Ray Fowler の傑作? 失敗作?
Monk’s Music / Thelonious Monk
(Riverside [US] RLP-1102)
(stereo 2nd cover, Orpheum turquoise label)
はじめに (愛すべきハッタリステレオとの出会い)
誰もが知ってる Monk’s Music。演奏破綻寸前のカオス状態が逆にえもいわれぬ迫力を生み出しているという、不思議な魅力に満ちた傑作です。1957年 6月 25〜26日録音。
上に載せたのは ステレオ盤 (の後期プレス、いわゆる Orpheum 盤)。大学入学直後、まだジャズを聴きだしたばかりの私が、大阪梅田の某中古レコード屋で確か 1,800円で買ったものです。私が買ったモンクのアルバムとしても 2枚目 (*1) でした。すでにその頃、初心者には嬉しい OJC なる LP リイシューの存在も知っていましたが、ジャケットを見る限り OJC の方はモノーラル。たまたまステレオ盤の中古を安く見付けたのでそちらを買ったというわけです。ですから、私にとっては長らく、“Monk’s Music” といえば、このハチャメチャっぷりが更に増幅された音が楽しめるステレオ盤を意味していました。ステレオ盤に入っていない B面ラストの “Crepuscule with Nellie” も、やはり OJC から出ていたアルバム “Thelonious Monk with John Coltrane” (オリジナルは Jazzland レーベル) で聴けたステレオバージョン (“Monk’s Music” 収録のものとは別テイク) で長らく親しんでいました。 モノーラル盤を初めて聴いたのはその約2年後、確か日本盤 CD だったのですが、そのあまりの録音の違いに愕然としたことを覚えています。
(*1):
私が生まれて初めて買ったモンクのアルバムは、当時 CBS から出ていたディジタルリマスターの編集盤 LP “Standards”。Columbia 時代のソロピアノを中心にまとめあげたものですが、実はこれが私が生まれて初めて買ったジャズのレコード 2枚のうちの 1枚でした。もう 1枚はエバンスの “Alone” のポリドール盤。クラシックピアノを少し前まで習っていた当時の私は、とりあえずピアノを聴けば少しはジャズが分かるかも知れない、と思って、なにも分からないままこの 2枚を買ったのでした。
その後随分たってから、ステレオオリジナル盤 (ジャケット表に金色のシールが貼り付けられたタイプ) も買いましたが、しばらくして売り払ってしまいました。その頃にはもう、このステレオ盤の常軌を逸したミックスのことを、愛情を込めて「ハッタリステレオ」 (疑似ステレオではありません、ハッタリステレオです) と呼んでいましたから。けれども、私にあのハチャメチャセッションの醍醐味を初めて教えてくれた Orpheum ステレオ盤への愛着はたちがたく、そちらは今でもレコードラックに残っているというわけです。
オーディオ的な意味で真に「ステレオフォニック」な素晴らしい録音の LP や CD をいろいろ聴いてきた今、このハッタリステレオ盤が 1957年6月にステレオ録音エンジニア Ray Fowler によって一体全体どうやって作られたのか、冷静に分析してみることにしました。(*2)
(*2):
あ、念の為、私はこのステレオ盤、今でも大好きです。ただし、「素晴らしい」という意味での好きではなくて、「おもしろおかしい」という意味での好きですが。
Continue reading