが 全11曲を分担して担当、その聴き比べも楽しめます。

Riddle アレンジで Jo Stafford が歌う「I’ll Never Smile Again」っていうのも、なんだか不思議な感じもしますが (笑)




Tommy Dorsey から Buddy Morrow へ

その Jo Stafford が在籍したコーラスグループ Pied Pipers や、 Connie Haines, Jack Leonard, Dick Haymes、 そしてもちろん Frank Sinatra といったヴォーカリストを擁し、 Bunny Berigan, Charlie Shavers, Buddy DeFranco, Bud Freeman, Joe Bushkin, Buddy Rich といった錚々たるメンバーが在籍した Tommy Dorsey オーケストラ。 とろける様なアンサンブルから力強く締まったソリへ、転調につぐ転調の見事なアレンジ、 そしてもちろん、全体のムードを決定づけている御大のスウィートなトロンボーンも特筆すべきものがあります。 まさにスウィング時代を代表する白人リーダーのオーケストラに数えられるでしょう。

1956年に Tommy Dorsey が逝去したのち、幾多のミュージシャンが 「Sentimental Gentleman」への敬意を表し、トリビュートアルバムが 多数吹き込まれました。上述の Jo Stafford のアルバムもそういった1枚でしょうし、 Frank Sinatra も 1961年に「I Remember Tommy」 (Reprise R/R9-1003) を残しています。

ここでは若干マイナーかも知れませんが、Tommy Dorsey オーケストラに 在籍していたこともあり、Tommy なきあと Dorsey オーケストラのリーダーとして活躍したトロンボーンプレーヤー・バンドリーダー、Buddy Morrow のアルバムを紹介しましょう。

[MGW-12000 Front Cover]      [MGW-12000 Side-A]

A Salute To The Fabulous Dorseys / Buddy Morrow
(Wing MGW-12000 ⇒ Mercury MG-20204)

1955年録音ですので、TommyJimmy もまだ健在の時に吹き込まれたアルバムです (ジャケットにお二人ともに写ってますね)。 このビッグバンド不況期である 1950年代にあって、Ralph Marterie などと共に 元気いっぱいのビッグバンドサウンドを維持していた Buddy Morrow が、 師匠である Dorsey Brothers に精一杯のトリビュートをしたアルバムで、 「いわゆる Jazz」的スリルは望めませんが、なかなかのゴキゲンな内容のビッグバンドサウンドに仕上がっています。

実はこの約1年後、つまり Tommy Dorsey が亡くなったあとに、 Buddy Morrow は改めて Tommy に捧げるアルバム 「A Tribute To A Sentimental Gentleman / Buddy Morrow」 (Mercury MG-20290) を吹き込んでいますが、残念ながら未入手です。 Sinatra づいている (というよりは Tommy Dorsey づいている、という方が正しいのかもしれません) 私としては、 是非近いうちに入手したいアルバムでもあります。




Buddy Morrow から Scott LaFaro へ

さて、その Buddy Morrow バンドに、あの Scott LaFaro が在籍していたという事実は、一部のマニアには良く知られている事実です。 もちろん、Bill Evans と出会うはるか前の話。 具体的には 1955年秋から 1956年9月まで Buddy Morrow オーケストラに在籍していたそうです。ですので、この時期にレコーディングされたシングルやアルバムでは、Scott LaFaro のベースが聴ける可能性が非常に高いことになります。とはいっても、ほとんどの楽曲ではベースが大フィーチャーされているわけでもなく、特定するのはかなり困難だと思われますが。

私も一部協力した Chuck Ralston さんによる圧巻の Scott LaFaro サイト では Buddy Morrow の「Golden Trombone」(Mercury MG-20221) で LaFaro が ベースを弾いた可能性が高い (他のミュージシャンから裏をとった) と記述されています。 ただ、Ruppli のディスコグラフィーを参照すると、このアルバムも複数のセッションから構成されているため、 そのうち一部だけということも考えられます。

また、「Let’s Have A Dance Party!」 (RCA Camden CAL-381) については、 Scott LaFaro の姉?妹?の Helene LaFaro-Fernandez さんが、 Scott から「このアルバムで僕弾いたんだ」といって LP を渡されたことを覚えている、と書かれています。

この時期の録音で、Chuck Ralston さんのサイトに載っていないアルバムのうち是非聴いて頂きたいのは、「Music For Dancing Feet」です。 このアルバムも 1955年〜1956年の録音なのですが、B面最後の曲「Carioca」で なかなか迫力あるベースが全編フィーチャーされています。 随分前のジャズ批評誌で、岡村融さんもこのアルバムについて触れていましたね。

[MGW-12006 Front Cover]      [MGW-12006 Side-A]

Music For Dancing Feet / Buddy Morrow
(Wing MGW-12006 ⇒ Mercury MG-20210)



というわけでおわり

というわけで、強引に「アルプスの少女ハイジ」と「スコット・ラファロ (Scott LaFaro)」を繋いでみました。かなり無理がある展開でしたね (笑) そもそもこの両者を繋ぐ必然性は特にありませんよね (笑) いや、なんとなく、あれといればこれ、これといえばそれ . . . といって考えていただけのことなんですが。

キーになったのは、11PM と Leon Sash のところ。 Refugee さんのひとことが、今回の四方山話を完成させたといっても過言ではありません。 この場を借りて感謝致します (笑)

2 thoughts on “四方山話〜ハイジからラファロまで〜

  1. あはは。こういうのおもしろいですね~
    日がな一日レコードを聴く機会があるときは、こんな風に、ちょっと繋がりのあるものを次々に聴いていくって、私、よくやります。
    途中、そういえば、このアーティストは他に何かないかな?とネットで調べたりして、あ~これ聴きたいっ!と欲しいものリストに加えられたりとか。
    それにしても、私の一言のところが唯一、力技だと思うんですが(笑)

  2. > それにしても、私の一言のところが唯一、力技だと思うんですが(笑)
    バレましたか (笑)
    要するに Leon Sash の紹介記事だったのですが、それだけだと余りにもマイナーに過ぎて多くの方には ???? だったりするかな、と思って、前後に四方山話を広げてみた、というのが真相でありました。
    個人的には、こういうジャンル横断気味の四方山話が一番好きだったりします (笑) 広く浅く、ところにより深く、というのを信条に…

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