2024/10/30

How Records Were/Are Manufactured (4)

第1回第2回第3回 に続き、戦後のレコード製造工程や原材料の歴史を改めて調べてみた、そんな記録です。

4回目となる今回は、1954年当時の射出成形 vs 圧縮成形の様子を解説した記事をかわきりに、1950年代末には結局LP盤のほとんどが圧縮成形プレスで製造されていたこと、逆に射出成形スチレン盤は7インチシングル盤として米国で広く普及したこと、その他1960年代のさまざまなエピソードをみていきます。

21世紀の現在、新しい文脈から射出成形12インチLP盤が再登場していますが、当時の技術レベル(や当時のレーベルの経営的思惑)からは、射出成形LP盤は主流になれなかったのだろう、そんな風に思わされました。

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2024/10/30

How Records Were/Are Manufactured (3)

第1回 および 第2回 に続き、戦後のレコード製造工程や原材料の歴史を改めて調べてみた、そんな記録です。

3回目となる今回は、射出成形技術が初めてレコードに使用された1947年から、米巨大レーベルが射出成形に大きな投資を行うことを表明した1950年、さらに1951年〜1953年の朝鮮戦争によるレコード製造原材料不足の時期を、当時の記事などでたどっていくことにします。

当時はありふれた大量生産品であったレコードという製品を作るにあたり、レーベルやプレス工場といった企業にとって、技術面もさることながら、コストに対する意識生産可能速度 が最も重要であった、という至極当たり前のことを、改めて強く認識することとなりました。

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2024/08/30

“Monaural” on Compact Disc Digital Audio

Introduction / 余談からスタート

我が家のオーディオ環境では、2004年に TEAC VRDS-25X の中古を導入するまでは、カーオーディオと兼用していたポータブルCDプレーヤや、タダで譲り受けた LD/CD プレーヤなどで、CD を聴いていました(笑)

In my home audio environment, until I installed a used TEAC VRDS-25X in 2004, I listened to CDs with a portable CD player (which was also used with my car audio system), or with a LD/CD player I got for free 🙂

当時はアナログ再生がメインだったからですが、かといって「アナログマンセー」だったわけではありませんし(笑)、今でもディジタル再生も同じくらい好んでいます。

This was because analog was my main source for listening at the time, but that does not mean that I was an “analog supremacist”, and I still prefer digital playback as much as analog playback.

2012年初頭、(のちに Musical Surroundings MYDAC II として製品化された)DAC のプロトタイプ基板 を開発者の Michael Yee さんにいただいたことをきっかけにして、CD を直接再生することはなくなり、CD をリッピングしたのち PC から DAC 経由で再生するようになりました。ここから我が家での本格的なディジタル再生が始まりました。

In early 2012, Mr. Michael Yee, the developer of the audio components, kindly gave me a prototype DAC board (which later commercialized as Musical Surroundings MYDAC II). After that, I stopped playing CDs directly, and my primary digital audio playback method became “playing digital files (that were ripped from CDs) from PCs via DACs”. This was the beginning of full-fledged digital playback in my home.

以前から CD を購入するたびに、XLD (X Lossless Decoder)Exact Audio Copy を使い、ALAC (Apple Lossless) 形式のディジタルファイルとして SSD や NAS に保存しており、現在はこれを Audirvāna Origin + Music app (旧名 iTunes) から DAC に流し込んで再生しています。

Even since before 2012, I have always used such software as Exact Audio Copy and XLD (X Lossless Decoder) to rip the CDs as digital files in ALAC (Apple Lossless) format on my SSD or NAS. Recentely I always play these audio files using the combination of Audirvāna Origin and Music app (was: iTunes) via the DAC.

System Configuration as of August 25, 2024

2024年8月25日時点での我が家のシステム構成図


Michell Orbe 追加後、特に変更はありません

いまだに Audirvāna Origin を「Music Integrated Mode (legacy)」モードで使っている(Audirvana はあくまでバックエンドで、iTunes/Music をフロントエンドとして使用)のは、取り込み年月日、再生回数、最終再生年月日などのデータを、iTunes/Music から他のアプリに持って行けないからです(笑)

I still use Audirvāna Origin in “Music Integrate Mode (legacy)” mode (i.e. Audirvana for backend, iTunes/Music for frontend), simply because there is no way to bring statistical data (such as imported date, play count, last played date etc.) to other apps.

Audirvana Origin “Music Integrated Mode (legacy)”

上記余談はさておき、CD 上の音源を PC 上にもってくることで、ディジタルデータとしての客観的な数値やパラメータを目にすることが容易になります。

Returning to the main subject — by bringing the sound source on the CD to the PC, it becomes much easier to see the objective values and parameters as digital data.

今回のお題、「CD におけるモノーラル音源」も、そんな中で気づいたものでした。

The subject here, “monaural sound sources on CDs” was also something I noticed in this context.

2012年7月下旬、あるモノーラル音源のCDをリッピングしている時、トラックによってファイルサイズがかなり違うことが気になったのです。残念ながら、この時の CD がどれだったのか、いまだに思い出せずにいるのですが。

It was in late July 2012, while I was ripping a certain monaural CD (which I still can’t remember it was, though), I noticed that the file size varied considerably from track to track.

PLEASE NOTE / 注

以下、本稿を通じて、「左右チャンネルがバイナリ一致したモノーラルCD」と「そうではないモノーラルCD」との間での優劣について書いているわけではなく、両者の差が生じる要因に純粋に興味があることにご留意ください。

Throughout this article, I am NOT going to discuss “is the true 2-track mono CD (with binary identical channels) better audio-wise than the CD which is not?”, but am just interested in what made this difference.

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2024/08/08

Things I learned on Phono EQ curves, Pt. 24

EQカーブの歴史、ディスク録音の歴史を(私が独りで勝手に)学ぶ本シリーズ。前回 Pt.23 では、1970年代民生用アンプに内蔵されたフォノイコの RIAA 偏差 に関する興味深い記事、および、米国で伝統的に使われていた LCR 録音イコライザの話などを紹介しました。

In the previous Part 23, I learned an interesting article on RIAA deviation of 1970’s consumer amplifiers, as well as LCR recording/reproducing equalziers that had been the legacy especially in the United States.

今回の Pt.24 では、音声信号が最終的にレコードの溝として記録されるまでに通過するシグナルチェーン、そこで使われる機器の歴史的変遷などについて、改めて復習していきます。

This time on Pt.24, I am going to revisit and learn the signal chain from the audio source to the groove cut into lacquer discs, as well as the history and evolution of these.

Recording process flow chart

source: RCA Engineer, Vol. 3, No. 2, Oct.-Nov. 1957, pp.8-9
1957年のRCA社内エンジニア向け紀要に掲載された、録音プロセスのフローチャート
“Recording process flow chart” from 1957 technocal bulletin for RCA’s engineers.

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2024/07/12

“Gruve-Gard” and “Rim-Drive” (T-Rim)

7インチ、10インチ、12インチ。33⅓rpm、45rpm、(ごく一部78rpmも)。我々が手にするレコードのほとんどは、いわゆる「マイクログルーヴレコード」(または「ファイングルーヴレコード」)と呼ばれるものです。

このレコードには、当然ながら、さまざまな規格が関わっています。録音再生特性 にまつわるあれこれもそうですが、レコードの直径、センターホールの大きさ、レコードの反りの許容範囲、音源がカッティングされる最内周の最小半径、溝の形状、レーベルの大きさ、その他あらゆる側面が標準化されています。

1940年代末にマイクログルーヴレコードが登場してからしばらくはレーベルや工場ごとにバラバラだったこれらの特性ですが、それぞれの国で徐々に標準規格化が進み、そして最終的には国際的に統一されていきました。

45/45 ステレオレコードが登場して数年経った頃、1960年代初頭には、ほぼ全ての国で実質的に同等の規格が採用されることとなりました。

例えば 音溝の断面形状・寸法 などは RIAA Dimensional Standards (Bulletin E4) という標準規格で定義されており、民生用レコードにおいては、溝の夾角が90°±5°、溝底半径が最大 0.00025インチ(0.006mm)、溝幅が最低 0.001インチ(0.025mm)、とされています。

一方、レコード自体の形状については、1948年に Columbia が LP をデビューさせてしばらくの間は、従来の78回転盤と同様に、完全にフラットな面を持つマイクログルーヴレコードが大半でした。

しかし、多くの方がご存知の通り、現在製造され流通している盤のほとんどは、断面が完全にフラットではありません。音楽が記録されたエリアに比べて、レコード最外周の「リードイングルーヴ」部分とレーベル部分が厚くなっています。通称「グルーヴガード」と呼ばれるものです。

また、1949年に RCA Victor が発表した、通称「ドーナツ盤」と呼ばれる7インチ45回転盤は、レーベル部分のみが厚くなっています。これは、元々オートチェンジャーでのスタックを念頭に設計されていたためです。

この レコードの断面形状 についても、RIAA Dimensional Characteristics によって規格化されています。

今回は、この「グルーヴガード」について、歴史的経緯を追ってみることにします。

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2024/06/05

Things I learned on Phono EQ curves, Pt. 23

EQカーブの歴史、ディスク録音の歴史を(私が独りで勝手に)学ぶ本シリーズ。前回 Pt.22 では、1950年代以降の 民生用アンプに内蔵されたフォノイコの変遷 について学びました。

On the previous Part 22, I learned the historys — especially the transition of the built-in phono equalizers — in the late-1950s to mid-1960s.

今回の Pt.23 では、1970年代民生用アンプに内蔵されたフォノイコの RIAA 偏差 に関する興味深い記事、および、米国で伝統的に使われていた LCR 録音イコライザ の話などをみていきます。

This time on Pt.23, I am going to learn the interesting article on RIAA deviations of 1970s’ consumer amplifiers, as well as LCR recording equalizers that had been the legacy especially in the United States.

SONY TA-2000F: RIAA Deviation and Pulse Response

source: 季刊ステレオサウンド No.21 ’72 (Vo. 7, No. 2) 特別増刊 プリアンプ・パワーアンプのすべて (1972)

SONY TA-2000F プリアンプ内蔵フォノイコの RIAA 偏差とパルス応答特性
RIAA deviation and pulse response of SONY TA-2000F’s phono preamp

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2024/06/03

Things I learned on Phono EQ curves, Pt. 22

EQカーブの歴史、ディスク録音の歴史を(私が独りで勝手に)学ぶ本シリーズ。前回 Pt.21 では、マイクログルーヴLP登場前から存在している周波数テストレコードの歴史を、録音カーブの視点から学びました。

On the previous Part 21, I learned the history and diversity of “Frequency Test Records”, which had been available since 1930s — i.e. before the microgroove record era.

今回の Pt.22 では、1950年代以降の 民生用アンプに内蔵されたフォノイコの変遷 について学んでいきます。

This time on Pt.22, I am going to learn and study the history of consumer amplifiers — especially the transition of the built-in phono equalizers — in the late-1950s to mid-1960s.

Bell 3030 Schematics (Phono EQ)

source: Scribd.
Bell 3030 アンプの PHONO プリアンプ部回路図抜粋
左チャンネルは Eur / RIAA / LP それぞれに専用フォノEQ回路があるのに、右チャンネルは3ポジションともに同一 (RIAA) 回路となっている
From Bell 3030 Amplifier’s schematic: right channel shares the RIAA de-emphasis circuit among the Eur / RIAA / LP position.

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2024/04/18

LPのオールアナログカッティングとディジタルディレイ

先日、X (was: Twitter) 上で、以下の投稿が話題になっていました。

今回は、この投稿をきっかけとして、具体的な時期や歴史的経緯、実際に使われた機材などを改めて調べ直し、ざっくり簡単にではありますがまとめてみました。

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2024/04/06

Things I learned on Phono EQ curves, Pt. 21

EQカーブの歴史、ディスク録音の歴史を(私が独りで勝手に)学ぶ本シリーズ。前回 Pt.20 では、1954年〜における米国の各レーベルの RIAA 対応状況について各種資料から追いました。また、過去〜現在における EQ カーブ調査の系譜についてまとめました。

On the previous part 20, I looked for trace of how the U.S. labels migrated to RIAA, after the standardization of RIAA Recording and Reproducing Standards in early 1954, by researching various documents and magazines. Also I examined the genealogy of the studies and researches on EQ curves, from past to the present.

多忙等のため少し間があいてしまいましたが、今回の Pt.21 です。もともとは、今回を最終回として、今まで触れられなかった小トピックのほか、ここまでの学びの総括を行い、全体をどのように捉えるのがもっとも論理的整合性が高いと考えられるか、を考察するつもりでした。

After a long absence, here’s the Pt. 21. Initially I was thinking to make this part the summary and conclusion part of the entire series, including some other minor topics, as well as my final consideration of the history of the EQ curves, based on the whole study I have conducted, to find the most logical and consistent.

しかし、その「小トピック」のひとつを書き始めてみると、予想以上に分量が増えてしまったため(笑)、今回は、録音カーブの視点から眺めた「テストレコード」についてのみ扱うことにします。

However, once I started writing one of the “minor topics”, it became longer and longer… so this time I’m going to deal only with a variety of “Test Records”, from the viewpoint of disc recording curves.

ですので、当連載はもう少しだけ続く予定です(笑)

So this series of articles will be continued for a little while longer 🙂

Freq. Response Graph FPR0468H3 of DENON 103-R No. 9076 plotted using JVC TRS-1005

Frequency response graph sheet (Nippon Columbia FPR0468H3) that came with DENON 103-R Serial No. 9076, plotted using JVC TRS-1005 test record.
私が所有する DENON 103-R カートリッジ(シリアル番号9076)に付属してきた、JVC TRS-1005 テストレコードを使った特性グラフシート(日本コロムビア FPR0468H3)

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2023/12/10

Things I learned on Phono EQ curves, Pt. 20

EQカーブの歴史、ディスク録音の歴史を学ぶ本シリーズ。前回 Pt.19 では、1950年代中盤〜1970年代の代表的なカッティングアンプと内蔵録音フォノイコの取説や回路図を調査し、どのように RIAA 録音カーブが実現されていたかを学びました。

On the previous part 19, I learned how the RIAA recording curve was accomplished with various recording amplifiers and built-in recording EQs from the mid-1950s to 1970s.

今回の Pt.20 では、1954年前半に RIAA 録音再生特性の標準規格化が策定されたあと、米国の各レーベルがどのように RIAA に移行していったか、その痕跡を探すと同時に、過去〜現在における EQ カーブ調査の系譜についてもみていきます。

In this Pt. 20, we’re going to look for traces of how the U.S. labels migrated to RIAA, after the standardization of RIAA Recording and Reproducing Standards in early 1954, as well as to examine the genealogy of the studies and researches on EQ curves, from past to the present.

CSL (Columbia Standard Level)

SIDE II, ZRD 431-1A (from my own collection)
COLUMBIA STANDARD CHARACTERISTIC as per R.I.A.A. — N.A.R.T.B. industry norm.
A playback system equalized to this standard should reproduce this record ± 1 db from 10 KC to 30 cycles, and from 15 KC to 10 KC ± 1 db at 6 db below that from 10 KC to 30 cycles.

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